画像提供:マイナビニュース

写真拡大

直近の航空業界トピックスを「ななめ読み」した上で、筆者の感覚にひっかったものを「深読み」しようという企画。今回は、JAL植木義晴社長のA350に関する発言と、タイガーエア・シンガポールとスクートの合併について取り上げたい。

JAL植木社長、大型機はA350に集約すると明言

日本航空(JAL/JL、9201)の植木義晴社長は7月12日、エアバスA350 XWB以外の大型機について、導入する意向がないことを明言した(7月12日: Aviation Wireより)。

○機材を絞ることを明言する意味はあったのか

植木社長のコメント自体には何の異議も反論もないが、あえて疑問を言えば、なぜ今の時点で「将来も大型機はA350以外導入しない」と公言するのだろうか。航空会社にとって、機種選定は一種の生命線である。選んだ機種に機体・エンジンで何らかの重大な支障が出れば導入時期が遅れ、事業計画に大きな狂いが生じる。

とは言え、その辺りは(特に新機種の初期においては)航空会社側も当然リスクヘッジを考え、プランBを用意しておく。予期できない事態を考えだせばきりがなく、後はその"不透明要素の大小・蓋然性"をどう見るか、どんな他のオプションを準備するかになる。

その上で決断を後押しするのは、"リスクに対するリターン"である。特に初期ローンチカスタマーとなる場合、読めないことが大きければ大きいほど、航空会社側はそのリスクを何らかの便益でカバーしようとする。この機体メーカーからの便益をつかみ続けるためには「釣られた魚」になってはいけない、というのが筆者の経験上も需要な教訓であった。

その意味で、大型機はエアバスに、中・小型機はボーイングに絞るということを中期的将来のことを含めて明言するのは、それぞれの機材カテゴリで「釣られた」ことにはなりはしまいか。メーカーに何かを要求しても、「うちしかない機材で要求をのむ必要があるのか」という社内意見が芽生えないとも限らない。他方、早い内に機材を絞ることを明言する意味は何かと言うと、社内的な事情(諸検討作業の軽減等)のほか、「現経営陣の方針が過去とは違うことを世に示す」くらいではなかろうか。

結果的に、事業効率を最適化させるには多くの機種が混在しないことは重要だが、経営上のスケールメリットを考えるならば、一般的に機材数が20機を越えれば、それ以上のコスト効率・生産効率は頭打ちになるとされている。言い換えれば、JALのような大きな機材規模であれば、多少機種数が増えてもコスト増に直結するとは言えず、路線特性に応じた多様な機種選定が可能になる。さらに、種々の場でエアバスとボーイングに経済条件やサービスの質を競わせる、また、そのための企業の環境や立場を維持することは、常に重要なのではないか。

国交省、タイガーエア・シンガポールに外国人国際線旅客運送事業の経営許可

国交省は7月14日、タイガーエア・シンガポールがスクートを吸収合併することに伴い、同社の国際線運送事業を認可した。これは現在スクートが運航している日本発着路線をそのまま引き継ぐだけで、エアラインブランド名もスクートのままであり、運航上、営業上は旅客にとって何の変更もないとしている。

○タイガーエアの救済ありきの合併

タイガーエアとスクートは2016年に予約システムを統合し、2017年後半に事業統合(吸収合併)を予定していたので、7月25日に計画通り統合が完了して事業継承が図られたというとになる。では運航の実態としてほとんど変化がないのに、なぜ統合したのか。

目的はタイガーエアの救済だろう。同社の業績は、このところようやく赤字ラインを抜け出たと言われるが、2014年に230億円超の赤字を計上し、シンガポール航空の連結黒字額に大きく影響を及ぼした。シンガポール航空が増資と買い付けにより、タイガーエアの株式を購入・非公開化して救済に乗り出すとして以降、資金面のみならず、アジア各国に展開したタイガーエアブランドの事業整理に入らざるを得なかったのである。

現在までに、韓国、インドネシア、セブ、オーストラリアでの合弁事業(計画)を中止し、タイガー台湾もチャイナエアの100%子会社となった。タイガーエアグループによるアジア拡大戦略は、残念ながら破綻したと言わざるを得ない。今回のスクートとの合併により、両社の路線・生産資源を整理統合し、スクートの長距離路線とタイガーの短距離路線の最適な結合、人員・設備等の合理化を行うことで、さらに企業体質を改善したいというのが、今回の合併の狙いと言える。

その後、スクートは関空=ホノルル線を2018年に開設するなど、積極的な拡大を計画している。アジアにおけるLCC戦略の焦点が長距離、コネクティビティ(接続利便)に移った現在、スクート、エアアジア、ジェットスターなど自社ネットワークを各国に持つLCCが市場の主役であることは間違いない。その中で、「スクートのためのアライアンス」と言われたバリューアライアンスを他のプレイヤーがどう活用していけるのか、メンバーのひとりであるバニラエアの今後の戦略も含め目が離せない。

○筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。