コミュニケーション手段をコントロールした者が権力を握る――。

 この言葉が真理であるかどうかは分からない。しかし、少なくとも納得させられる表現ではある。

 米ジョン・F・ケネディ政権でスピーチライターを務め、後年歴史家として名を馳せたアーサー・シュレジンジャー氏の言葉である。

 従来型のメディアだけでなく、SNSを含めた最近のコミュニケーション手段の世界的な影響力を眺めると、十分に説得力がある。

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「迅速に動いて物を壊せ!」

 前置きが長くなった。今年5月、米国で『迅速に動いて物を壊せ(Move Fast and Break Things)』という書籍が出版された。タイトルの「迅速に・・・」はフェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ氏が社訓として社内の壁に貼っているフレーズである。

 ただザッカーバーグ氏本人の言葉ではなく、サイエンスの世界では以前からよく使われている表現である。

 このタイトルだけを聞くと、フェイスブックの新たな成功物語の本に思われるが、全くの逆である。副題に「フェイスブック、グーグル、アマゾンは文化を追い詰め、民主主義を弱体化させた」という言葉がついている。

 著者のジョナサン・タプリン氏は3大ウエブサイトが世界のコミュニケーション手段を独占しているせいで、民主主義がいま危機に瀕していると説く。

 5月の刊行以来、米国で議論が起きている。同氏は南カリフォルニア大学アネンバーグ・イノベーション研究所の名誉所長。結論として、3大企業は分割されるべきという議論を展開する。

 多くのネット利用者によって、世界的に絶大な影響力のある3大サイトは弊害と言うより、利便性の高い優良サイトとの印象を持っていることだろう。

 しかしタプリン氏は、3大サイトこそが時代の独占事業者になっており、中小のネット事業者は収益を圧迫されて窮地に追い込まれていると指摘する。

 企業の時価総額の世界ベスト5に、すでに3大サイトは入ってきている。彼らの力はもちろん株価だけではない。

 グーグルは米検索分野の広告収益で77%を占めている。フェイスブックは傘下のインスタグラム、ワッツアップ(Instagram, WhatsApp)などを含めると、モバイルのSNS部門の通信量の75%を奪うまでになっている。

3社の企業買収額は約15兆円

 アマゾンは小売業という観点ではまだ世界最大のウォルマートには及ばないものの、電子書籍の売り上げでは米市場の70%を占める。今後はネットによる物品の売り上げがさらに増えるはずだ。3大サイト(企業)はすでにスーパープレーヤーなのだ。

 3大サイトが独占事業体になっていった経緯にはある共通項がある。他企業の買収である。競争相手だからこそ買収するという動きが頻繁にみられる。

 グーグルは2006年にユーチューブ、2009年にはAdMob、2016年にはApigeeなどを手中にした。フェイスブックは前出のインスタグラムを2012年に、2014年にはワッツアップを買収。アマゾンも2008年にAudibleを、2009年にZappos、2017年にはホール・フーズを買っている。

 ここに挙げた企業は一部に過ぎない。ブルームバーグによると、グーグルの親会社アルファベット、アマゾン、フェイスブック、そしてアップルとマイクロソフトの2社を含めた5社が過去10年間で買収した企業数は436社に上る。

 総額は1310億ドル(約14兆5410億円)という途方もない額である。

 タプリン氏は巨大な独占企業体が誕生した主因は、自由奔放なまでに買収を許してしまった政府の規制力のなさであり、今度は買収にもっと規制かけるできとの立場をとる。

 ただ米国の独占禁止法が誕生した歴史を眺めると、独占事業体と法律のせめぎ合いなのである。

 自由競争を促すことが資本主義の特質であるが、放任することで特定企業が圧倒的に優位な立場にたち、逆に自由競争を阻害する結果に陥ってきた。そのたびに規制をかけるが、また独占企業が登場するという繰り返しである。

 19世紀後半にはすでに最初の独禁法であるシャーマン法が誕生している。シャーマン法の後はクレイトン法、さらに同法改正案などができ、200年以上もの間、同じサイクルを回っている。

良い独占、悪い独占

 資本主義社会では、独占という行為は十分に警戒しなくてはいけないが、必然とも言えるのだ。

 オンライン決済サービス、ペイパル創業者ピーター・ティール氏が2015年に来日した時、次のようなことを述べている。

 「独占には良い面も悪い面もあるのです。何か新しいことをやり始めている時の独占は構わないでしょう。アップルが「iPhone」を開発した直後は良い独占と呼べると思います」

 「何しろ、アップル以外の会社で高機能のスマホを開発したところはなかったわけですから。結果として独占状態が生まれただけで、故意に生み出したわけではないのです。でも郵便局のような独占は良い独占とは呼べないと思います」

 ただ独占事業体によるビジネス界での弊害は筆者が述べるまでもないだろう。

 例えば、グーグルが買収したユーチューブはストリーミング・ビジネスの55%を占めているが、収益の11%しか制作者に支払っていないとタプリン氏は書く。

 同氏が挙げる解決策の1つは、グーグルのような汎用性の高い技術を持つ企業を公共企業に転化させるべきというものだ。

 検索アルゴリズムを他分野でのイノベーションに生かすのだ。特許を安価なライセンス料で使わせることは悪いアイデアではない。

 過去に好例がある。1930年頃から数十年間も通信技術のトップリーダーだったAT&Tのベル研究所は、コミュニケーション手段の開発・発明で多くの特許を得ていたが、ある時期に方向転換をする。

社会の反発は分かりながら止まれない

 1950年代から60年代にかけても開発・発明が途切れなかったこともあり、56年に8600件あまりの特許を無償で公開したのだ。それによって半導体、ソーラー、レーザー、携帯電話、コンピューター言語、人工衛星分野などで米国はイノベーションがさらに進むのだ。

 シリコンバレーにIT企業が参集することになった発端もそこにあると言われている。タプリン氏は21世紀になっても同じことができると力を込める。

 3大サイトは新しいシステムを作り出して社会に広めたという点で画期的である。しかもグーグルやフェイスブックが提供するサービスは無料だ。

 とはいえ、現時点でコミュニケーションの世界はより強い寡占化が進んでおり、富の集中という点で大きな格差を助長している。

 3大サイトの経営陣は基本的にリベラルで、環境保護を訴え、オバマケアを推してきた。同性愛の婚姻にも賛同している。こうした若いリベラル派は本来、米国の積年の課題である社会格差や市場の独占に取り組むはずに思われた。

 しかし自分たちが独占事業体になると、社会からの反発があることが分かっていながら、コミュニケーション手段をコントロールして権力を握る側に回ってしまった。

 彼らに自分たちを壊すことはできるだろうか――。

筆者:堀田 佳男