「モノのインターネット」と呼ばれるIoT。漠然とした概念を理解できていない人も多いかもしれない。しかし、否が応にもIoTは日常に現れ、市場を破壊・創造していく。『人工知能は私たちを滅ぼすのか 計算機が神になる100年の物語』(ダイヤモンド社)が話題になった児玉哲彦さんは新著『IoTは“三河屋さん”である IoTビジネス教科書』(マイナビ出版)の中でIoTのわかりやすい説明とともに、生活がどのように変わっていくかを説明している。

今回はIoT Todayがメディアパートナーとなり、この新著の出版記念トークイベントが開催された。その中でのトーク内容について紹介していこう。

『IoTは“三河屋さん”である IoTビジネス教科書』(マイナビ出版)の出版記念トークイベントを開催した


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70億のデバイスがインターネットにつながる時代

「今回の本はタイトルの中で“三河屋さん”というキーワードが入っていますが、それがIoTの一番わかりやすいイメージなんです。IoTというものは技術なので、それが実際の生活に入ってくることを意識する必要があるのですが、それが三河屋さんなんですね。実際に自宅に三河屋さんが来る家庭は少なくなったと思いますが、生活の一部に御用聞きがいるというイメージは具体的にできる人が多いですよね。親密で継続的な関係、それがIoTも同じなんです」

児玉さんはIoTが生活の中に溶け込むと強調する。今はインターネットにアクセスするために自分からアクションを起こし、端末に意識を向ける必要があるが、IoTが溶け込んだ生活ではちょうど良いタイミングで受動的にアクセスできるというわけだ。

すでにインターネットにつながる端末数は70億を超え、人口を上回っている。生活と切り離せない存在になってきていることは疑う余地がないだろう。

ハード制作からプラットフォーム構築へシフトせよ

そんな未来を迎える社会で、児玉さんが危惧しているのは日本のモノづくりだった。

「日本は製造業が強かったし、モノを作る事業者も多い。だけど、IoTの世界になると変わらざるを得ないですね。高精度なもの、高品質なものを追い求める職人気質なモノの作り方ではいけないのではないかと思います」

そこで児玉さんが例として挙げたのが音楽だ。

「SONYのウォークマンは日本だけでなく、世界中でその精度の高さが認められています。ですが今世界中で多くの人が音楽を聞いているのは、iPod、iPhoneです。ここで注目したいのはiPodそのものだけでは、無価値だということ。音楽を入れることすらできないんです。iTunesで音楽をダウンロードしたりすることでやっと価値が生まれる。バリュー全体を形成するようなサービス、サービス主体の事業に製造業から変わっていかなくてはいけないということです」

ハードだけ作るという時代は終わったということだろう。また、ハードにこだわりすぎることのデメリットも児玉さんは指摘する。

「アクションカメラも流行りましたがハードだけ作っても真似されてしまいます。そのカメラがどういったサービスとつながっているかということが大事です。さらに細かく言うと、製造業は高品質なものを目指していますが、そうじゃなくていいというのがIoTです。iPodは単純な仕組みやインターフェイスを持ち、世界中で広がりました。高品質で高額なものでは世界中に広がらない。まずはプラットフォームを取るのが大切です」

児玉さん(左)が語るIoTビジネスの展望に参加者は真剣に耳を傾けていた


IoTの真価を感じさせるプロダクト

このトークイベントには書籍の中にも登場しているパナソニックの焙煎機『The Roast(ザ・ロースト)』の開発者の一人である山本尚明さんもゲストとして参加。ザ・ローストはIoT×調理家電を活用した新しい“食”のサービスで、家庭にコーヒーの生豆が届き、その生豆にプロの焙煎士によるプロファイルが付属し、家庭でもプロの技で焙煎できるというもの。

ザ・ローストの説明をするパナソニックの山本尚明さん


Bluetoothを介してスマートフォンと接続し、その先のインターネットにも繋がることができるザ・ロースト。

「つまりはIoT焙煎機だ」と児玉さんは言う。そして「日本のメーカーの中ではIoTの概念を深く理解しているサービス」と続ける。

The Roast(ザ・ロースト)は、毎月自宅に届く生豆と、豆に合わせた焙煎工程(プロファイル)、焙煎機本体がセット。これによりプロの焙煎技術を再現、本格的なコーヒーの味や香りを楽しめる世界初のサービス


山本さんは「本サービスでは、調理家電としての機器に加えて、厳選された食材とプロの技で、家庭で極上のコーヒー体験ができることを目指しました。他の食材・料理と比べても、コーヒーの焙煎は、焙煎士ごとの技を楽しむ文化が日本でも人気です。IoTの仕組みを使えば、生豆と焙煎のプログラムをセットで届けることができ、焙煎士の方の技を家庭に届けることができます。その年の豆によってもやはり焙煎プロファイルが違うので、そこを共有するためにIoTを使うのは、すごく相性がいいんです」と話す。

実際にイベントではザ・ローストを使っての焙煎が行われ、そのコーヒーを飲むことができた。会場中に広がる良い香りはやはり家庭で味わったことがないもの。パナソニックとしてはこういったサービスをさらに拡大していきたいということだ。

ザ・ローストの焙煎によって淹れられたコーヒーはお店で出されるもののように本格的な香りと味わいだった


最後に児玉さんはこうまとめる。

「今までの閉塞感をIoTを使ってなんとかできると考えがちだけど、モノづくりの付加価値として考えてはいけません。繋がればいいというわけではなく、繋がったことで利点が増えましたというのはおかしい。今までの日本のモノづくりの考え方は付加価値をつけるという考えですが、それを変えていく必要があるので、ザ・ローストのようなサービスが広がればいいなと思いますね」

美味しいコーヒーを飲みながらIoTの未来について語り合う児玉さんと山本さん。親しい間柄だということで、今回のトークイベントもここでは紹介できないようなディープな話で盛り上がった。

『IoTは“三河屋さん”である IoTビジネスの教科書』
[著者]児玉哲彦 [出版社]マイナビ出版
本体850円+税・224ページ・新書判・ISBN 978-4-8399-6305-7

IoTについて、わかりやすい説明とともに、我々の生活にどのような変化をもたらすのか、ビジネスパーソンを中心とした読者が関わるビジネスにどのように影響するのか、どのような戦略を構築すれば良いかを解説する。

 The Roast(パナソニック)

筆者:IoT Today