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きわめてストイック

それは南フランスのとても暑い日のこと。ルノー・ゾエe-sportのキャビンには車内を冷却するベンチレーションはない。いや、このEVの車内には、何も無いといってもいい。

しかし発見したこともある。ふたつのペダル、ステアリング、デジタルディスプレイ、そして、十分過ぎる462psと65.2kg-mから繰る出されるパフォーマンスを自在に設定することができる3つのロータリー・スイッチはある。112km/hでホイール・スピンを誘発させることができることも、あとから発見した。

ジュネーブ・モーターショーで発表され、そしてより最近では、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにおいて披露された、ワンオフのプロトタイプ「ゾエ e-sport」は、ゼロ・エミッション・スーパーミニの標準モデルのよりも、同社のEVの頂点であるフォーミュラEに近い存在である。

このクルマが持つふたつの電気モーターは、それぞれの駆動輪に設置されており、レーシングカーの持つ大容量パーマネント・マグネット・テクノロジーを共有しているが、レギュレーションによって出力が抑制されているレーシングカーよりも186ps高いパワーを発揮する。

車体はカーボンファイバー製で、チューブラーシャシーは、レーシングカーのスペシャリストであるトーク・エンジニアリング社によって造られている。サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーンで、オーリンズ製の4ウェイ調整式ダンパーが備わる。

内外装をじっくり観察

アグレッシブな外観は、標準のゾエよりも空力を追求した結果である。フロント・エアダム、フラットな車体底部、フォーミュラEに触発されたリアディフューザーやカーボンファイバー製のリアスポイラー等である。

内装は、レカロのバケットシート、ハーネス、電子機器類が装備され、レーシングカーそのもの。しかし、電子機器類は後部に上手く隠されているため、その存在を垣間見ることはできない。

不要なものが剥ぎ取られたキャビンをみると、このクルマは相当軽いのではないかと察するが、床に位置するふたつの20kW/hリチウム・イオン・バッテリー・パックが450kgと重いため、総重量は1400kgにも達する。

しかし、十分なトルクで、ゾエ e-sportは100km/hに到達するまで3.2秒を要するに過ぎない。さらに驚くことには、200km/hに到達するまでに10秒かからない。これは、ポルシェ911ターボSよりも速いことを意味する。

圧倒的で、ギアチェンジの不必要な加速と、ホットハッチの未来がどんなものかを探るために、われわれはヴィエンヌ・サーキットへ出向いた。この素敵なサーキットは、リオンの南東約56kmのオートサボア・ローヌ・アルプの丘に造られている。

いざ、走りだそう

コースに入る前に、エンジニア達からの入念な事前説明を受けた。このクルマのAPレーシング製ブレーキは、本格的なレース仕様であり、アシストはされていない。

電動パワーステアリングは、中速コーナーで妙な操舵性をみせる上に、シャーシのセッティングもまだこれからのようだ。それに、座席の下にあるバッテリーを常温に保つためには、クールダウンラップが欠かせない。

e-sportの機動は比較的シンプルである。シートの間に位置する大きな赤いキルスイッチに組み込まれている鍵を押して、3つのうちの、ドライブと最大パワー用のふたつのロータリー・スイッチで選択し(3つ目のスイッチはブレーキのバランスを制御するものであるから、最も安全な設定に固定されていた)、ハンドブレーキを解除するだけである。

止まっている間は、古いアナログテレビのような、高周波のヒューという音がする、断然大きいが。アクセルを踏み込むと、その音は大きくなると、濃いモーターの回転音を伴う。ギアのブンブンという音もまた濃く、スピードと共に、ピッチが変化する。

レース用にチューンされた内燃焼機関のエンジンの音とは比べ物にはならないが、それが不在でも、瞬時に反応するドライブトレインを経験してしまえば、そんなことは忘れてしまうだろう。

強烈、無音の刺激

独立して設置されているモーターは、つま先に直結しているかのような、瞬時の反応を示す。極小の動きでも、全くの遅れが無く、パワーがデリバリーされる。機械的振動などいつか忘れてしまい、ハイパー・リアクティビティの虜になっていることであろう。

普通の速度では、剃刀のような切れ味をみせ、アクセルを踏み込み80km/h、100km/h、120km/hと速度を上げていくと、20インチホイールに組み込まれた、公道用のミシュラン・パイロット・スーパー・スポーツが前触れもなしにブレイクし、トラクションを得る前に空転しながら前に進み始めるのである。この癖になりそうな、切れ目の無い加速は、最高位のスーパーカーで体験できるそれと同じものだ。

アクセルを踏む右足には細心の注意を有する。さもなければ、グラベルのトラップで立ち往生してしまう失態を演じてしまうであろう。

少しの舵角がついていても、不用意にパワーをかけてしまうと、フロントタイヤは悲鳴を上げ、アンダーステアを誘発する。このクルマのパワーは、グリップを遥かに超えていることに気がついたので、ステアリングとアクセルの操作をていねいに行うことを心掛けると、e-sportはわたしの手足のように動き出した。

このクルマを繰る事が楽しくないわけがない。

しかし、ゾエ e-sportが持つ本質的な問題からは逃れることができなかった。

大きな課題

その問題とは、ドライビング・レンジのことである。

エンジニア達が認識しているのは、このクルマを全開にすると、1ラップあたり、10%のバッテリーを消費することである(アウト・ラップとクールダウン・ラップを含む)。

これは、わずか8回のコースインを意味する。ホットハッチはもっと長く、ドライバーと格闘するためにコース上にいるべきであるが、この問題を解決することは簡単ではない。

コンパクトなハッチバックということと重量配分を考えると、大きなバッテリーを搭載すればいいというわけではないのもモンダイである。

ゾエe-sportは、電気ホットハッチの全開のパフォーマンスとドライビングレンジが今のところ両立していないことを示している。

バッテリー技術の進歩に期待するしかないが、今回の経験では、将来電気ホットハッチが実現可能となった時、それを運転することが心底楽しいものになることを示唆していることが明らかになった。