BOMIの『彼女の人生は間違いじゃない』評:スカッとするわけではないけれど、確実に何かが残る

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 BOMIが新作映画を語る連載「えいがのじかん」。第8回となる今回は、廣木隆一監督が自身の小説デビュー作を自ら映画化した『彼女の人生は間違いじゃない』をピックアップ。(編集部)

参考:瀧内公美&高良健吾『彼女の人生は間違いじゃない』インタビュー 瀧内「脱ぐことが表現の一部だと感じた」

 『彼女の人生は間違いじゃない』は廣木隆一監督の意気込みを感じた作品でした。廣木監督は少女漫画原作の大作もたくさん撮られていますが、今回のような作品こそ、自分が本当にやりたい作品なのではないでしょうか。そのバランスをうまくとっている監督という印象です。

 この作品の主人公みゆきは、福島の市役所で働きながら、週末になると、デリヘルのアルバイトをしに高速バスで東京に向かいます。映画では、そんな彼女の福島と東京での日常や、彼女の周りを取り巻く人々の姿が群像劇として描かれていきます。テイストとしては廣木監督が2015年に発表した『さよなら歌舞伎町』に近い。風俗嬢もそうですが、扱い方を一歩間違えれば大変なことになってしまうような際どい題材を取り上げながら、きちんと映画として消化されています。人間のみっともない部分というか、弱さみたいなものがうまく表現されていると感じました。

 言葉にすると、何かが急激に変わるわけではないけど、それでも生きていかなければいけないから生きていく、という感じでしょうか。すごく気持ちが晴れるとか、何かがスカッとする映画ではない。だけど確実に何か残るものがある。震災があった福島が舞台になっていますが、それも廣木監督の故郷ということで、本当に知っている人にしか描けない作品になっていると思います。押し付けがましさがまったくない。特に題材が題材なだけに、「これはこうだ」みたいな主張が強いと反発も買ってしまいそうですが、“今の福島を伝える”という監督の思いが伝わってきました。東京にいると、もう“終わってしまったこと”のようにもなってしまっている福島の現状に、改めて目を向けるきっかけになる作品だと思います。しかも、1回だけではなく何回か観ることによって、普段は気づけないような些細な変化もより感じることができる。そんな作品です。

 廣木監督の思いに応えてか、脇は廣木監督作品の常連俳優で固められています。皆さん受ける演技がとても上手く、光石研さん、柄本時生さん、高良健吾さんなど、もう安心して観ていられます。光石さんは「さすが」としか言えません。光石さん演じるお父さんが震災による津波で亡くなった妻の話をするシーンがあるのですが、字面だけセリフで読んだら背景が入ってこなくなってしまいそうなところを、光石さんの演技によってその風景が見えてくるようになる。本当にすごい俳優さんだなと思います。中川龍太郎監督の『愛の小さな歴史』とかもそうでしたが、お父さん役に磨きがかかりすぎています。高良さんの独特の存在感も作品全体に効いていました。

 そんな廣木監督作品の常連俳優がほとんどの中、オーディションで主演に抜擢されたのが瀧内公美さん。実は私、公美ちゃんとはプライベートで仲がいいんです。なので、撮影の大変さなんかも前々からよく聞いていたのですが、画面の向こうから彼女の並々ならぬ思いがものすごく伝わってきました。

 これだけのキャストの中で主演を張るプレッシャーは相当なものだったと思いますが、本人の気の強さも知っているので、その負けん気がうまく作品に反映されたのではないでしょうか。お芝居がとても上手な女優さんだけど、今回はお芝居することをあまり求められなかったんじゃないかなという印象です。お芝居お芝居していないというか、ゴロッとした感じを求められたんじゃないかなと。技術があるのにそれを手放すのはものすごく怖いことだと思うので、彼女にとっても大きな挑戦になったのではないでしょうか。明らかに痩せていく後半になるにつれて、どんどんよく見えていきました。最後の方で、気持ちがふわっとする瞬間みたいな表情をするんです。ものすごくリアリティのある表情をしていたのがとてもよかった。

 ラブシーンもR-15で大丈夫?というぐらい、かなり攻めていました。R-18じゃなくていいの?という感じ。ちょっとビックリはしましたが、作品の中でラブシーンが浮いているということもありませんでした。むしろ公美ちゃんはラブシーンの時の演技が1番柔らかかったかもしれません。脱ぎ方とかも妙な肉感やエロティックさをわざと演出していない感じで、日本の映画によく出てくるようなラブシーンではなく、海外の映画のような印象を受けました。

 もちろん彼女が脱いでいることで話題になっているところもあると思うのですが、大切なのはそこではない。ちゃんと映画として評価されてほしいなと思います。それがまっすぐに観客の方々に届くといいなと個人的には思います。消費されない映画であってほしいというのと同時に、たくさんに人に観られるべき映画だなと。

 ひとりの友人としても、公美ちゃんは本当に頑張ったなと思います。彼女は脱ぐことに対して抵抗がないタイプではないので、本人もいろいろと考えただろうし、それだけにこの作品にかける思いも大きかったのではないでしょうか。彼女自身のもどかしさもきちんと役に活きていたし、私がこれまで観てきた彼女の出演作の中では、1番弱々しく感じて、それがよかった。

 ただ一方で、もっとできたんじゃないかなという気もします。彼女の実力はこんなもんじゃない。この作品は彼女の代表作になると思いますが、私としては彼女の今後につながっていく作品になってほしい。本当に何でもできる女優さんなので、大きな経験になったであろうこの作品を通して、今後も活躍してほしいなと思います。(BOMI)