共演した満島ひかりと永山絢斗

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 女優・満島ひかりが、鹿児島・奄美群島加計呂麻島(かけろまじま)を舞台にした「海辺の生と死」(公開中)で4年ぶりに映画単独主演を果たした。鹿児島市で生まれ、もうひとつの故郷を奄美大島に持つ満島。自らのルーツに立ち返るような今作で、相手役の永山絢斗とともに死の予感のなかで生まれたはかない恋を演じた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

 第2次世界大戦末期に海軍中尉として鹿児島・奄美群島加計呂麻島に赴任し、戦後は作家として活躍した島尾敏雄の「島の果て」や、妻で作家の島尾ミホの第15回田村俊 子賞受賞作「海辺の生と死」の一編「その夜」など、島尾夫妻をモデルとした人物が登場する書籍を原作に映画化。ミホをモデルにした大平トエ(満島)と、敏雄をモデルにした朔中尉(永山)の出会いと情熱的な恋、そして終戦時の日本を描いた。

 メガホンをとった越川道夫監督から「(ミホ/トエは)誰もが演じていい役じゃない。今やるなら満島さんしかいない」と絶大な信頼を寄せられた満島。今作の企画を聞いた際は、「越川さん、島のこと描けるの? と(笑)。私にはなじみの深い場所なので、『奄美の海は群青色だよ』『空はどちらかというと曇りがち』ってずっと言っていました」といたずらっぽい笑みを浮かべる。しかし、いざ脚本を読むと「島のこと知っていた! って偉そうに(笑)。これは、まずいことになってしまったぞ、と思いました」と身を引き締めた。

 対する永山は、「(原作を)読んだことがなかったですし、越川さんや満島さんの島への思いみたいなものが、僕にはまったくない状態で台本を読んで。情景も浮かんで来ず……」と苦笑い。「空気のやわらかさとか、葉っぱの色とか、あの島にしかない色や目に見えないものが、現場に入ってからすごくわかったというのが強かったです」「とりあえず坊主にして、クランクインの数日前に入りました。それしかもう方法がないと思いながら台本を読んでいました」

 ミホは敏雄の私小説「死の棘」に登場する狂える妻として広く周知されているが、今作ではそれ以前の、死に行く運命の男性をひたすらに愛するはかなくも強い女性を描いた。

 満島は、加計呂麻島で神女と呼ばれているミホを「人と自然との間にいて、恋をして自分を知り始めて、パワーを身につけた人」と表現する。「好きな人と一緒にいられれば、生きていても死んでいてもどっちでもいいくらいの強さがあるように見えたらいいなと。ミホさん自身がどうだったかはわかりませんが、人間であるトエと、かつての奄美大島という両方の役柄を私はやっていると思いながら撮影していました」

 一方の永山は、無謀とも思える特攻作戦を遂行するために島にやってきたものの、愛を知ったことで生きることへの執着が生まれた朔の心情に思いを馳せる。

 「優しい気持ちや破滅的な感情を持ち合わせていて、特攻する日が近づいていくなかで2人の恋も燃え上がっていくというつらさがありました。島にいるときは、気がどうにかしていたというくらい、その時代を生きているような気持ちになっていることが多かった。(特攻艇の)震洋を見ると鳥肌が立つんです。こんなので特攻したって、結果は目に見えているんですよね。実際にも2、3隻くらいしか(敵に)当たっていないらしいです」

 「その夜」を原作にした朔が特攻する夜を描いた場面は、2人の断ち切れない思いを強烈に映し出し、一段と真に迫る。トエが自決を覚悟し、浜辺で泣きながら朔に駆け寄るシーンが心を締め付けるが、当の2人は「楽しかったです。大変でしたけど(笑)」と至って朗らかだ。

 満島「ミホさんと敏雄さんは、お互いに人生のヒロインとヒーローを見つけたように出会っているから、あの場面はどこかお芝居がかっていて、本当よりももう少し上の本当というか。何度やってもたどり着かなくて、私がストップしたり、永山くんがストップしたり。奄美大島では祭りの時期なんかに相撲を取るんですけど、私たち、相撲を取っているみたいでした(笑)」

 「このシーンでクランクアップだったんです」と話す2人の顔は“走りきった”という達成感に満ちている。戦時中の話ではあるが、語られたのは“生”への執着と“死”への恐怖を超越した究極の恋の物語。奄美大島の美しい自然が、戦争の愚かさを画面いっぱいに伝えてくる。

 満島「日本に古くから残っている美しいものとか、恐ろしいものとか、秘密めいたことが、もうだんだん映像には残せない時代になってきている気がしています。祖母たちの時代の秘密めいたしきたりや歴史、文化を作品のなかにどうにか残せないかと思って、ご年配の方にも足が重いなか出演していただきました。きっと、見る方それぞれが感じられる愛の映った映画だと思います。ぜひスクリーンで(笑)。波の音も木々も美しいですよ」