8月といえば「夏枯れ」で為替相場はあまり動かない、というイメージがあるかもしれません。世界的に夏休み(や日本のお盆)で市場参加者が減るからです。しかし、参加者の減少で取引が細ることは、相場が動かないことと同義ではありません。ここでは、近年の経験を振り返ってみましょう。

ブレグジット決定後の8月は落ち着き

 2016年は、6月23日の英国民投票における欧州連合(EU)離脱(=ブレグジット)決定を受けてポンドが大きく下落した後、8月の為替相場は比較的落ち着いていました。ただし、8月ではありませんが、7月の最終営業日である29日には、米国内総生産(GDP)統計(4〜6月期)が市場予想を下回ったことで、ドル/円が1日で3円以上も下げました。

 2015年8月には、中国当局が事実上の人民元切り下げを実施した「チャイナショック」が発生。8月中旬〜下旬の2週間で、日米ともに株価が10%以上も下落しました。ドル/円はほぼ同じ期間に9円ほど下げ、下旬には1日で6円近く下落した日もありました。

 2012〜2014年の8月は比較的平穏で、とりわけ、2014年8月のドル/円の月間高低差(最高値と最安値の差)は3円弱、2012年8月は同じく2円弱といずれも非常に小幅でした。

 2011年は米財政危機が発生し、4月に政府の債務残高がデットシーリング(法定上限)に到達。新たな借り入れができなくなり、5月になって財務省が特別な措置を講じて資金のやり繰りをしていました。そして、8月2日に限界が来ます。つまり、2日を過ぎれば、政府がデフォルト(債務不履行)に陥るとの危機感が高まったのです。

 結局、8月2日にデットシーリングが引き上げられ、デフォルトは土壇場で回避されましたが、その後もS&Pによる米国債格下げ(5日)などの余震がありました。米ダウ工業株30種平均は、7月下旬の高値から8月上旬の安値まで17%近く下落。4月の高値からジリジリと値を下げていたドル/円は、デフォルト回避でいったん反発しましたが、その後の格下げなどを受けて8月下旬までに4円以上も下落しました。

ロシアゲートや東アジア情勢が引き金か

 リーマン・ブラザーズの破綻(「リーマン・ショック」の発生)は2008年9月でしたが、8月下旬にはファニーメイやフレディーマックといった米政府系住宅金融機関の株価が、住宅ローンの焦げつき懸念から大きく下げました。その1年前の8月には、サブプライムローンの焦げつきからフランス系のファンドが凍結されるという「パリバ・ショック」が発生、これがリーマン・ショックのプロローグだったといえるでしょう。

 さらに遡れば、1998年10月に米ヘッジファンドのLTCMが破綻しています。これをきっかけに、当時隆盛だった円キャリートレードの急激な巻き戻しが発生し、ドル/円が1日で10円以上下落する日もありました。事の発端は、同年8月にロシアがデフォルトに陥ったこと。前年7月に発生したアジア通貨危機とそれによる資源価格の下落などによって、同国の外貨準備が急激に減少したことがデフォルトの背景でした。

 ことほどさように、過去には「閑散」の8月にもショックが起き、相場が大きく動いたケースがありました。さて今年の8月はどうでしょうか。考えうるのは、ロシアゲートなどトランプ米大統領絡みでの新たな、それも劇的な展開か、東アジア情勢の急変、ドル安を標榜する「新プラザ合意」などでしょうか。もっとも、凡人の想像をはるかに超えるからこそ「ショック」なのでしょうが。

(株式会社マネースクウェア・ジャパン チーフエコノミスト 西田明弘)