テレビ業界に「夏枯れ」という言葉があるのをご存じでしょうか。夏は旅行やイベントに出かけるなどして在宅率が低くなり、「毎年視聴率が下がる時期」と言われているのです。

 また、春や秋、冬に比べると、テレビ番組のキラーコンテンツである「食」も不作の時期で、うなぎなどのスタミナ料理やかき氷、激辛メニューくらいしかネタがありません。さらに、世界陸上や世界水泳、4年ごとに五輪やサッカーワールドカップが開催されるなどスポーツのビッグイベントも多く、番組表が不規則になって視聴習慣が乱れやすいのです。

 いわば、「夏はテレビ局にとって鬼門の季節」であり、テレビマンたちは長年にわたって試行錯誤を繰り返してきました。しかし、これといった解決策を見つけることができず、今年も各ジャンルの番組で迷走が見られます。

「海も学園もない」連ドラのテーマに迷い

 迷走の筆頭が連ドラ。「外出が多く、スポーツイベントで中断される=毎週見てもらえない」のは連ドラにとって致命的な問題であり、「夏枯れ」の影響を最も受けやすいジャンルと言えます。

 実際、今夏の連ドラは、「カンナさーん!」(TBS系)「過保護のカホコ」(日本テレビ系)の家族モノ、「コード・ブルー」(フジテレビ系)「遺留捜査」(テレビ朝日系)の名作続編、「セシルのもくろみ」(フジテレビ系)「黒革の手帖」(テレビ朝日系)の女性バトル、「僕たちがやりました!」(フジテレビ系)の青春サスペンス、「ごめん、愛してる」(TBS系)の韓流ラブストーリー、「愛してたって、秘密はある。」(日本テレビ系)のラブサスペンス、「警視庁いきもの係」(フジテレビ系)の刑事+動物と、作品のテーマがバラバラ。

 かつて定番だった「GTO」「WATER BOYS」のような学園モノ、「ビーチボーイズ」(フジテレビ系)「海猿」(同)のような海が舞台のものなど、夏を感じさせる作品がありません。ドラマ制作のスタッフたちは、「夏にどんなテーマを選べばいいのか」わからなくなっているのです。

スポーツと音楽の大型特番が多い理由

 次に、情報番組の問題はネタ不足。各局のテレビマンたちが頭を痛めて考えた結果、選ばれるのは、猛暑、ゲリラ豪雨、夏バテ対策、快眠グッズ、海やプールの事件簿、渋滞、迷子などの浅堀りニュースばかり。番組ごとに少しずつ切り口を変えてはいますが、朝から夜まで深掘りすることなく、淡々とこれらのテーマを放送しています。

 バラエティー番組は、普段芸人を大量起用していることが夏に限っては裏目に出がち。「開放感のある夏だから」とはしゃぐと「暑苦しい」、お笑いの要素を抑えると「物足りない」という苦情が寄せられるなど、演出のさじ加減が難しいのです。

 芸人の目線で見ても、夏は「海」「花火」「夏休み」「ひと夏の恋」など、より季節性の高いトークテーマを求められて苦戦する時期。新たなエピソードを準備するのが難しい上に、「じっくり話を聞く」ほかの季節とは異なり、短めの話をテンポよくしゃべることを求められてスベってしまうことも少なくありません。

 連ドラ、情報番組、バラエティー番組が苦戦必至の夏で、テレビ局にとって最も無難なジャンルは、スポーツと音楽。どちらも夏の大型特番が多いのは、「他ジャンルの番組が視聴率とテーマの両面で難しいから」という苦しい理由があるからなのです。

 余談ですが、民放各局は「外出が多くてテレビを見てもらえないなら、イベントで稼ごう」と、社屋周辺で開催する夏のイベントに力を入れているのです。

「夏休みにわざわざ見てもらう」ために

 ただ、必ずしも悪いことばかりではありません。厳しい季節だからこそ、時折思ってもみなかったようなヒット作が飛び出すこともあります。

 それが顕著なのが連ドラ。2005年の「電車男」(フジテレビ系)、2014年の「昼顔 〜平日午後3時の恋人たち〜」(同)は、斬新なテーマで世間の注目を集め、夏の話題をさらいました。

 そして極めつきは、社会現象となった2013年の「半沢直樹」(TBS系)。当時、ビジネスの世界を扱ったドラマはほとんどなく、放送前は「失敗するのでは」という声も少なくありませんでした。そんなテーマに思い切って挑戦できたのは「夏だからこそ」であり、「他番組の苦戦が快進撃をより際立たせた」とも言えるでしょう。

 前述したように、テレビ局にとって夏は番組を見てもらいにくい時期であることに間違いありません。しかし、会社と学校が夏休みの時期という事実もあり、だからこそ「半沢直樹」はヒットどころか、ほかの季節を上回る今世紀最大のホームランとなりえたのでしょう。夏にはテレビ番組以外のさまざまな楽しみがある中、「わざわざ見る」という状況をいかに作るかが、ほかの季節以上に問われているのです。

 チャリティーの内容をめぐって賛否両論はあるにしても、毎年8月下旬に放送される「24時間テレビ 愛は地球を救う」(日本テレビ系)が年間視聴率ランキングのトップ10に入る高視聴率を獲得していることからも、「わざわざ見る」ことの重要さがわかるでしょう。

 連ドラ、特番のいずれにしても、今夏にヒット作は生まれるのか。視聴率の高低にかかわらず、あなたなりのヒット作を探してみてはいかがでしょうか。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)