前作から約4年の期間を経て、2017年10月19日に「グランツーリスモSPORT」が日本でも発売されます。それに先立つ7月後半にはメディアを対象としたポリフォニー・デジタル社内見学ツアーとグランツーリスモSPORT試遊イベントが開催され、その際に同シリーズを生みだした山内一典氏にインタビューできる機会があったので、最新作で目指したことやその裏に秘められた開発秘話、そしてこれから先のグランツーリスモのあるべき姿などについていろいろ伺ってきました。

グランツーリスモ・ドットコム

http://www.gran-turismo.com/jp/products/gtsport/

GIGAZINE:

本日はよろしくお願いいたします。

山内氏:

よろしくお願いします。



GIGAZINE:

私は自分がクルマ好きということもありまして、初代「グランツーリスモ」が1997年に登場した頃からほぼ全てのタイトルをプレイしてきたんですが、初代から「グランツーリスモ2」になり、さらにPlayStation 2プラットフォームの「グランツーリスモ 3 A-Spec」が登場するたびにシミュレーションが進化し、グラフィックが進化し、そしてゲームのモードが増えて、というふうに常に新しいものが取り入れられてきたと思います。さすがにここ数作、特に前作の「グランツーリスモ6」ではもう「完成」の域に達していて、「これ以上どう進化するのだろう」と思っていたのですが、今作ではどのあたりをユーザーに楽しんでもらいたいと思って開発されてきたのでしょうか?

山内氏:

この「グランツーリスモSPORT」というのは、新しい世代のグランツーリスモの始まりなんです。だから僕らの気持ちとしては、GT1(初代グランツーリスモ)を作ってる時の同じ気持ちなんですよね。で、「新しい時代のグランツーリスモ」とは何かということなんですが、過去20年にわたっていろんなチャレンジを繰り返してグランツーリスモを作ってきて、その中で「本当に大事なものは何か」ということがわかってきました。その大事なものだけをピックアップしてエッセンスを凝縮し、「スポーツ」モード、あるいはHDRグラフィックスの世界である「スケープス」といった、これからの時代や未来を変えていくような新しいモードを足して、それらを整然とインテグレート(統合)したのが「グランツーリスモSPORT」(以下"GT SPORT")です。

グランツーリスモって、毎回新しいものが出る時も実験的な要素が多くて、ある種の「混沌とした部分」もどこかに残っているというタイトルなんです。今回のタイトルは開発にじっくりと時間をかけたこともあって、新しい要素とこれまであった要素をすごくユーザーにとって快適な形でインテグレートできたんじゃないかと考えています。そしてこれが、新しい時代のグランツーリスモのスタンダードなんだろうとな思っています。

GIGAZINE:

なるほど。いま「じっくりと時間をかけた」ということなのですが、一番苦労されたという部分はどのあたりだったのでしょうか?

山内氏:

えっとですね、グランツーリスモの開発っていつも大変で、「どこかが楽」ってことはまったくないんですね。開発の中では「クルマそのもの」や「コース」などのさまざまな要素が膨大にあって、それらをひとりひとりのアーティストやエンジニアが形にするんですけども、それを最後にグワーっと集めて、しかも調和させるというのがグランツーリスモなんですね。なので今回一番大変だったのは、その「調和させる」という部分でした。



GIGAZINE:

今回収録されているクルマを見てますと、どれも「グランツーリスモ・クオリティ」に達しているものばかりだと感じたのですが、個別のアーティストからデータが上がってくる段階ではその人ごとの違いというか、個性のようなものもあるのですか?

山内氏:

そうですね、個々のアーティストが最初に作るものは、やはりそれぞれの個性が出ます。それを、例えばクルマだと各モデラーの上に「チーフモデラー」と呼ばれる人たちがいて、その人たちがひとつひとつチェックして、グランツーリスモの基準にそろえていくんです。

GIGAZINE:

なるほど、そのあたりに時間をかけられたということですね。

山内氏:

あと、僕らが使っている技術というのはどれもカッティングエッジな(最先端な)ものばかりです。例えばHDR機能には4年の開発年月をかけてるんですが、4年前を思い起こすと当時まだ「HDR」っていう言葉はそれほど知られていなかったと思うんです。そんな時代から、「HDRの技術で世界にあふれている光を捉えるにはどうすればいいのか」というところから試行錯誤が始まっています。(レンズが置かれたテーブルを指して)あんなふうに写真用のイクイップメントがゴロゴロ転がっているのも、結局は「世界の光をどう捉えるのか」という試行錯誤の結果なんです。



GIGAZINE:

いま話された「光」というキーワードは今作で重要な要素になっていると思っていて、実際に試遊してみてもその点を強く感じることができたのですが、グランツーリスモにおいて「光」というのはどういう意味があるものなんですか?

山内氏:

グランツーリスモは常に「光」を大事にしてきたタイトルなんです。クルマとか景観と同じぐらい「光」というのは重要な要素であり続けていて、だからこそ4年も前に、まだ世の中の誰も「HDR」なんて言っていなかった時に開発を始めたんです。僕はよく、レストランで食事をしている時に「何のお仕事されてるんですか?」と尋ねられることがあって、その時に「光を扱う仕事をしています」って答えることがあるんですよ(笑)。

GIGAZINE:

そうなんですね(笑)。

山内氏:

そう。だからやっぱり、常に光というものに関しては敏感に感じていますね。

GIGAZINE:

GT1が出た時に私が「ここが一番スゴいな」と思ったのが、「光の反射」なんですね。そこが一番リアリティを生んでいるところだと驚きました。GT1の頃は、クルマ1台に使われるポリゴンが300ポリゴンしかないというお話しだったんですが、確かにモデルとしては荒さは残っていると思うんですが、光が車体に反射するその様子で臨場感がとてつもなく生まれたと思ってます。



山内氏:

そうですね、光は常に大事ですね。

GIGAZINE:

「光」の再現に加えて、今回も物理エンジンの部分を改良されてきていると思うのですが、そのあたりの進化はどのようなものでしょうか?

山内氏:

グランツーリスモのシミュレーションが成熟して、サーキットのラップタイムのシミュレーションとか、クルマのセットアップのシミュレーションとして使えるようになったのは、GT5が出た2010年ぐらいの時代なんです。そして今僕らが取り組んできて、このGT SPORTで達成できたかなと思っているのは、「初めて運転する人でも直感的に運転できる」という部分なんです。まるで本当のクルマを運転するように、例えばストレートで変な蛇行をしないとか、そういう人間の感覚に合ったクルマの動き、というところです。

ある程度訓練された人がグランツーリスモのシミュレーターに乗れるというのはもう当たり前で、そうではなくて何も知らない人がポンと乗って走らせても、ちゃんと思い通りにクルマが動く、またはクルマがコントロールを失うとしても、その「失い方」がちゃんと納得できる、というところが20年にわたるグランツーリスモの歴史の中で僕らが目標にしてきた部分なんですけども、今回ようやくその状態になったかなと思います。パーフェクトだとは思わないけれども、歴代のグランツーリスモの中で最も直感的にクルマが操れる、それはハンドルでもそうだし、通常のコントローラーであっても同じですね。

GIGAZINE:

そのあたりが、物理エンジンの開発のたまものだと。

山内氏:

はい、全くそのとおりですね。僕はずっとこれまでにも「『リアル』を突き詰めると『イージー』になる」と言い続けていて、例えば雪国に行くと、ごく普通のオバちゃんが信号で停まる時にドリフトしながらカウンターステアをあてて停止線で停まるんですね(笑)。でも、本当はそういうもんなんですよ、クルマの運転って。だから、レーシングカーの運転って難しいものじゃないし、僕自身もレースをしていてつくづく思うのは、よほどセッティングを大きく外していない限りはクルマって素直に動くものなので、ミスした時はやっぱり自分のエラーなんですよね。そういった、本物らしさという部分は今回でほぼ達成できたのかなと思っています。



GIGAZINE:

細かい部分なんですが、先ほど、ゲームの中で自分のクルマをカスタマイズできる「リバリーエディター」をプレイしていて、撮影時に前輪の切れ角を変更できるところがあるじゃないですか。で、実際に左右いっぱいまでハンドルを切ると、クルマのノーズ部分が「ひょこん」って持ち上がったんです。普通だとそこまでコンピューターの中で再現されることはないと思うんですが、その様子を見て「わ!こんなことまで演算して反映されてるの!?」ってビックリしました。

山内氏:

そうですね、前輪の「キャスター角」がついていると、そういうふうになりますね。



GIGAZINE:

あと、音についても細かく改良されているなと感じました。クローズドベータ版では、シフトした時に「ガコッ」というフロアが鳴る音がよく聞こえていたんですが、先ほど試遊したバージョンだとその音がすごく環境音に溶けこんでいる気がしました。

山内氏:

サウンドはもう、生き物のように毎日変化していますね。

GIGAZINE:

ゲームでサーキットを走っていて、路肩の土の部分に飛び出して、またコースに戻った時に、タイヤについた小石が飛んでフロアにあたる音も再現されているんですが、その「消え方」がとてもリアルだなと思いました。現実の世界だと、徐々に小石が少なくなって、フロアにあたる音も徐々に少なくなるものだと思うのですが、実際のゲームの中でも音が突然なくなるのではなく、徐々に減っているということがわかるというところに「なんというリアリティか」と驚いてしまいました。



山内氏:

そうですね(笑)。サウンド言うのは本当に終わりがないですね。

GIGAZINE:

そのあたりのディレクションは、山内さんのレースのご経験などが活かされていると。

山内氏:

そうですね、今作では特に僕が関わってディレクションしています。

GIGAZINE:

今作では初めてVR対応ということになっています。山内さんが描かれている理想の中で、GT SPORTのVRはどのレベルに達しているとお考えですか?

山内氏:

今の段階でできることは全て盛り込みました。ですので、現行のPS VRにおける最良の体験ということは間違いないと思います。一方、VRっていうのはまだまだ発展途上にある技術で、もっともっと進化しなければならないと思いますね。



GIGAZINE:

むしろ、ハードウェアの制限のほうが大きかったと。

山内氏:

そうですね、ハードウェアがあと10倍ぐらい性能が上がってくれると、ずいぶんと良くなると思いますね。

GIGAZINE:

ディスプレイパネルの解像度などの問題ですね。

山内氏:

VRって、解像度とフレームレートの両方が重要なんですよ。理想は、8Kパネルが左右両眼に1枚ずつあって、なおかつリフレッシュレートが秒間200フレームぐらいは欲しいですね。



GIGAZINE:

秒間200フレームですか!?

山内氏:

そうですね、今は60フレームのものを120フレームにリプロジェクションしていますが、本当はネイティブに120fpsとか240fpsで動いたほうがいいのは間違いないので、そうなると、うーん……やっぱりあと100倍ぐらいは性能が欲しいですね(笑)。

GIGAZINE:

100倍!(笑)

山内氏:

まあでも100倍ぐらい、あっという間に使い切っちゃいますけどね。PS1からPS2の進化も100倍ぐらいでしたから。

GIGAZINE:

最後に、グランツーリスモというのは、ここからどこへ向かうんでしょうか?もうレースゲーム、クルマのゲームとしては究極に達していると思うんですが、今後どうなるのかな、というのはいち個人ファンとして非常に気になります。

山内氏:

わかんないですね、これはもうね。でも、グランツーリスモって常に社会との関わりを持って作っていますから、どんな社会が現れるのかによって、グランツーリスモの在り方も変わってくると思います。

GIGAZINE:

自動車メーカーとの関わり合いもあるとか。

山内氏:

自動運転の開発にもグランツーリスモって使われていて、そういったところにもグランツーリスモが社会に貢献する在り方ってあると思います。

GIGAZINE:

今日はどうもありがとうございました。

山内氏:

ありがとうございました。

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こんな感じで、予定の時間を少しオーバーしてインタビューは終了。シミュレーターとしての性能はもう当たり前にものすごい段階に達していて、今後は社会との在り方を含めてさらなる進化を目指すことになる模様。また、進化の途上であるVR技術を用いたエクスペリエンスの追求も進められる模様で、こちらにも大きく期待したいところです。

こちらが、山内氏の執務室にあるメインの作業デスク。壁面には、いろいろな賞を獲得した際のトロフィーが置かれています。



作業デスクには88鍵のフルサイズキーボードが置かれており、実際に山内氏自身が作曲を行うこともあるそうです。



執務室中央に置かれた巨大なディスプレイでGT SPORTをドライブする山内氏。撮影用に実際にプレイしてもらったのですが、さすがのハンドルさばきで一瞬にして本気モードの走りに入っていたのが印象的。このようにしながら、次作やその先のアイデアに思いを馳せておられるのかもしれません。