◎快楽の1冊
『サイコパス』 中野信子 文春新書 780円(本体価格)

 埼玉・行田の名物といえば古代蓮、『羊たちの沈黙』でおなじみレクター博士といえばサイコパス。この単語を聞くと反射的にIQは極めて高いが猟奇殺人犯、あるいは一見魅力的だが一皮めくれば異常性格の変質者、という具合に連想してしまいがち。しかし、本書によればサイコパス即犯罪者、というわけでは決してないらしい。
 それどころか全米の人口で4%、日本の比率ならおよそ100人に1人の割合で存在するといわれれば結構な身近感だ。おまけに大規模企業の経営者や弁護士、外科医など、いわゆる“セレブ”層に多いとなるとなお驚きは格別で、著しい特徴として他者への熱い共感のなさ、恐怖への鈍感さがみられるという。
 とはいえMENSA(人口上位2%の知能指数の持ち主のみ入れる団体)の会員だった著者はサイコパスに全否定的な負の要素ばかりを見るのではない。そもそもごく最近、現代になって出現した事象ではなく太古の昔からいたと考えられるサイコパスが、ある意味で人類を進化させ、社会の発展に寄与した側面も否めぬと説かれると事は単純ではない話。
 「問題発言やわざと挑発的な言動をしてよく炎上し」「他人に批判されても痛みを感じ」ず、「懲りずに活動を続け、固定ファンを獲得しているブロガー」程度ならあまり実害はないのだが…。
 ちなみに、海外の学者の調査結果として「サイコパスの多い/少ない職業トップ10」がそれぞれ巻末に挙げられているが、後者の第1位が「介護士」とあるのを見た途端苦笑を禁じえなかった。相模原の養護施設で起きた惨劇はまだ記憶に新しすぎる。あの事件の犯人像を思えば、厄介ながらこのデータだけは鵜呑みにはできないだろう。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 ワイドショーや週刊誌を騒がせている松居一代が2年前に刊行していたのが、『松居一代の開運生活』(アスコム/1200円+税)である。松居が「朝起きてから寝るまでおこなっている、誰にでも簡単にできる51の法則を大公開。松居流開運術、パワーの充電方法、邪気払い等々が惜しげもなく紹介」と銘打っており、特に「邪気払い」、つまり悪い気を払拭し、山ほどの幸運を呼び込もうというのがこの1冊のテーマだ。
 松居流の邪気払いとは、本書によると「ゲン担ぎ」のこと。例えば、財布は背伸びしてでも高価な財布を持つと金運に恵まれる、人相では、シワのある顔では人は寄り付かない、という。
 また、耳慣れない用語だがクリスタル・チューナー(音叉のこと)は、ヒーリング作用を持つ音波を発生させる道具で、「天使界の扉を開く音」を鳴らすそうだ。そして、この音を毎日聴くと幸運が訪れる…。すべてがそんな調子でスピリチュアルこの上ない。
 気になるのは、松居はここに書いたことを旦那の船越英一郎に実践させていたのではないか、という疑惑を持たざるを得ない点だ。金運アップのために財布を買い替えろやら、天使の音を聞けやら、あれこれ指図されていたとしたら、そりゃ亭主もゲンナリするよ、と同情してしまう。
 松居本人がツイッターにアップしたシワだらけの夜叉のような面相を見るにつけ、今となってはこの本の内容が皮肉としか言いようがない。神がかりの女性には要注意ということか…。(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)