昭和10年代に書かれた獅子文六の小説をドラマ化した『悦ちゃん〜昭和駄目パパ恋物語〜』(NHK総合、土曜18:05〜)が現在放映中。本作は、バツイチ子持ちの売れない作詞家である主人公が、おませな一人娘にせっつかれながら、新たな伴侶を探すというコメディ。昭和初期の華やかな銀座を舞台に、父娘の家族愛が描かれていく。テーマは「昭和モダニズムあふれるお洒落なドラマ」とのことで、当時の一般家庭の様子やファッションなどの再現にも力を入れており、さすがは時代物を数々手がけるNHKといったところ。オーディションで200人を超える応募者の中から選ばれたという“悦ちゃん”役の平尾菜々花の溌剌とした演技も、冴えない父・碌太郎こと“碌さん”との良い対比となり小気味いい。

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 この“碌さん”を演じるのがユースケ・サンタマリア。NHKの連続ドラマでは本作が初主演となる。放映前のインタビューでは、“碌さん”という人物像について「この役は僕のまんまなんです。どこか10代のころのまま大人になってしまったようなところが」とコメントし、役柄への親近感を語っていたユースケ。1話を観てなるほどと思った。やっとユースケ・サンタマリアという俳優の“素”の表情が観られるのか、と期待してのことだ。

 以前からつくづく謎めいた俳優だと思っていた。

 ロックバンド「BINGO BONGO」のボーカリストとしてデビューしたのち、フジテレビのプロデューサー(当時)だった亀山千広に見出され、『踊る大捜査線』の真下正義役で一躍人気俳優に。初主演ドラマ『花村大介』での人情に厚い弁護士、『今週、妻が浮気します』の妻の浮気を疑い悶々とする男などの正直で人の良い人物の一方、『カレ、夫、男友達』のDV夫や『絶対零度〜特殊犯罪潜入捜査〜』の事件の全てを裏で操る黒幕など、ダークな役柄でも存在感を見せてきた。中でも昨年9年ぶりの主演作と話題になった『火の粉』での、狂気を秘めた一家惨殺事件の犯人役は各所で話題となったほど。善良な人間から悪人まで幅広く演じわけ、バラエティでは巧みなトークと笑いのセンスでお茶の間を沸かす。まさに“カメレオン俳優“という言葉がぴったりだ。

 しかしだからこそ、これまで等身大の、ユースケ自身が垣間見えるような役柄は少なかったのも事実。ある一面が誇張されたキャラクターではない、等身大の人物を演じる時、どのような表情を見せてくれるのか待ち望んでもいた。結果、本作の“碌さん”は飄々とした中に時折どこか寂しげな表情を見せる。どんなにけなされても作詞家としてのプライドを捨てない熱い一面もある一方、一人娘のために何とか母親を見つけたいと婚活に勤しんだりもする。ダメダメなのに憎めない人間味のある人物が出来上がった。突出したキャラでもない、善悪に縛られてもいないごくごく平凡な男も、これほど魅力的に演じられることに、俳優としての懐の深さを改めて知った。

 放映前の試写会の際には、「僕にとって『悦ちゃん』前、『悦ちゃん』後と区別するぐらいの(ターニングポイントとなる)ドラマだと思います!」と、ユースケらしいテキトーなコメントで笑いを誘っていたが、あながちデマカセでもないのでは?というのが今となっての正直な感想。気負いすぎず、現場を楽しんでいる様子も、演技に良い影響を与えているのかもしれない。今後は銀行の令嬢(石田ニコル)やデパートガール(門脇麦)ら複数の女性が登場し、碌太郎に最大のモテ期が到来するという。色恋沙汰が碌太郎=ユースケ・サンタマリアのまた新たな一面を引き出してくれるはずだ。(渡部あきこ)