面白さに意外とハマる、デーモン小暮風シェイディング

「埋葬までの7日間、日替わりで憧れの有名人のそっくりメイクをしてほしい」。

ミス・ゲイ・フィリピーナになる夢をかなえた途端に死んだトリシャの、そんな感じで始まったお葬式と、彼女の半生を描いた『ダイ・ビューティフル』。涙あり笑いありのめちゃめちゃ面白い映画なのですが、私が最も「すげー」と思ったのは、彼女のメイクテクです。

そもそもポスタービジュアルからして、めちゃめちゃビックリします。トリシャの鼻、その周りが、きっちりと美しい形に黒く縁どられているんですね。元の小鼻にそれなりの存在感があるのですが、写真ではほんとにシュッとした鼻になっています。そしてよく見たら唇の輪郭だって、ラインで全く別の形に。なんと自由な。

コスモポリタンでも、ドラァグクイーンやメイクマニアの方々によるメイク動画が時々アップされていますが、私はなぜだかこれが大好き。日常的かつ実践的なナチュラルメイクの動画、みたいなものも面白くないわけじゃないのですが、コッテコテに作り上げる動画のほうが全然好きです。

もちろんこういう化粧を私の地味な日常に取り入れるのが難しいのは重々承知ですが、見れば見るほど「ちょっとやってみたい……」という欲望が芽生えてくるのは人情というもの。

さすがにそれ普通のメイク落としで落ちるんですか的なアイメイクは真似しにくいですが、コンシーラーを使ったシェイディングだったら――なーんて思って、鼻筋に白っぽいのを入れてみたら、あら。そしたらノーズシャドーも、おや。目の下にピンク系入れるとクマ消えるっていうけど、まあ。顔をシャープに見せるには頬にデーモン小暮風の影を、へえ……てな具合で、いやほんとこれ、マジで楽しい。

美術の授業で「ここに少し暗い色を足すと立体的になりますよ」と教えられ、やってみたら「うわホントだ!」みたいな、なんともクリエイティブな喜びがあります。マジでコッテコテにはなるけども。

女はお化粧をするもんよ、と、ゲイ母に言われ続けて、実はうんざりの娘…。

あの「面倒くささ」とこの「面倒くささ」の二者択一

とここにきて、私は思わず考えてしまったことがあります。それは「化粧」って、はたして「手段」なのか、「目的」なのか、ということです。

私がつい「やってみたい…」と思ったメイクは、必ずしも実用とは言えないものです。例えばデーモン式シェイディングに「どうしたの、今日はなんでデーモンなの?」とか聞かれた時もしくは聞かれなかった時に、何も言わずに流す、いちいち説明する、説明を聞いた人の反応を流す、そうしたどの流れにも耐えうる強靭なハートは、さすがの私も持ち合わせていません。さらに毎日やるには時間がかかすぎ。もちろん技術として薄めて応用することはできるかもしれませんが、そうなるとこのコッテコテの面白さは半減です。このメイクは、メイクすること自体が楽しい「目的」です。

その一方で、毎日(じゃないけど)のメイクは、「目的」とは程遠い。だってそもそも「面倒くさ〜」と思いながらやってるし、今日は試写見に行くだけだしいっか!と端折ってしまったりもするからです。そういう時に限って知り合いと次々会っちゃったりして、私はこの実用化粧の「目的」に気づかされます。それは周囲に漂う「いい年こいて、化粧もせんで…」的な空気、それが面倒くさいからです。「メイクをする面倒くささ」と「化粧もせんで…という空気の面倒くささ」を秤にかけて、よりマシな「メイクをする面倒くささ」を選んでいる、という私のなんというズボラさ……知ってたけども。

そんなことでグダグダしてんじゃねーよ!と、私の中のハードボイルドな私が叫びます。でもスッピンで出かけて「化粧もせんで……」に出合った時に、妙にそそくさとその場を離れてしまう自分も確実にいる。そして、こういうのから解放されたいのか、されたくないのかを考えだした日には、女子たちが迷い込む迷宮の深さに悶々としてしまう私です。

© The IdeaFirst Company Octobertrain Films

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