温室効果ガスの排出を止めたら、気候変動は止まるのか?

写真拡大

著:Richard B. Rood(ミシガン大学 Professor of Climate and Space Sciences and Engineering)

 地球の気候は急速に変化している。このことは何十億という観測結果によって示されており、数千もの記録論文やテキストで文書化され、それらを数年おきにまとめているのが、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」だ。気候変動の主な要因は、石炭や石油、そして天然ガスを燃焼させた際に排出される二酸化炭素だ。

 気候変動に関する国際的取り決めであるパリ協定の目標の1つは、地球表面平均気温の上昇を産業革命以前の時代プラス2℃に制限することだ。ゆくゆくは上昇幅を1.5℃に抑えるという努力義務も課せられている。

 すでに地球は、基本的に、1℃の閾値(生理学的に影響を及ぼす分岐点)に達している。再生可能エネルギーの使用や効率性の向上、環境保全への取り組みによって二酸化炭素排出量は数百万トンも削減されている。にもかかわらず、大気中の二酸化炭素増加率は高いままである。

 気候変動に対処するための国際計画をすぐにまとめるのはひどく困難で、形になるまでに数十年を要する。気候科学者や協議関係者の多くは、アメリカがパリ協定を脱退するというトランプ大統領の発表に驚いた。

 しかし、政治はまた別として、我々はどれだけ温暖化を抑止できているのだろうか。今、温室効果ガスの排出を止めても気温上昇が継続するとしたら、その理由は何なのか?

◆炭素と気候の基本
 大気中にたまった二酸化炭素は、地球の表面を覆い、熱を閉じ込める暖かい毛布の役目をする。このエネルギーが地表の平均温度を上昇させ、海を熱し、北極の氷を溶かすのだ。その結果、海面が上昇し、気候が変動する。

地球全体の平均気温は上昇している。気温の変動は1961年〜1990年の平均気温と比較したものだ。データ元:IPCCの評価報告5、作業グループ1。フィンランド気象研究所、フィンランド環境省、Climateguide.fi   CC BY-ND

 1880年以降、産業革命後に二酸化炭素が排出されるようになってから、地球全体の平均気温は上昇している。エルニーニョ現象にかかわる内部変動も相まって、我々はすでに平均気温を1.5℃以上超える月を何度も経験している。1℃の閾値を超える温度が継続する状況が差し迫っているのだ。過去30年間を見ると、10年単位で前の10年間よりも気温が高くなっており、同じく前世紀よりも暖かくなっている。

 北極と南極での温暖化は平均気温よりはるかに速くすすんでいる。北極と南極を覆う氷床がとけているのだ。北極海の氷、そして永久凍土もとけている。2017年には南極の海氷が驚異的に減少し、2007年の北極地方の減少を彷彿とさせる。

 陸上と海上の両方で生態系が変化している。観測された変化は一貫しており、また我々が、地球のエネルギーバランスや過去の変動を理解し、未来を考えるのに用いる理論的解釈とも一致している。

たて21マイル(約33km)、横12マイル(約19km)と試算される巨大な氷山が、南極大陸のパインアイランド氷河から崩落する。NASA、CC BY

◆気候変動の急ブレーキ
 今日、我々が二酸化炭素を排出しなくなったら、どうなるのか?先人の時代の気候に戻るのか?

 シンプルに答えるなら、「ノー」だ。化石燃料を燃やし、その中にたまった二酸化炭素が放出されると、それは大気、海、土地、生物圏の植物や動物の中に蓄積して移動する。放出された二酸化炭素は、何千年もの間、大気中に残る。ようやく、たとえば海洋生物の殻が海の底に沈む際に、炭酸カルシウム(石灰岩)が形成されることで岩石に戻るのは数千年後だ。しかし、人間にかかわる単位の時間軸で考えれば、一旦放出された二酸化炭素は永遠に我々の環境に残ると言える。我々自身が取り除かない限り、消えることはない。

 熱の蓄積を止めるには、二酸化炭素だけでなく、メタンや亜酸化窒素などの温室効果ガスもすべて排除しなければならない。また、地球のエネルギーバランス(太陽から得るエネルギーと宇宙に返るエネルギーの差)に悪影響を及ぼす森林破壊といった土地利用を逆行させなければならず、農業も根本から変えざるを得ないだろう。それができなければ、地球のこれ以上の温暖化を防ぎ、気温の上昇を抑えることはできない。このように、温暖化の止めることは不可能だ。

 つまり今日、化石燃料燃焼による二酸化炭素排出を止めたところで、地球温暖化が終わるわけではない。地球が蓄積した熱全体が大気に届き、気温が上昇するまでにはタイムラグがある。科学者らの仮説によると、今から40年後には、前の世代の標準気温よりも高い温度で安定するという。

 原因と効果の間に数十年のタイムラグがあるのは、巨大な海を熱するのに長い時間がかかるためだ。二酸化炭素の増加によって地球が抱えるエネルギーは、空気を熱するだけではすまない。氷を溶かし、海を温める。空気と比べて、水の温度は上がりにくく、数十年を要する。しかし、一旦海洋温度が上昇すると、空気中に熱を放出するようになり、地表加熱として測定されるようになる。

 科学者らは、思考実験を実施している。これは温暖化に対する排出削減および排出制限への複雑なプロセスを考えるのに役立つものだ。ある実験は、地球のエネルギーバランスに及ぼす温室効果ガスの影響を2000年レベルに抑えるよう求めるもの。つまり、温室効果ガスの継続排出率をかなり低くするということだ。これによって海洋の熱が大気のそれに追いつくにつれ、地球の気温はさらに約0.6℃上昇することがわかった。科学者は、これを「既定の温暖化」と呼んでいる。

 氷もまた海水温上昇に伴ってとけ続ける。すでに、西南極の氷床の氷河が大きく失われているという、信ぴょう性の高い証拠がある。氷、水、空気…二酸化炭素によって地球が蓄えた余分な熱は、それらすべてに悪影響を与える。とけたものはとけたままになり、その後もさらに氷はとけていく。

 生態系は、自然および人為的事象によって変容する。そしてそれが回復する時、彼らが進化してきたのとは違った気候が待っている。生態系の回復するころ、気候は不安定となり、温暖化も進んでいるだろう。新たな標準が生まれるのではなく、さらに変容が拡大するだけだ。

溶出す南極の氷河。

◆最善の「最悪のシナリオ」
 いずれにしても、今、二酸化炭素の排出を止めることはできない。再生可能エネルギー源が大きく進歩しているにもかかわらず、エネルギーへの総需要は拡大し、二酸化炭素排出量は増加する。気候と宇宙科学の教授として、私は学生に今より4℃気温が上昇した場合のプランを立てる必要があると教えている。国際エネルギー機関(International Energy Agency)が2011年に発表した報告には、このままいくと、地球の気温は6℃上昇すると提示されている。

 パリ協定を経た今でも、我々は本質的に同じ道を進んでいる。二酸化炭素排出量がピークを越えて減少に転じなければ、我々は新たな道に立っているとは言い難い。約1℃温暖化している今、すでに不穏な変化が観測されている。

 なぜ二酸化炭素を排出してはいけないのか、それには多くの理由がある。気候は急速に変化しており、そのペースを落とせば、自然も人間も、その変化に適応しやすくなる。海面上昇を含む変化の総量が制限される可能性がある。我々が把握する気候から遠ざかるほど、我々のモデルによるガイダンスは信頼性が乏しくなり、準備対応がむずかしくなる。

 排出量が減少しても、大気中の二酸化炭素は増え続ける可能性がある。地球が暖かくなるほど、海洋が吸収する二酸化炭素量は減少する。北極や南極の温度が上昇すると、温暖化の元となる二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが、凍った陸地や海底の貯留槽から放出される可能性が高まり、あらたな問題につながる。

 今日、排出量を止めても、過去に戻ることはない。地球は暖かくなるだろう。そして温暖化することで氷がとけ大気の水蒸気が増え、さらなる温暖化が返ってくることになるため、我々の役目は温暖化を制限する一員となることだ。温室効果ガスの排出量が数十年という機関で迅速に削減されれば、温暖化に対応することは可能で、パリ協定の目標を達成できる。それが変動のスピードを遅らせ、我々がそこに適応できるようになる。過去に回帰するのではなく、最善の将来について考えなければならない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac