「水の怪物」と呼ばれてきた水泳界のスーパースター、マイケル・フェルプス。私は13年間水泳をやってきたが、「化け物」以外の何物でもないと思っている。数回に渡るオリンピックで偉大な功績を残し、彼はアスリートが望むすべてのものを手にしたのではないか。

2016年のリオ五輪後、周囲に惜しまれながら引退していったが、もし今も現役であれば今年の世界選手権に出場して活躍していたに違いない。そう思うと少し寂しい気もする。でもだからこそ今、フェルプスのなにが怪物と呼ばれるほど凄かったのか、改めて掘り下げてみた。

金メダル23個
恩師の予想を上回る「怪物」

Photo by Ian MacNicol/Getty Images

ウサイン・ボルトがオリンピックで獲得した金メダルの数はこれまで8個。競技の特性が違うので正確な比較にならないかもしれないが、フェルプスの獲得数は23個で、ボルトの約3倍だ。人類史上最強というより、人類という枠をはるかに超えているのを感じてもらえるだろうか。

数ある記録の中で最も有名なのは、2008年の北京五輪だけで8個の金メダルを獲得したことだろう。生まれつき才能がある人でさえ、血反吐吐くほどトレーニングをしてやっととれるのがオリンピックの頂点。母親のデビーさんは「New York Times」に「2004年のオリンピックに初出場して2008年には世界記録を出す選手になるだろう」とフェルプスのコーチが昔語っていたことを話している。

力あるコーチの「予言」など、過去の会話の一部として埋もれてしまうほど実績をあげたフェルプス。もはや経験者が予想できる範囲をも超えていた証拠だろう。

いじめられっ子から
アメリカ代表の「象徴」へ

驚く人もいるかもしれないが、彼は子どものころ同級生から耳が大きいなどとからかわれ、いじめを受けてきた。また、9歳の時にはADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されている。学校の先生から「集中力がない」と言われていたそうで、フェルプスにとって有り余るエネルギーを集中力につなげてくれたのが水泳だったのだ。

フェルプスはいじめられていた時のことを以前、「CNN」のインタビューで語ったことがある。

「当時は少し落ち込んだりもしたが、乗り越えるとどうでもよくなった。自分の好きなことを楽しんでいたよ」

逆境のなか前向きに物事を捉えるメンタルの強さは、どうやら昔から備わっていたよう。少年は、いつしか国を代表するアスリートになっていった。リオ五輪の開会式では代表団の先頭に立ち、誇らしげに星条旗を掲げる姿があった。見上げた先には歓声をあげる無数の観客。フェルプスにとって教室という世界は狭すぎた。彼を愛する人たちは、世界中で待っていたのだから。

栄光の中で
抱えていた「闇」

時さかのぼり2012年のロンドン五輪では、北京に続き金メダル4個を獲得する輝かしい成績をおさめた。その後引退を表明するも、2014年に撤回。しかし同年には飲酒運転で逮捕されてしまう。

このニュースを聞いた時私は「どうして?」と理解ができなかった。復活して以前のように「怪物」と呼ばれる姿を見ることを心の底では期待していたからだ。

でもそれがきっかけで、フェルプス自身は、これまで栄光の中で抱えてきた自分の中の闇を知ることになる。実は彼が過去に経験した辛い出来事はいじめだけではなかった。9歳の時に両親が離婚。父親不在の中、家族で男は自分しかいないというプレッシャーなどが影響して酒に逃げていったのだという。

フェルプスも人の子。どれだけ怪物と呼ばれても、水から上がれば悩みだってある。陸の上では弱い部分も見せるのだ…。そう思ったら憧れでしかなかった気持ちが、すこしだけ親近感に変わっていった。逮捕後はリハビリを経て完全復活を遂げたフェルプス。大会前に引退を表明していた2016年のリオ五輪では、5つの金メダルを獲得して有終の美を飾ったのだった。

引退後に力を入れるのは
「パパ業」

怪物扱いされてきたフェルプスだが、陸の上では立派なパパ。妻のニコールさんは過去にミス・カリフォルニアにも選ばれたことがある美女だ。息子のブーマー君と一緒にリオ五輪中、プールサイドからレースを観戦していた。引退を表明した会見では家族を大切にしていきたいと語っていたフェルプス。今は家族の仲睦まじい様子を時折SNSに載せている。

だからこそ、泳ぐことに関してはもう後悔などないものだと…。

けれど思い残すことがあったらしい。それは「サメと泳ぐこと」。人類史上最強のスイマーだけあって、相手はもはや人間じゃないということなのか…。しかもただ泳ぐだけではなく「競った」というのだから、この目でみてみたい。

「人類×サメ」の対決。もう噂で聞いている人もいるかもしれないが、怪物フェルプスの魂心の泳ぎを見届けようじゃない。番組は2017年7月29日(土)17:00〜に前編、7月30日(日)17:00〜に後編を、ディスカバリーチャンネルとアニマルプラネットにて放送予定。

Photo by Discovery Communications
Top Photo by Tom Pennington/Getty Images
Reference:CNN,New York Times