むわ〜っとしていたメットライフドームで

 メットライフドームは熱がこもって空気がむわ〜っと重たい。入口のゲートからスタンド外周の坂道を上がっていくのだが、その途中でぐったりしてくる。「登山家は引き返すのも勇気だぞ」と思うが、あいにく僕は登山家じゃない。今季、開幕からたった2勝しかさせてもらってない西武戦にのこのこやって来た。

 7月21日、西武×日本ハム14回戦だ。先発は西武が菊池雄星、ハムがメンドーサ。席はブルペンの様子が見える位置にした。神宮やメットライフのように、観客席からブルペンが見える球場は、もうそれだけでトクした気分だ。女子ファンは間近からごひいきの投手を一眼レフで狙ったりしている。僕みたいな全体が見たいファンは、試合を見ながら視界の端にブルペンが入るようにして、試合経過とともにプルペンが動く感じを楽しむ。この日は開始30分前に着いたおかげで、かぶりつきで先発メンドーサの投球練習を見た。がんばれメンディ! 僕は去年の日本シリーズの熱投を忘れないぞ。


ブルペンで投球練習をするメンドーサ ©えのきどいちろう

 しかし、メットライフドームがむわ〜っと来る。これはメンドーサもバテるだろう。僕の仲のいいライオンズファンは「主力選手が次々に出て行ってしまう理由の半分は、夏場の西武ドーム球場の過酷さにある」と断言する。元の(すり鉢状の)西武球場の上に屋根だけ取り付けた吹き抜け構造なので、猛暑の季節はサウナのなかで野球をやっているみたいになる。

 それでなくてもファイターズは「移動ゲーム」だ。昨夜、札幌ドームでナイターをやって(しかも、延長サヨナラ!)、この日は飛行機で移動し、そのまま所沢でナイターだ。芝居の世界なら「乗り打ち」という。移動して、即、興行を打つのだ。これはタフなスケジュールだ。ファイターズはこの「札幌→所沢→釧路・帯広」と続くいちばんタフなところをうまく乗り切らないと、本格的にガクッと下降線をたどる可能性がある。

「炎獅子ユニ」は遠近両用悪夢

 試合が始まって、何か選手が元気ないんだなぁ。身体が重そうに見える。まだ7月だというのにこの感じか。チームが目標を見失っている。気持ちの張りがない。この感じが出ると野球もワビサビの世界に入りだす。まだちょっとワビサビは早くないかなぁ。

 しかし、この日から埼玉西武ライオンズが着用した「炎獅子ユニ」が問題なのだった。たぶんネーミングはエンジと獅子がかかっているのだろう。赤いライオンズだ。こう、遠目で見てぞっとした。すごく嫌だ。帰宅してから録画で確認するとそうでもないのだが、客席から見ていると東北楽天イーグルスっぽい。ニセ楽天? よーく見ると帽子が紺なのだが、そういうディテールの変化も「中国がつくって円谷プロと揉めてるアゴの長いウルトラマン」っぽい。これはちょっと最悪の事態になったと判断した。では、今季、ファイターズのチーム別対戦成績表(21日試合前)を見てみましょう。

 楽天 3勝10敗
 ソフトバンク 5勝10敗
 西武 2勝11敗
 オリックス 5勝9敗
 ロッテ 9勝2敗

 万遍なく負けていて、去年同様、変わらぬつき合いをしてくれてるのは千葉ロッテマリーンズだけなのだが、なかでも楽天と西武がひどくないだろうか。カモにされている。そして「炎獅子ユニ」こそは楽天と西武、2つの苦手球団のぞっとする部分を合体させた感じの、悪夢のユニホームだった。遠目で楽天に見えて、近寄ると西武に見えるって遠近両用悪夢かよ。

野球のエッセンスを感じたシーン

 メンドーサは初回、浅村栄斗に先制ソロを喫した以外は安定していた。試合はつくれる投手なのだ。勝てる投手かというと微妙だが、いいときはそこそこの失点で5、6回までもたせてくれる。圧倒的な力で抑え込むわけじゃない。打たせて取るタイプ。今季の特徴としては何か突然おかしくなるのだ。大柄でハンサムで、余裕の笑みを浮かべながら、急に色んなことがうまくいかなくなる。だから「相手投手より先に点を与えたくない」みたいな緊張の維持が不得手だ。きっと大らかでいいヤツなんだと思う。この試合も1巡目までは順調だった。

 野球はわからないよ。4回裏、浅村をゴロアウトに仕留めた後、突如、メンドーサが制球を乱す。そこまで全く危なげなかったのだ。いきなり抑えがきかなくなる。メヒア、中村剛也、栗山巧を三者連続四球だ。別に何がきっかけということでもなさそうだ。こう、平らな道で自分で自分の足につまづいて転ぶようなことだ。それも3回続けて転ぶようなことだ。メンドーサのなかで何か目盛りが違っちゃったんだと思う。

 僕は野球が好きな人は逆転サヨナラ満塁ホームラン的な「神ってる」の不思議さも知ってるけれど、うまく行ってたことが突然何の前触れもなくおジャンになってしまうような「神ってる」も何度も経験すると思う。人知を超えた何かだ。人間の努力ではどうしようもないようなこと。偶然と必然が綾なすベースボールの神秘。僕はこれを必然の側からだけ理解しようとしても(「負けに不思議の負けなし」という立場)、結局はかなり大きなものを掬(すく)い損ねる気がする。

 メンドーサにはなぜ三者連続四球を与えたか自分でわからないだろう。なぜツーシームが逸れてしまったかわからないだろう。メンドーサ以外の全員が反応する。ベンチはもちろん、内野指定席Bのお父さんも外野自由席の若者も色めきたつ。何でかっていうと皆、経験で野球は夕立ちみたいなものだと知っているから。理由はわからないが、ザァーッと来るのだ。色んなことが急に始まる。

 僕はブルペンに注目していた。三者連続四球のどこでブルペンが動きだすか。メヒアが歩いて、次の中村剛也にストライクが入らないと見た瞬間だった。大あわてで鍵谷陽平がキャッチボールを始め、すぐに捕手を座らせた。遅れて左の公文克彦もキャッチボールを始めた。マウンドではメンドーサが指先に息を吹きかけたり、ズボンの端で拭いたり、グラブにポンポンとボールを叩きつけてみたりしている。吉井理人コーチがたまらず飛び出していく。一死満塁だ。そして外崎修汰の1、2塁間を割る2点タイムリー。

 僕が野球のエッセンスを感じたのはこのシーンだった。あとは総じて力通りに決まった。この試合は5対8まで追いすがったからよくやったほうだ。

 こりゃまいったなぁと思ってたら、20年来の友人、野球防具メーカー「ベルガード」の永井和人さんから「今日行ってたんですか。僕は明日行ってメヒアに届けものをします」とLINEが入った。「ベルガード」は大リーグにヘビーユーザーを持つ(例えば2017オールスター戦のMVP、ロビンソン・カノ)埼玉の小さな会社だ。ファイターズは悪夢の「炎獅子ユニ」登場の西武戦、ボコられて3タテを食らうのだが、その背景にはメヒアがいた。永井さんから送られたきた写メを掲載しておこう。23日の試合を終えて、西武戦の対戦成績は2勝14敗である。1試合平均失点は6点を超える。


メヒア防具の写真 ©えのきどいちろう

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(えのきど いちろう)