恋愛は「バグ」。そんなに美しくて優しいものじゃない【燃え殻インタビュー】

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 43歳の主人公「ボク」が、かつて信仰するように恋した「最愛のブス」との愛しくも切ない日々を綴った恋愛小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)が、発売から4週間で約7万5000部と、賞を受賞していない新人のデビュー作としては異例の売れゆきで話題になっています。

 著者は、叙情的なツイートが人気で、一部から「140字の文学者」と呼ばれる燃え殻さん(43歳)。cakesで連載していた同名タイトルの小説に大幅な加筆修正を加えたものが本書になります。

 本業はテレビの美術制作会社に勤める会社員という彼が、なぜ自身の経験をもとに身を削るような恋愛小説を書いたのか。ある夏の昼下がり、ボクと最愛のブス・かおりの思い出の地である渋谷区円山町のラブホテル街でお散歩インタビューを敢行。

 インタビュー後編となる今回は、書籍の担当編集者・宮川直実さんも加わり、男1対女2で、男女の恋愛観の違いに関する話になりました。

◆「ブス」より「尊敬」が上回る

――作品を手にした時に多くの人が気になるのが「ブス」というワードだと思います。どんなに中身がよくても外見で受けつけない、ということもあると思いますが、燃え殻さんにとって好きになるのに容姿は関係ない?

燃え殻:いや、スゲエかわいいコ好きだなって思いますけど(笑)、かおりのモデルになった女性に関しては、尊敬が上回っちゃったんです。彼女のサブカルにおける圧倒的情報量を前にして、自分の小ささを自覚させられたというか。

 彼女がすすめる本や映画を読んだり観たりしても、実際の作品が彼女から聞いた話より面白くないんです。いまでも難解な映画を観たら、彼女ならどう思うかなって考えます。

◆男の過去の恋は生きている

――別れてから20年以上の年月を経ても、燃え殻さんのその女性に対する想いがまったく色褪せていないのがスゴいです。

宮川:自分だったら過去の恋愛をそこまで生々しく保管できるのかな、と思いました。ドラマ「あなたのことはそれほど」の中でも主人公の友人の「あの頃好きだった人はもうこの世にはいない」といセリフがありますけど、よくわかります。女性は上書き保存していく人が多いような気がします。ミイラにして形は残っているけどそこに魂はない、みたいな。一概に言えるわけじゃないですけど、男性の方が過去の鮮度が持続している感じがします。

燃え殻:そうかもしれませんね。男同士とかで飲むと、いまでもその彼女のことを話したりしますから。

宮川・記者:えっ……(ちょっと引く二人)。

燃え殻:え、引かないでください(笑)! 男同士でエロ話もひと段落するとだいたい、いままでどんなコと付き合ったの? っていう話になるんですよ。飲みの場だし「そういう人がいてよかったね」ってみんな言うんですけど、僕は彼女に会わなきゃよかったと心から思っていて。自分の中身が、自分の人生が、ものすごく変質したから。

 で、「会わなきゃよかった」って言うと、年上の人とかがたいてい言うんです、「そこまで言える人と会うのが人生なんだよ」って。でも、そういうことじゃないんだよ、裂かれるみたいに痛いんだよ! って言いたいんですけどね。

 いまでも彼女のことを思い出すたびにその感覚に襲われます。彼女とよく行った場所にも近づけなくなる。ヴィレッジヴァンガードは何年も行けませんでした。でも、みんなそうなんじゃないないかなと思ってるんですけどね。一回くらい、デング熱みたいな恋にかかったことなかったですか?

宮川・記者:……。(記憶を辿る二人)

◆「本命のブス」と「二番手の美人」

――小説にはかおり以外にも六本木のクラブで働く美女・スーが登場しますが、cakesで連載している時は同時期に存在していなかったのに、本ではかおりと同時進行で会っている設定になっています。あんなに心酔している「ブスなかおり」がいる一方で、「美人なスー」とも会う。女性としては、少し引っかかります。

宮川:その点は、構成を変える段階ですごく話し合いました。ブスの彼女のことが好きと言っているのに、なんの言い訳もせずに美人な女のコと会っている。でも燃え殻さんと話した時に、男からしたらこの別フォルダ感の方がリアルだと。

 スーもスーで好きな人がいて、ボクと同じように“自分には何もない”という自意識で互いに引き寄せられている。恋愛感情よりも欠落感でつながっている、という設定にしたんです。男性のリアリティを殺しちゃいけないなと思いまして(笑)。

燃え殻:男だったら心当たりがある人も多いんじゃないか、と思うんです。本命の彼女がいる一方で、そういう欠落感でつながる人がいたとしても、むしろある一定の距離以上に近づいていかないんですよ。だから、cakesの時にはあったスーとのセックスの描写はナシにしたんです。

宮川:物語としてのツジツマも大事ですが、男性のリアルな思考がむしろ面白いとも思いました。でも、すごく好きな人がいても、その人とだけつながって生きているわけじゃないのは、女性も男性も一緒ですよね。むしろ好きな人とだけつながれず、人生に様々な人間が出入りする方が、現実的で切ないと感じたんです。

◆男はずっと少年、は本当だった

――燃え殻さんの恋愛小説を女性の視点で編集した時、やはり男女の感覚の違いを感じましたか?

宮川:同じだなと感じる部分も多い一方で、よく男って大人になれないとか、ずっと少年とか言うじゃないですか。その実態を、今回でまざまざと知りました(笑)。糸井さんや大根さんをはじめ、これだけ多くの大人の男性たちが「俺もそうなんだよ!」っておっしゃったというのは、男性の時間感覚に刺さっている実感がありました。彼らの“連続性”みたいなものをこの小説を通して知りました。

燃え殻:それはあるかもしれないですね。糸井さんや二村(ヒトシ)さん、会田(誠)さん、堀江(貴文)さんとか、みんな大人然として振舞っているトップランナーで、二村さんに至っては女も知り尽くしているはずなのに、ものすごく少年っぽくいままでの恋愛話をしてくれたりして。魂がすごく男の子みたいで、あ、みんな同じじゃん! って思えた。

宮川:この小説にはある意味、男性のロマンチシズムがつまっているので、吉岡(里帆)さんの帯のコメントにある「男心がちょっとわかった」っていうのは、まったく私も同意見ですね(笑)。

◆ガチな恋愛はマジでヤバい

――これまでの燃え殻さんの話を聞いていると、恋愛はかなりリスクがあるもののような気がしてきました(笑)。

燃え殻:いろいろな恋愛があると思いますが、ガチなやつはマジでヤバいと思う。中島らもさんも「恋は病気の一種だ」って言ってたけど、ふつうの日常が突然送れなくなるバグみたいなものだと思うんです。それをいろんな作品でこの世で一番美しいものみたいな扱いをするじゃないですか。でも、本当にそうなのかなって。本当はそんなに美しくて優しいものじゃない気がします。

 病気もそうだけど、わからないから怖いんですよね。本当に恋に落ちると自分の体調や人生がどうなるかわからない、不安定な状況に突然置かれてしまう。多幸感に満ちている感覚も実感としてあるんだろうけど、そうじゃないものが正体な気がするんですよね。どちらかとそういう側面のことを書きたかったような気がします。

――恋愛に対して慎重になっている?

燃え殻:でも風邪と一緒で予防してもなるんですよ。本当はあれほどの病にかからない人生がいいなって心から思う。あんまりだよって。そんなことがあったらまた本を書いちゃいそうですけど(笑)。

―燃え殻インタビュー 後編―

<TEXT/女子SPA!編集部 PHOTO/山川修一>