ECが普及してもファッション領域で「実店舗」がカギを握る理由

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アマゾン、ゾゾタウンなどにより、国内外でファッション領域におけるオンラインショッピングの普及が加速している。しかし同領域のセールスの92%は未だ実店舗での販売であり、2025年でも75%を占めると予測されることから(2016年Bain Research調べ)、実店舗は今後も重要な役割を果たしていくとみられている。

ロンドンに拠点を置き世界190カ国で展開、700以上のラグジュアリーショップやブランドと提携するオンラインプラットフォームサービスFARFETCHは、その”実店舗”での体験を重要と捉え、今年新たなプロトタイプを発表した。オンラインでの消費傾向や購買履歴などのデータを店内でも用い、よりパーソナルなショッピング体験へと導くプラットフォーム「Store of The Future(SOF)」だ。

一方日本では、STYLERが「つながりでファッションを楽しくする」をコンセプトに、アプリを通じて店舗スタッフからコーディネートのアドバイスを受けられるサービスを開発するなど、オンラインとオフラインのシームレスな連携に取り組んでいる。

ファッションとテクノロジーの融合により店舗=オフラインでのショッピングはどう変わっていくのか。STYLERの小関翼代表がFARFETCHのジョゼ・ネヴェスCEOに、その未来を聞いた。

小関翼(以下、小関):まずStore of The Future(SOF)を手がけることにしたきっかけについて教えてください。

ジョゼ・ネヴェス(以下、ネヴェス):実店舗にはオンラインにはないマジックがあります。それは実店舗の雰囲気だったり、アイテムに触れることだったり、店員とのやりとりだったりという総合的なエクスペリエンスです。

テクノロジーは音楽や映画などを変えて行く原動力になっていますが、ショッピングも同様。我々も、お客様にとって実店舗でのシームレスなショッピングを提供していきたいと考えています。

小関:具体的には、どのようなサービスでしょうか?

ネヴェス:店舗に入り、お客様が店舗への情報開示を承認すると、顧客の携帯に蓄積された消費趣向・オンラインでの購買履歴などのデータが店内に転送されます。そのデータをもとに好みやサイズに合った接客が可能になるんですね。そして顧客が試着しようとして選んだ商品の情報はRFID(電子タグ)と超音波を利用し店内の試着室でも共有されます。


ロンドンで発表された新プラットフォームシステム「Store of The Future」のBETA版(Courtesy of Farfetch)

試着室のミラーでは、サイズ選択や在庫確認ができるほか、スタイリングにあうアイテムも提示され、新たに試着を希望する場合は、ミラーにタッチするだけで指示することもできます。

店員の接客が気に入れば店員と繋がることも可能で、店舗側も試着・購入時の履歴に応じたリコメンドや「最後の一個です」というリマインドを送ることができます。

小関:店頭でのユーザー体験にはセレンディピティがあります。一般的なECはカタログと検索をベースとしたUIなので、これを提供することは難しいです。

FARFETCHは、ユーザーの購入体験という点に力を入れているので参考にしています。今回のSOFは、オンラインとオフラインのよりシームレスな体験といえますよね。このような体験を提供する重要性について聞かせていただきたいです。

ネヴェス:お客様はショッピングする時に、オンラインかオフラインかはそこまで区別していないと思います。その区別は、我々が頭の中でアカデミックに考えてしまっていることなんですね。良い商品をオンラインで見てオフラインで買うこともあるかもしれないですし、オフラインでは購入まで至らなかったアイテムをオンラインで購入することもあるかもしれません。両者は相互に補完し合う形で存在するものだと思っています。

小関:私たちのサービスも、SOFも、ユーザーの購買体験をリデザインするものだと考えています。良いユーザー体験を提供するには、ユーザーの情報収集が欠かせません。9割の顧客接点が店舗にある以上、オフラインでの情報収集や活用も重要になりますね。

ネヴェス:オンラインでお客様が商品を検索し購入する時、何を見たかやどのページに滞留したかなど、大変たくさんのデータが収集されていますよね。一方で、オフラインで行われていることのデータ収集はされておらず、店舗で何を見て、試着したかは全くわからない。いわばセールスの約10%であるECだけが情報収集できている状況です。

また、どうやって企業が店頭でのデータを収集・活用していくかと同時に、お客様にとって良いサービスが実現できるか、その両輪を実現する必要があります。

例えば、インスタグラムを通してもたくさんのデータが収集されますが、インスタグラムの体験が楽しいからこそ、ユーザーはそれを意識せず、ログアウトせず楽しんでいます。カスタマーエクスペリエンスを通した信頼関係を高めていくことで、お客様はそれを許可するというわけです。

小関:先進国ではネット人口の増加が逓減しています。そんな中オフラインの商流やデータをどうWeb化するかというのがキートピックだと考えています。例えば、EC化が2020年には20%を超えると目されている中国でさえも、テンセント、バイドゥ、アリババが最も積極的に投資するのがO2O領域です。このような状況はどう捉えていますか?

ネヴェス:在庫が余ってしまい、それをセールにかけて、それでも売り残れば最後には廃棄……と長期持続が難しく、非効率が多い今のリテールには改革が必要だと考えています。

データを活かすことで持続可能なリテールになり、お客様がもっとスマートにショッピングできるようになれば良いなと思います。テクノロジー自体はすでに存在をしているので、あとは、それをどう適用していくかです。

小関:私たちは目指すところを共有していますね。目的はテクノロジー自体ではなく、テクノロジーを使ったユーザー体験の向上。家からどの店舗に自分に合うアイテムがあるか確認できたり、来店予約した店舗でスムーズに試着や決済ができたり、購入後も継続的なコミュニケーションがとれるようになったりと、Webとの連動から業界の再生が始まっていきます。

SOFは、ロンドンのBrownsとニューヨークのThom Browne旗艦店で、2017年後半に採用予定。2018年には上記2都市を中心に展開拡大し、2019年には日本も含めグローバルで展開していく構想だ。

また「未来の購買体験の提供を目指す」というSTYLERは、ユーザーが商品に関心を持ってから服の着用体験をシェアするところまで、縦にバリューチェーンを押さえるべく、今夏に直接商品を購入できる機能を実装する。海外からの強い引き合いを受け、今年中には台湾、来年には中国に進出する予定だ。

小関氏が「日本のファッションビジネスは売上維持のために新規店舗を推し進め、その結果オーバーストア状態になり、利益面が厳しくなり、定期的な大量閉店につながる」と指摘するように、店舗が重要とはいえ、ただ増やすことは解決策にはなり得ない。

新規出店に依存したビジネスモデルではなく、オンラインと連携したスムーズな”ユーザー体験”の提供が、これからのファッション業界に必要な策となりそうだ。


FARFETCHのジョゼ・ネヴェスCEO(左)とSTYLERの小関翼代表(右)