米国経済版“仁義なき戦い”『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。マイケル・キートンはアンチヒーローがよく似合う。

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 あれっ、マクドナルドの創業者はマクドナルドさんじゃないの? 世界最大のファストフードチェーンである「マクドナルド」だが、創業者として正式に記録されているのはチェコ系米国人のレイ・クロック(1902年〜1984年)。じゃあ、なんでクロックバーガーって屋号にしなかったのか。そんな素朴な疑問に答えてくれるのが、マイケル・キートン主演の『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』だ。個人経営の片田舎のドライブインが米国を代表する巨大チェーン店へと爆発的に飛躍を遂げた裏事情を、マックシェイクよりももっと濃厚に、テキサスバーガーよりもさらにこってりと描いてみせる。全米ではたびたび延期されながらも今年1月にようやく公開されたが、マクドナルド社はこの映画に関してはノーコメントを貫いている。
 
 これまでにもマクドナルドを題材にして、ドキュメンタリー映画『スーパーサイズ・ミー』(04)や実録犯罪映画『コンプライアンス 服従の心理』(12)といった映画がつくられてきた。良くも悪くもマクドナルドは、現代の米国社会を象徴する存在となっている。ジョン・リー・ハンコック監督は前作『ウォルト・ディズニーの約束』(13)で、やはり米国文化のシンボリックな存在であるウォルト・ディズニーの横顔に触れたが、本作ではレイ・クロックの半生をかなり辛辣に描いており、米国経済版“仁義なき戦い”とでも称すべき内容となっている。単なる美談ではない、リアルなアメリカンドリームとして楽しませてくれる。

 孫正義、柳井正が賞讃の言葉を寄せているレイ・クロックの自伝『成功はゴミ箱の中に 億万長者のノート』(プレジデント社)では若い頃から才気溢れる人物であったと語られているが、映画の中で描かれるレイは冴えない中年サラリーマンとして登場する。時代は1954年。レイ(マイケル・キートン)はこれまでピアノ演奏や紙コップのセールスなどをして食いつないできたが、52歳となったこの頃は一度に5本のシェイクが同時に作れるマルチミキサーの販売をしていた。宿泊先のホテルで自己啓発のレコードを毎日聴きながら米国各地を営業して回るも、売れ行きは思わしくない。そんなときカリフォルニアのドライブインから8台ものマルチミキサーの注文が舞い込む。1度に40本のシェイクを作らなくてはいけないドラブインとは一体どんな店なのか。好奇心からレイは車を西海岸へと走らせる。それがレイとマクドナルド兄弟との運命の出逢いだった。

 人のよさそうなマクドナルド兄弟(ジョン・キャロル・リンチ、ニック・オファーマン)に案内されて店内を見学すると、そこには画期的なアイディアが溢れていた。パテの焼き時間やソースの量をきっちり決めたレシピどおりにメニューは作られ、スタッフは分業化して機敏に動く。注文を聞いて、ハンバーガーができるまでわずか30秒。商品の単価を下げるため、ウェイトレスも食器も置かず、テイクアウトのみ。メニューはハンバーガーとチーズバーガー、それにポテトとドリンクだけというシンプルさ。いっさいの無駄を省いていた。試行錯誤してこのドライブインを完成させたマクドナルド兄弟は、美味しいハンバーガーを客を待たせることなく低価格で提供できることが自慢だった。感激したレイは「フライチャンズ化して、もっと広めよう」と熱心に口説く。この店こそ、自分の人生を賭けるに値する最高のビジネスチャンスだとレイは感じていた。かくしてフライチャンズ展開を任されたレイはマクドナルド兄弟と契約書を交わし、理想の店づくりへと邁進する。

 キリスト教の教会のように全米中にマクドナルド店を普及させようと努めるレイだが、すぐには軌道に乗らない。当時は同じチェーン店でも、地域や店が違えばメニューも味も異なるのが当たり前だった。また、お店が増えれば増えただけ、資金繰りにレイは頭を悩ませるようになる。そんなレイに、メフィストフェレスのごとき一人の男性が声を掛ける。後にマクドナルド社の最高財務責任者になるハリー・ソナボーン(B・J・ノヴァク)だ。レイはフライチャンズ店にハンバーガー作りと営業のノウハウを教え、その見返りとして収益の1.9%をもらっていた。だが、ハリーはその考え方を根本的に改めるべきと告げる。レイはまず不動産を手に入れ、そこにフライチャンズ店を建て、そのテナント料を得るようにすればいいと。そうすれば、収益の1.9%よりも遥かに多く、安定した収入をキープできる。「あなたはハンバーガービジネスをやるんじゃない。不動産ビジネスをやるんです」とメフィスト、いやハリーはささやく。

 それまでは面白いビジネスに挑戦することに生き甲斐を感じていたレイだったが、ハリーの法的には何ら問題のないアドバイスに従ったことで、レイの懐に入ってくる収益は桁違いのものとなっていく。「外食産業の革命児」と世間にもてはやされるようになったレイは、以前の夢見がちなセールスマンとはもはや別人だった。長年苦労を共にし、資金集めに協力してきた妻エセル(ローラ・ダーン)はもう用済みとばかりに別れを告げ、若くて美人なピアノ奏者のジョアン(リンダ・カーデリーニ)と親交を深めていく。後にマクドナルド社のCEOとなるフレッド・ターナーら、レイに忠誠を誓う若いスタッフも育つ。銀行も進んで融資するようになったレイにとって、メニューの変更を頑なに認めようとしないマクドナルド兄弟は邪魔者でしかなかった。契約書を盾にレイの独断専行ぶりにクギを刺そうとするマクドナルド兄弟だったが、「契約は破るためにある」とうそぶくレイの敵ではなかった。マネーモンスターと化したレイはマクドナルド兄弟の頬を札束で叩くようにして、マクドナルドという屋号を含めた全ての権利を自分のものにしてしまう。

 52歳からアメリカンドリームを実現した男のサクセスストーリーを赤裸々に描いた『ファウンダー』だが、劇中のレイはとても正直に自分の夢を現実のものに変える秘訣を我々に教えてくれる。

「ビジネスは戦争だ。きれいごとでやっていけるか!」

 駅前にあるマクドナルドに入ると、いつでも同じ美味しさのハンバーガーが0円のスマイルと共に提供される。この美味しさの隠し味は、メフィストフェレス由来のものかもしれない。本作を観た後に食べるハンバーガーは、何とも言えない禁断の後味がする。
(文=長野辰次)


『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
監督/ジョン・リー・ハンコック 脚本/ロバート・シーゲル
出演/マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、ローラ・ダーン、パトリック・ウィルソン、B・J・ノヴァク、リンダ・カーデリーニ
配給/KADOKAWA 7月29日(土)より角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿、渋谷シネパレスほか全国ロードショー
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