12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第127話 〜天秤座-10〜

―――マズかった……?

彼は硬直したまま、私の方を見ている。

「どういうこと……ですか?」

自分の顔がみるみる内に火照ってきたのが分かる。おそらく真っ赤になっているだろう。

これまで“この作戦”で失敗したことは一度もない。ほとんどのオトコが落ちたわ。

この気まずい空気、何とか誤魔化さなきゃ……。

『あの、ホラ、遅くにわざわざ来てくれて、HP直して下さったから……その……お礼のつもり……的な……』

「…………」

―――また、しばしの沈黙のあと。

「……佐々木さんは、“そういう方”なんですね……」

一言、彼がポツリと呟いた。

“そんな人”……?それってどういうこと……?

すぐにキスしたり、身体を許したりするような“軽い女”って思われた……?

「もうすぐ作業終わりますので……」

そう言って彼は、PCに向かって修復作業を始めた。

『あの……ごめんなさい』

「どうして謝るんです?」

PCから目を離さずに彼が答える。

『突然、あの……』

「謝るようなことなら、しなけりゃいいじゃないですか……」

『…………』

エンターキーをパチンと叩いた音が、“終わりの合図”だった。

「修復、終わりました。一応チェックもしてあるので大丈夫かと思います」

『……ありがとうございます』

「それでは、私はこれで……」

薫さんがスクッっと立ち上がって、バッグを肩にかける。

「次からは、こんな夜遅くにお邪魔するのは、控えさせて頂きますね」

そう言って玄関へ向かう。

今の私には彼を引き止めるだけの理由も気力もない。ただ、黙って見送ることしかできない。

『あ……下までお送りします……』

「いえ、ここで大丈夫ですよ。それではお邪魔しました」

見送りすら拒否された私は、ドアの隙間から彼が見えなくなるのをただ見ているだけ。ドアがカチャンと音を立てて閉まった後には、物音ひとつしない空虚な部屋にひとり。

ティーカップに彼は口をつけていなかった。

『何よ……!』

これまでオトコからこんな対応をされたことはなかった。キャバ嬢だった頃も、いつもオトコは私を“特別扱い”してくれたのに。

『童貞のクセに……』

“オンナとしてのプライド”を傷つけられた私は、ベッドに突っ伏す。

『呼ばなきゃ……良かった』

オンナが勇気を出して誘惑したというのに、邪険にするなんて……。

ここ最近、舞い上がっていた自分が恥ずかしい。柄にもなく、仕事なんかにも一生懸命取り組んじゃってさ……。

『バカ……』

―――その日の夜は眠れなかった。そして翌朝、私は“また”遅刻した。

前のように、けだるげな勤務態度に逆戻りだ。

せっかく仕事、楽しかったのにな……。ドキドキしていて、頑張れて、評価されたりなんかもして。

一生懸命頑張る自分は嫌いじゃない。でも、何だか必死みたいで、カッコ悪い。だからいつも、頑張らないようにしてきた。

全力を出して上手くいかないなんて、私の美学に反するから。

いつも余裕があって、オトコたちにチヤホヤされて……。幸せな結婚をして、美しいものに囲まれて……“マダム”になるのが夢。

……でも、それで良いのかな……。

私のテンションに反して、サイトの方は好調―――。

今日も新作が2着、アクセサリーに加えてパンプスまで売れている。

主任も、

「サイト販売担当者も必要かしらね……梱包や発送、メッセージのやり取りなんかも今後、増えてきたら手間だしね」

なんてことを言っている。

私……、薫さんのお陰で、夢中になれた。

薫さんと親しくなれば、もっと何か“違う自分”を見つけていけると思っていたのに。

―――気がついた。私、恋をしていたんだ―――。

いつから……?

期待したり、呆れたり、感謝したり、悲しかったり……。

こんなに私の感情を振り回すなんて。

薫さん……

大人しそうな外見に反して、頑ななこだわり。優秀で仕事ができるのに、女性慣れしていない。

なんだろう、このアンバランス……。

これまで私が関わってきた、どんなオトコとも違っている。

『……頑張ってみようかな』

つい声に出た。

私、変わりたい……!

『あの、主任!』

「どうしたの?佐々木さん」

『私、サイト販売担当、やらせて頂けないでしょうか?』

「え……でも、お給料変わらないから仕事量が増えて大変よ」

『いいんです。私、やってみたくって』

カッコをつけずに、どんな小さいことにも一生懸命な薫さん。私も、そんな薫さんみたいになりたいと思った。

―――接客の合間に、裏でお客様とメールをやり取りして、売れた商品を丁寧に梱包する。

HPはクレジットカード決済だから、すぐに発送手続きに移ることができるんだけど……発送システムがまだ確立されていないから、直接郵便局から送るしかない……か。

洋服を買った時って、すぐに商品を着てみたいと思うわ。すぐに着てみて、鏡の前に立ってイメージ通りかチェックするのよね。このくらいの数なら、私にでも持っていけるはず……。

『すいません、発送しに郵便局、行ってきます!』

売れた商品を手に取り、駆け出す。お店から郵便局は、小走りなら5分で着くわ。

薫さん……。私を変えてくれたオトコ……。

店の外に出ると、太陽が燦々と輝いていた―――。

【今回の主役】佐々木恭子 天秤座27歳 アパレル店員センスがよく整った容姿の女性。男に困ったことがなく、広く浅く男性と付き合う、いわゆる“リア充”である。将来の夢は玉の輿に乗ることで、毎週タワーマンションで催される会員制パーティー『ロイヤル・ヴェイル』に参加している。仕事仲間からは陰口を叩かれているようである。

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