おひとり様の会社員が、40歳で都心に「7坪ハウス」を建ててみた。

「東京で家モチ女子になる」という無謀な企てを実現しようとして身に起きた出来事を、洗いざらい綴ってきたこの連載。

無事に銀行から計4100万円の融資を受け、「都心に7坪ハウスが欲しいの!」というワガママを叶えてくれる建築家ともめぐり会い、いよいよ実際に設計が始まることに。ところが出てきた設計通り建てると予算700万円オーバーとなることが発覚し……

「7坪ハウス」をバックにした塚本さん。手前には現在店主を務める雑貨店の看板が。

高飛車だった私…

いよいよ設計期間の終わりが見えてきた。かなり斬新な設計から、ちょっとだけ斬新な設計に変わったけど、たぶん使い勝手はよくなったはず。

そして、次に待っているのが「見積もり調整」だ。一方通行だったとはいえ、もはや建築家とバトルをしている場合ではない。今度はタッグを組んで、次なる「敵」である工務店と戦わなければならないのだ。しかも素人の私にはなす術もなく、建築家に前面に立って戦ってもらうしかない。

かといって、当時の私には「これまでの愚行を何とか挽回せねば」なんていう殊勝な気持ちはなかった。言いたい放題で設計を進めてきたにもかかわらず、「見積もり調整も、建築家のお仕事よね?」(さすがに、これは心の声)と、どこまでも高飛車。無知の知とは、本当に恐ろしい。「オンナひとりで家を建てるなんて大変だったでしょう」とよく言われるけれど、「オンナひとりで家を建てる施主(私)を相手にする建築家」のほうがよほど大変だったろうな、と今では思う。

予算700万円オーバー!

さて、結論から言おう。工務店(2社)から出てきた見積もりは、なんとO社が500万円、N社にいたっては700万円も予算をオーバーしていた。さすがに、言葉が出なかった。思い描いていた理想の家が、ガラガラガラと音を建てて倒壊した気分だ。やはり、一介のサラリーマンには、理想の家を手に入れるなど土台無理な話なのだろうか。

意気消沈している私に、建築家は「減額第一段階」と「減額第二段階」と書かれた2つの見積書を提示した。構造や木工工事などで金額・単価を是正できそうな項目を洗い出したのが前者で、内装仕様の中止・変更の提案が後者の見積もりだ。「減額第一段階」ではO社が300万円、N社が400万円、さらに「減額第二段階」を採用すれば、どちらも100万円オーバーの見積もりになる。

この2つの見積書を見て思った。実際に建築家は私のために、前面に立って「敵」と壮絶な戦いを繰り広げてくれていたのだと。最終的にO社に工事を依頼することになるのだが、O社の社長曰く「私も気がつかないような部分まで、これはこちらに変更できないかとか、ここはこうすればもっと安くできるのではないかと提案してくれた。こんなに細かく見積書をチェックする建築家はそうそういない」。さらに建築事務所オンデザインへの信頼度が増したのは言うまでもない。

この世の終わりのような顔をしていた私であるが、オンデザインの修正見積書を見た途端、一気に笑顔になる。我ながら現金な性格だと思う。渦中にいる間は、失礼な言動ばかりしていたが、改めて、本当に素晴らしい建築家さんに巡り会えたものだと実感するしだいである。

1階店舗部分の窓。通りに面した大きな窓で行き交う人の姿もちらほら。

ベランダと裏玄関は死守したい

「減額第二段階」で提案された内装仕様の中止・変更は随分と検討してくれたのだろう。ちゃんとポイント押さえてくれていたので、理想の家を諦めなければならないような大きな修正ではなかった。ベランダと裏玄関は死守したいけど、窓の一部は開かないfix、もしくはなくてもいいなど、どうしても譲れない部分や変更してもいいと思える部分を取捨選択しながら、もう一度見積もりを調整してもらうことになった。

ところが、世の中そう簡単にはいかないらしい。何とかやりくりして減額してきたのに、インフラ工事で100万円の追加が出たと、コーディネーターのMさんより報告があった。セットバック(狭い道路に接している土地に家を建てる場合の制限)の兼ね合いで、下水管とガス管を移動する必要があるというのだ。「土地を2坪も取られたうえに、インフラ工事も自腹ですか?」と、たまたま伝える役目を担ってしまったMさんに怒りをぶつける。自分がしでかしたことながら、気の毒なMさんである。

インフラ工事も含めたうえでの見積書が出てきたのは2011年のクリスマスだった。最終見積もりのミーティングは、建築家の「誠に恐縮ではありますが……」という言葉から始まった。100万円のオーバーだった。まったく建築家に責任はないのだが、ここでも私はあからさまにガックリしてしまう。そんな施主の精神的なフォローまでしなくてはいけないのだから、建築家は本当に大変だ。同席してくれていたMさんから、耳寄りな情報が飛び出したのはその時だった。

「H銀行が、もう少し融資額を上げられると言っていました」

その言葉に飛びついたのは言うまでもない。融資額を200万円プラスすることで、理想の家に近づけるなら安いもんだ、とまでは思わなかったけど、より借金が増えたのに、ホッとしている自分がおかしかった。

(塚本佳子)