一方、仙台戦では山口にも今季初ゴールが生まれている。3-2で迎えた終盤の貴重な4点目だった。ただ、得点後には笑顔を見せた山口だが、ミックスゾーンでは「あまり喜べる気分ではない」とだけ小さな声で話し、スタジアムを後にした。
 
 清武との絆は深く、その加入をチームの誰よりも喜んだのが山口だった。柿谷、清武と同様、山口も2014年に怪我で長期離脱した苦い経験を持つ。キャプテンを務めていた当時、ブラジル・ワールドカップを終えた8月に右膝外側半月板を損傷。シーズンを棒に振り、チームはまさかのJ2降格を喫した。
 
 さらに昨夏には、わずか半年でドイツのハノーファーからC大阪に戻り、世間の注目を集めた。今季はクラブでユース出身者として初めて10番を背負い、黙々と中盤を支える男は、「焦らずゆっくり治して戻ってきてほしい」と清武を気遣う。
 
 もっとも清武を失ったチームは、「清武のためにもしっかりやろうという空気が生まれている。全選手が団結して戦っている」と、ユン・ジョンファン監督が目を細めるほど活気に満ちている。17 節のFC東京戦は前半に先制されるも、後半に入って3ゴールを奪い逆転。暫定ながら約12年ぶりに首位に立つと、その後一度は鹿島に抜かれたものの、18節で再び首位に躍り出ている。
 
 FC東京戦後、清武へのメッセージが書かれた横断幕をサポーターから受け取った選手たちは、スタッフも含めて1枚の写真に収まった。厳しいリハビリに臨む清武を勇気付ける、これ以上ない贈り物だった。“タイトル”への強い意志を示した清武の気持ちを汲んだ柿谷、山口が中心となってこの夏を乗り越えれば、チームの一体感はさらに増すはずだ。彼らが頂 点を極めたとしても、驚きはない。
 
取材・文:小田尚史(フリーライター)
 
※『サッカーダイジェスト』2017年7月27日号(同13日発売)より抜粋。一部加筆修正して転載しました。