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リクルートの求人サイト「リクナビ」に掲載された居酒屋チェーン「ワタミ」の採用情報に対し、「ブラック過ぎる」との誤解がネットで広がった。深夜勤務の「月間127時間分のみなし」という表記が、過労死ラインを超える「残業時間」と勘違いされたためだ。

しかし、これをきっかけに給与条件を分析した識者からは、記載に不備があるのではないかとの指摘がなされている。通常の計算方法をすると、手当の金額が不足してしまうからだ。

弁護士ドットコムニュースが、ワタミに確認したところ、同社広報は「社労士を含めた有識者のチェックを経たもので、問題ないと考えている」と回答。表記の修正は検討していないという。

●初任給情報から「時給」を計算…手当は適正な金額なのか?

「基本給20万2100円(月間127時間分の深夜みなし手当3万円、営業手当1万円含む)」

これが、リクナビに掲載されているワタミの初任給の内訳だ。まずは時給を求めてみよう。採用情報によると、年間所定休日は107日なので、年間の所定労働日は258日(365日−107日)。「1日実働8時間」をかけて、年間の所定労働時間は2064時間。これを12カ月で割った172時間が月の所定労働時間だ。

この172時間を月の給与で割れば、時給を割り出せる。基本給20万2100円には、深夜みなし手当が3万円、営業手当が1万円含まれている。この2つを差し引いた、16万2100円で計算すると、時給は942.4円。全国でもっとも高い東京都の最低賃金932円をクリアする。

検算のため、時給943円(小数点第1位を切り上げ)に0.25(深夜割増)をかけ、127時間分にすると、約2万9940円となり、ワタミの深夜みなし手当3万円とほぼ一致する。

●三浦弁護士らが指摘、ワタミの「営業手当」はどういう性質のものなのか?

ただし、ここで1つ問題がある。上記では、ワタミの「営業手当」を除外して計算したが、これが適切と言えるかどうかだ。通常、時給は手当込みの金額で計算する。法律上除外できるのは、実態が以下に相当する場合のみである(労働基準法37条5項、同施行規則21条)。

(1)家族手当、(2)通勤手当、(3)別居手当、(4)子女教育手当、(5)住宅手当、(6)臨時に支払われた賃金、(7)一カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

ワタミの営業手当がいずれかに該当するか、実質的な固定残業代でなければ、この計算は成り立たない。ネットでも、三浦義隆弁護士らがこの問題を指摘していた。

●ワタミの回答は「基準内給与」…手当の金額が不足?

弁護士ドットコムニュースの取材に対し、ワタミは次のように回答している。

「営業手当は、外食事業の店舗に勤務している社員に支給しているもので、店舗勤務者を労う手当です。固定残業代ではなく、(残業代計算の基礎になる)基準内給与に含まれております。もちろん給与規程でもそのように記載しております」

であれば、基礎となる賃金は17万2100円になるので、時給は1000.6円。すると、127時間分のみなし深夜勤務手当は、約3万1770円はなくてはならない計算になる。つまり、現在の3万円では不足している可能性がある。

これに対し、ワタミ広報は、「127時間は、想定上の上限値。実際には60時間前後が平均なので、127時間に到達することはありません」として、問題ないとの見解を示している。

労働問題にくわしい古金千明弁護士によると、実務の上では、こうした「計算間違い」に遭遇することは、珍しくないそうだ。

「求人条件の表示の話と、残業代の未払いが実際に生じているかどうかという話は別の論点として考える必要がある」といい、誤りがあれば、求人条件の表示は直すべきだが、実際の残業代が固定残業代を超過しているのに精算がなく、未払いが生じていない限り、残業代の未払いという問題としては顕在化しないという。

●2016年12月からリクナビやマイナビでは、固定残業代の内訳を明記

こうして検証ができるのも、ワタミが給与の内訳を一定レベルで明らかにしていることは指摘しておきたい。

就活情報サイトでは従来、内訳の公開が不十分で、「求人詐欺」などのトラブルが多発していた。たとえば、入社してから、月給の金額が固定残業代込みだったと分かるといったケースだ。

トラブルを防ぐため、2016年から本格スタートした「若者雇用促進法」の指針では、求人票の固定残業代の表記について、内訳の明示を求めている。

これを受け、求人情報サイトも独自に対応を始めた。リクルートキャリアやマイナビなど、60社以上でつくる全国求人情報協会は、2016年12月1日以降、固定残業制を採っている企業に対し、(1)⼿当の⾦額、(2)時間、(3)超過した場合は追加⽀給する旨の記載がなければ、掲載を断る運用をとっている。

今回のワタミ騒動は、こうした取り組みがあってこそと言えそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)