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ケータイ西遊記 -第16回- 中国/広州編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

「山根康宏のケータイ西遊記」連載記事一覧

【広州で買いたかったケータイ】



モトローラ

MPx

販売価格(当時):1万元(約13万円)

縦横に開く変形ギミックスマホ。定価でも8万円程度だったが中古店ではさらに高値の13万円が提示され、さすがに買えなかった。

食の都な中国広州で

中古ケータイ屋巡り



「食は広州にあり」と言われる中国南部の巨大都市、広州。“四本足のものならテーブル以外は何でも食べる”と揶揄されるほど奇食も多いのが特徴だ。レストランの隣に動物園があると思いきやそれは食材だった、なんて逸話も聞かれるほどである。

そんな広州は古くから海外との貿易が盛んな都市だ。世界の工場と化した同じ広東省の深センが発展したのはわずかここ十数年のことだが、広州ではずっと前からモノの取引が世界中と行われてきた。中古の自転車やバイクが広州からアフリカなどへ輸出もされていたのだ。当然、ケータイの中古を扱うビルも市内に多く点在していた。

自分は数カ月に一度の広州通いを行っていたが、目的はもちろん食事ではなく中古ケータイ。広州に集まる中古機は古い製品も多く、見たことも無いような端末を見つけることも多かった。大抵の店ではこちらが日本人と知ると「なんでこんな古い端末を買うんだ? コレクションにしているのか? だったら安くしてやると」と、フレンドリーに中古機を売ってくれた。

中国人ですら買わないような古い端末を、わざわざお金を出して買うこと自体、不良在庫、いや“ゴミ”がお金になっているようなもの。そうやってゴミ漁りをする外国人など、彼らにとっては上客だったに違いない。



▲広州と深センを結ぶ高速鉄道。香港からも2時間程度で広州入りできる。

幻の謎スマホを発見

売らない店主の秘密



広州にもだいぶ慣れた2005年、いつものように中古ビルの1つを訪問し、お店を片っ端から回り始めた。このビルには小さなショーケースに自分で仕入れた中古端末を売る店が百軒以上入っている。

今回は予算があるので古いスマホを探そうと全てのお店を片っ端から回った。だが、中古屋巡りはお金があるときに限ってモノは見つからず、無いときにレアなブツと巡り合えるのが“あるある”だ。

そうやって店内の7割程度の店を回り終えたときに、1台のスマホが目に飛び込んできた。モトローラが出していた『MPx』という変形スマホだ。ガラケーのように折り畳み式だが縦に開くだけではなく、横にも開くという変態ギミックが魅力の製品だ。しかもキーボード部分はパソコンと同じフルキーボードを備えている。発売になったかどうかも不明な製品が、ショーケースの片隅に置かれていたのだ。

しかし店員は不在。どうやら昼食に行っているようだ。待つこと30分ほどして30歳前後だろうか、金髪でやり手に見える店主が戻ってきた。「これが欲しい!」と真剣な眼差しで訴える……。しかしこれは売らない、と突っぱねるのだ。両隣の店員も「この日本人はずっと待ってたよ」「現金も持っているぞ」と助け船を出してくれる。すると店主は仕方なく「1万元」とぶっきらぼうに言い、また店を離れてどこかへいってしまった。当時のレートで約13万円。そんなお金はもちろん持っていないし、レア品とは言え高すぎる。

諦めきれずに再び1時間ほど待っていたが、店主は戻ってこなかった。その間にショーケースに並ぶ製品を見ると、他にも珍しい端末が多数おいてある。両隣の店員に聞くとこの店主は珍しい端末を買い集めているという。つまりここは店ではなく、彼のコレクションを並べている場所だったのかもしれない。この『MPx』も入手したてのブツだったのだろう。しかし、それならばなぜここで店を開いているのだろう? それに端末を売らなくてどうやって生計を立てているのだろう?

店主が店にいるのは週の半分で昼間だけと隣の店員が教えてくれた。もしかすると本業を持ちながら、自分と同じマニアで古い端末を収集しているのだろうか。そしてここは家族にも知られたくない、彼の憩いの場所だったのかもしれない。ケータイを集めているマニアだと話しかければ、あんな対応はされなかったかもしれない。

数カ月後に再訪したが、ビルは再開発され店内は洋服店に入れ替わっていた。彼はいまでも変形スマホを持っているのだろうか? 一度会ってマニア談義をしたいと、今でも広州に行くたびに彼のことを思い出すのだ。



▲広州では当時PHSもサービスされていた。名も知らぬメーカーの端末たち。

文/山根康宏

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1500台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

※『デジモノステーション』2017年9月号より抜粋