国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が7月24日、「中国の経済成長が続けば10年後にはIMF本部を北京に移す可能性がある」との見方を披露したことで、経済規模の「米中逆転」が改めてクローズアップされている。資料写真。

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国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が7月24日、「中国の経済成長が続けば10年後にはIMF本部を北京に移す可能性がある」との見方を披露したことで、経済規模の「米中逆転」が改めてクローズアップされている。同氏は中国など新興国の経済規模に合わせ、IMFの議決権比率を見直す必要があると指摘。その上で「10年後は北京本部でこうした議論をしているかもしれない」と述べた。「フェイクニュースではないか」「冗談だ」との反応が飛び出したほどの衝撃的な発言と言えるが、戦後の国際金融体制の主導役を果たした国際機関の本部が中国に移る可能性を示唆したものと注目されている。

この発言、IMFの本部があるワシントンでのシンポジウム対談で飛び出した。ラガルド氏は「経済規模が最大の国に本部を置く」というIMFの条項を紹介した上で「(北京移転の)可能性はある」と付け加えた。

IMFは設立以来、本部をワシントンに置き、最大の出資国である米国が最大の議決権を持つ。IMFをはじめとする国際機関の長期見通しでは、中国経済は2020年代にはGDPで米国を抜く可能性があると指摘されている。

IMFは7月16日に発表した最新の経済見通しで、2017年の米国の成長率見通しを2017年2.1%(今年4月時点の予測比0.2%マイナス)、18年2.1%(同0.4%マイナス)に下方修正。一方、中国は17年6.7%(同0.1%プラス)、18年6.4%(同0.2%プラス)に上方修正した。トランプ米政権は議会審議の混乱で、選挙で公約した税制改革やインフラ投資などのメドがたたないという。

張宇燕・社会科学院世界経済政治研究所所長は、GDPで米中逆転はあり得るかとの質問に対し、「今後5〜10年間の年平均潜在成長率は中国が6%なのに対し米国は2%程度で4ポイントの差がある。16年時点でGDPは米国の17兆ドルに対し中国は11兆ドルなので、10年後には逆転する。IMF発表では購買力平価方式では14年に既に米国を上回った」と答えた。

畢吉耀・中国マクロ経済研究院副院長は「消費者物価も2%以下に抑えられ、安定している。中間層の急拡大に伴い個人消費が大きく伸びた」と解説している。

中国政府の発表によると、今年1〜3月期、4〜6月期の同国GDPはともに前年同期比6.9%増となった。インフラ投資が拡大し、好調な不動産販売も成長を支えたと説明している。この成長率は17年の政府目標の「6.5%前後」を上回る水準だ。

渡邊頼純・慶大教授は、トランプ大統領の通商政策は環太平洋連携協定(TPP)からの離脱や世界貿易機関(WTO)の軽視など「多国間協定より二国間取り決めを重視している」と指摘。このままでは中国が米国に代わって貿易秩序の主導者になる可能性があると予想する。その上で、中国には(1)東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など他国間取り決めなどを推進、貿易秩序の主導者になる、(2)「一帯一路(海と陸のシルクロード)」に資源を集中、「中国による中国のための」貿易秩序を構築へ―などのシナリオが考えられるという。

田中均・国際戦略研究所理事長(元外務審議官)は、「米中間で貿易戦争になったら、日本や東アジアは大きなダメージを受ける」と指摘。米中首脳間で経済・外交・安全保障を包括的に決着させる「グランドバーゲン」が成立することが日本とってもアジア諸国にとっても望ましい、との考えを示した。北朝鮮の核ミサイル開発問題に関し、南北朝鮮が統一されて平和な体制をつくるために、米中韓日など国際社会は行動すべきだと強調した。

中国が米国に代わって世界一の経済大国になるとの見通しは、日本にとっては見たくないシナリオ。「中国経済崩壊論」や「不動産バブル崩壊」も、日本では20年ほど前から喧伝されている。しかし中国の経済規模は日本を2010年に抜き、既に3倍近い水準。米国を凌駕する日が到来する可能性が大きい。既に14億人の巨大人口と富裕層や中産階級の拡大を背景に世界最大の消費大国にのし上がっており、米国、日本にとって最大の貿易相手国となっている。新たな世界秩序に向けた複線型の冷静な対応が必要となろう。(八牧浩行)