「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(33歳)と海野優子(32歳)。

脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。

第7回からは「有識者会議」ということで、今、話を聞いてみたいゲストに会いに行くことに。今回のゲストは、旅をしながら仕事をするフリーランサーとして活躍中の安藤美冬(あんどう・みふゆ)さん。

フリーになるにしろ、起業するにしろ、独立系女子といえば、どことなくスーパーウーマンという感じがして「マネできない……」と気おくれしてしまうもの。でも、ミッフィこと、安藤美冬さんはすごく身近な同世代に思える。そんな、ちょっと失礼な理由から、「ぜひ、話を聞いてみたい!」と取材を申し込んでみたふたり。

フツーの女性にとって、「フリーランスとして生きる」は現実的な選択肢になりうるの?

「フツーの人」の戦いかた

鈴木:こんにちは、安藤さん。このたびはウートピ働きかた改革の「有識者会議」にお越しいただき、ありがとうございます。安藤さんはテレビに書籍にネットに……いろんなメディアでも活躍されている、まさに「すごい人」なんですが、どこか身近に感じてもいて。安藤さんが80年生まれ、私が83年生まれ、海野Pが84年生まれと同世代であることも関係していると思うんですが。

海野P:私も会社員ですけど、安藤さんには親近感がありました。独立されている女性と聞くとすごくパワフルで「私にはムリ……」って思っちゃうんですが、安藤さんは肩肘はらない感じがして。

安藤美冬さん(以下、安藤さん):私、自分で言うのもなんですが、本当にごくフツーの人だと思いますよ。会社員時代は「おまえは失敗動物園か!?」っていうくらい失敗ばかりしていたし、じっくり準備をして独立したはずなのに食えない時期があったりと……。

確かに、女性で独立されていたり起業されていたりする方が「スゴすぎる」っていうのは、私も感じてました。でも、フリーランスはスゴい人にしかできない働きかたかといえば全然そうじゃない。私たちみたいな「ごくフツーの人」にはフツーの人なりの戦いかたがあると思うんです。

海野P:なんと心強い。ぜひ聞かせてください。

鈴木:私もまだフリーとして独立して2年目なので、その戦いかた、じっくり教えていただきたいです。

野心も戦略も特になかった

鈴木:安藤さんは24歳で大手出版社に新卒で入社されて、30歳で独立されてフリーランサーになられましたよね。20代の頃から「いつか独立するぞ!!!」って感じだったんですか? 

安藤:全然(笑)。正確にはよく覚えてないだけなんですけど。

鈴木:「こんなふうに生きていくぞ!!!」みたいな戦略とかも、なかったんですか?

安藤:ないない(笑)。

鈴木:野心も戦略も特になかったんですね。やはりすごく親近感を覚えます。

海野P:「ウートピ」も含めてメディアで取り上げられる独立系の女性って、夢に向かって一直線!!!って感じの人ばかりだけど、実際はそんな女性はかなり少数派だと思うんです。

安藤:私は全然そういうタイプじゃなかったですね。自分の中で決まってたのは「旅しながら本を書きたい」ということだけ。何で収入を得ながら、何の本を書くかも何にも決まってなくて(笑)。ただ「旅」と「本」が、人生のキーワードとして10代の頃から自分の中にあったんです。

鈴木:ふわっふわっしてますね。それで、本が好きだから出版社に新卒入社されて……。

安藤:一応そうなんですけど、就活では総合商社、広告代理店、マスコミ……とジャンル関係なく大手から順に受けてたんですよ。超わかりやすい大手志向の学生でした。で、結局、大手出版社と大手芸能プロダクションから内定をもらってどっちに行こうか迷うという(笑)。

鈴木:なるほど、それはかなり軸がないかも(笑)。

海野P:わかるーーーー、私も同じ感じだったーーー!!!

安藤:大学生だから仕方ないですけど、戦略なさすぎですよね。最終的には「本」により近そうな出版社を選んで、営業をやることにしました。天邪鬼な性格なので、出版社に入る学生なら9割は編集希望に決まってるから、逆の1割に賭けてみようと営業を希望しました。

「失敗動物園」だった頃

鈴木:入社されてからは広告営業を3年、半年の休職期間を経て宣伝部に異動。30歳で独立されるまで計6年間大手出版社で会社員として働かれました。私自身は会社員になって3カ月で「向いてないな」と気づいて、その後かなり悶々とした時期を過ごしていましたが、安藤さんはどうでしたか? 会社員、向いてましたか?

安藤:今、こうして考えると「会社員やっといてよかった」と心から思いますが、実際には失敗しまくっていてつらい時期がありましたね。社会人としてダメダメちゃんでした(笑)。やる気はあるんだけど、会社のルールをすっ飛ばしちゃう子だったんです。社会人として期待されるふるまいがことごとくできなくて。

鈴木:たとえば?

安藤:いっぱいありすぎて(笑)。たとえば、女性誌の広告営業をやっていた時に、ある高級ブランドバッグの案件で日本支社長と会食する際、ライバルブランドの新作バッグを持っていっちゃったり。

鈴木:おお、それは相当ヒヤヒヤものですね……。

安藤:ですよね(苦笑)。あとは、何しろやる気まんまんだから担当していた女性誌を隅々まで研究し尽くして、編集長の前で堂々と「こうしたらいいと思います!!」みたいな感じで自分の考えを披露しちゃったり。入社2、3年目のペーペーだったのに……。他には1500万円の広告案件が吹っ飛んじゃったこともありました。

鈴木:なかなかの大型新人ですね。

安藤:まあ、とにかく「おまえは失敗動物園か!?」っていうくらい、始末書レベルも含めて相当数の失敗をしました。26歳、入社3年目くらいが一番つらかったですね。自分にできることがないから。「認められない、認められない」という思いばっかり膨らんでいきました。

鈴木:そこから独立を決意するまでの間に転機のようなものはあったんですか?

安藤:これが転機というのはないんですが、異動になったことは大きかったですね。異動先の宣伝部の上司は「社内で一番たくさん始末書を書いた人」だったんです。でも、出世頭としてグイグイ部を盛り上げていました。その彼が「安藤はオレが引き取る」と言ってくれたらしくて。

異動後の飲み会で、その上司から「これだけたくさん失敗したということは、誰よりもたくさん行き止まりを見つけているということ。だから、これからはうまくいく」と言われて。泣いちゃいましたね。そこからは、どんなにつらくても毎日会社に行って新しいことをやろうと心に決めました。

「独立の種」はなくてもいい

海野:安藤さんはそんなふうに失敗を重ねながら6年間会社員をされていたわけですが、どの時点でフリーになって「これをやりたい!」っていう独立の種を見つけたんですか? やりたいことが明確であればいいんですが、見つかっていない状態で焦りだけを感じて悶々と会社員をやっている人も結構いると思うんです。

安藤:「独立の種が見つからない」という問題はありますよね。私のまわりでもよく聞きます。私の場合、見つけないまま独立しました。

鈴木:そうなんですか!? 何をやるか決めないまま独立したんですか?

安藤:鈴木さんみたいに「編集をずっとやってました!」というようなわかりやすい専門性があることはもちろん大事なんですけど、必ずしも、そういう専門性というか「独立の種」みたいなものはなくてもいいと思うんです。実際「自分には強みがない、どうしよう……」という人は多いですよね。大多数はそういう人です。私もそうでしたし。

海野P:私も……。

安藤:そういうフツーの人は、「掛け合わせ」で勝負すればいいと思うんです。人よりちょっと詳しいと思えるものを3つ束ねれば、仕事は来ます。私なら「世界50ヵ国を旅したことがある」「英語ができる」「人をいっぱい知ってる」の3つを掛け合わせて、フリーとして生き抜いてきました。それが私たちみたいなフツーの人の戦いかただと思うんです。

海野P:そういう考えかたもあったのか!?「私、これやります!」っていうわかりやすい看板がないとダメだと思ってました。

鈴木:なるほど。たとえば、ここにいる海野Pの場合は何を掛け合わせればいいでしょうか? 

安藤:うーん、まず「ウェブメディアをやってきた経験」がありますよね。

海野:あとはターゲットにしている「20代、30代の働く女性の心理に詳しい」とか?

安藤:いいですね、アリです。

鈴木:最後の一つは「麻雀が好き」かな。おっ、3つありましたね。

安藤:そうそう、そんなふうにみんな「人よりちょっと詳しい」は、3つくらいなら案外見つかるものなんです。私は編集者、私はデザイナー、私はプロデューサーと専門性で縦割りにする必要はなくて。専門性はその人の肩書きの一面に過ぎないんです。これからは個人が多面で働いていく時代になっていくんじゃないかな、と。

鈴木:独立の種がなくてもフリーとして生き抜ける。そんな希望のある話が伺えた前半でしたが、後半では、実際に独立に向けてコツコツと準備したこと、独立後に実際に味わった苦労など、リアルな話を聞いていきます。安藤さん、よろしくお願いいたします! 

(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)

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