新たな調査結果からわかること:イギリス国民はブレグジット交渉での妥協に前向き

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著:Jonathan Grant(キングス・カレッジ・ロンドン Director of The Policy Institute and Professor of Public Policy)、Alexandra Pollitt(キングス・カレッジ・ロンドン Research Fellow at the Policy Institute)

 2016年12月、EU脱退計画の詳細を問われた際、テレサ・メイ首相は要旨について何の説明もしなかった。彼女の回答は単に「赤、白、青(ユニオンジャック)のブレグジット」を望むということだけだった。私が同僚と最近公表した研究で示したとおり、彼女が言う赤、白、青がノルウェーの国旗をあらわしているのであれば、イギリス国民は彼女に賛同すると思われる。

 イギリス国民は、独自の貿易協定締結や単一市場へのアクセスを重要視している。このことを踏まえて、我々が導き出した主要な研究結果の1つは、彼らがEUとノルウェー間のような関係構築を望むということだ。そうなれば、単一市場への参加や移動の自由は保持され、欧州司法裁判所といったEU機関への統治権を失うことになるものの、他国との自由貿易は実現する。

 この結論に至るまでに、ロンドンのキングス・カレッジの政策研究所は、RANDヨーロッパおよびケンブリッジ大学と共同で、イギリス国民がブレグジット問題のさまざまな構成要素をどのように評価しているか、を調査した。このときとったのが、「表明選好離散選択実験」と呼ばれる経済的なアプローチ法だ。これは従来のものよりも厳密な調査法で、「イギリス社会的態度調査」に参加した917人を対象にした面談の情報をもとにおこなわれた。

 我々は国民の優先傾向を知るため、ブレグジットの仮説に基づいた選択肢を提示し、それを取捨選択するよう調査対象者に求めた。これは、人々に直接希望を問う世論調査とは対照的だ。その方法では、対象者が社会的に受け入れられやすい回答をするなど、実態とのズレが生じることがある。我々のアプローチでは、ブレグジット合意のもつ属性について、人々がどのように相対的な優先順位をつけているのか、を評価することもできた。つまり、全国民があらゆるシナリオをどの程度受け入れているか、を定量化できるということだ。

◆単一市場が移民規制を凌ぐ
 我々の調査結果は、ブレグジットの国民投票について一般的に思われていることと一部矛盾している。多くの人は、国民がイギリス移民政策を決定的に拒絶したことが国民投票の結果にあらわれたのだと解釈している。しかし、我々が調査したところ、貿易協定締結の実現や単一市場へのアクセス維持にくらべて、国民は「移動の自由」を制限することを重視していないことがわかった。実際には「移動の自由」の制限自体が最大関心事ではなく、その根底に公共サービスが圧迫されることに対する懸念があるとみられる。

各選択肢の価値、現状との比較(EU予算の観点から試算。1世帯の1週間あたりの負担額をポンド単位で)。
イギリス国民はどのような形のブレグジットを望んでいるのか。キングズカレッジロンドン、著者提供

 この調査でわかったのは、「イギリスに居住し、労働するEU加盟国の国民は、正規に就労していなければ公共サービスにアクセスすることができない」という要件の優先度が高いことだ。その場合、それに応じて同様の条件をEU加盟国にいるイギリス国民にも適用する。また、休暇目的の移動については、イギリス国民がEU圏内で緊急事態に利用できる健康保険を望む一方で、面倒な手続きはできるだけ減らしてほしい、と強く希望していた。今回の調査に含まれた要件のうち、もっとも価値のある提示として評価されたのが、イギリス人がリスボンを訪れにしろ、ブルガリア人がロンドンを訪れるにしろ、ビザ不要で渡航できるように、という希望だった。

◆「合意のない」ブレグジットはいらない
 今回の研究は、ブレグジットに関するメイ首相のある宣言に疑問を投げかけた。記憶に残るその発言は、「悪い合意なら、しない方がまし」というものだ。念仏のように繰り返されるこの文句が、近頃、人々の注視の的だ。7月初めにイギリスの企業がおこなった調査によると、調査対象者の98%が「合意のない」ブレグジットは受け入れられないと考えていた。

 その数日後、外務次官のボリス・ジョンソン氏は、合意なしにEU脱退することは、実際のところ政府にとって現実的な選択肢ではないと示唆する発言を行った。「合意なしという計画はない。我々は素晴らしい合意に至るはずだ」と彼は語った。

 我々の調査から、イギリス国民もまた「合意なし」のシナリオに関して、大きな懸念を抱いていることがわかった。簡単に言えば、彼らが首相の主張に同意することはないと見られる。彼らはブレグジットについて適切な合意を望んでおり、イギリスが世界貿易機関(WTO)の条件のもと、EUから脱却することは本意ではない。

 全体を通して見えるのは、一部の予想よりも国民が妥協策により協力的であるということだ。彼らは、望むものすべてを手に入れるのは不可能であると認識しており、譲歩に前向きな姿勢を示している。7月17日にブレグジット交渉の2ラウンド目が始まったが、政府が従来の考え方のまま議論に入るかどうかまだ不透明だ。「国民が希望するものを与える」と躍起になる可能性もあるが、我々の調査結果は、どんな犠牲を払ってもブレグジットを実行するというわけではない、ということを示唆している。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac