笑い話でもなんでもなく、「冷房がきつすぎるから、会社を辞めたい」と言う女性は少なくありません。
私が出入りをしている会社にも、そんなアラサーOLがいます。仮にT子さんといたします。

シェアオフィスの一室を間借りしているそのオフィスの冷房設定温度は、24℃。室内の壁2面に大きな窓があって熱を貯め込んでしまうせいか、部屋に入ったときの体感温度は28度くらいです。「あ、涼しい〜、嬉しい〜」というくらい。しかしT子さんは、地厚のブランケットに包まり、震えながらパソコンに向かっています。ニット帽をかぶっていた日もあります。指なしの手袋をはめてキーボードを叩いていた日もありました。

社員10人。その中で社長の次にエライのが経理のアラフィフ女性です。温度設定権は彼女にあります。彼女のデスクはエアコンの真下。一方、T子さんのデスクは、エアコンの通風口からの冷風がダイレクトに当たる場所です。

社内でも、文字通り「彼女への風当りがきついという」という協議は行なわれたそうです。
それは、風向きを変えるためにエアコンの通風口に取り付けられた段ボールが、片側だけ落ちてブラブラと揺れていることでもわかります。何度ガムテープで固定しても、時間が経つと剥がれてしまうとか。冷房の強風のせいです。そして、それがT子さんに直撃する。

打ち合わせは外でしましょうということになり、T子さんと荷物をまとめて部屋から出ようとしたところ、ちょうど社長が外出先から戻ってきました。そして開口一番、「この部屋、暑くね?」。エアコンのリモコンをつかんで、設定温度を下げます。

そのときのT子さんは、ただ唇を噛んでいただけでしたが、別室に移って、私が「あの冷房直撃はきついよね〜」と軽い調子で言った瞬間、泣き出してしまいました。ああ、地雷を踏んでしまった……。これはもう、責任を持って話を聞くしかありません。

アラフィフ経理先輩は、暑がり。灼熱地獄の出先から戻ってくる営業社員さんたちは、冷房大好き。そして、社長は能天気に「この部屋、暑くね?」。

席替えは「面倒くさい」と拒否されてしまったものの、いちおうの対策はしてくれた。オフィスには同世代の女性もいるものの、「直接冷風が当たる状態とそうじゃない状態だと、温度差が違うから辛さを共有してもらえない」とT子さんは言います。「結果、私がわがままを言っているように思われて、どんどん肩身が狭くなるんです」と。まさに四面楚歌状態。でも、寒いものは寒い。辛いものは辛い。そして、「もう、辞めたいです……」と鼻を啜りながら言うのです。

エアコンがきついことが、仕事のやりがい搾取になってしまっている……と茫然としました。

「エアコンの温度を上げてほしい」と言えない立場の弱さ

T子さんの場合、打ち合わせ中に何を聞いても、「私が何か言ったって採用されるわけじゃないですから」「意見してもムダなんで」「私、聞かされていないんで」と、遮断するところがありました。だから、もともと何年も働いていているのにもかかわらず、仕事全般において決定権がもらえない立場に、本人自身、忸怩たる思いがあったのかもしれません。自分は役に立たない人間なんじゃないかと。

だからといって彼女が特別で、「冷房がきつい“くらい”で会社を辞めたいなんて、極端すぎる」というわけでもないと思います。こういう気持ちって、普通によくあることのような気がします。

「社内のエアコンの設定温度に主導権がある」ということは、つまり「社内で発言権がある」ということです。逆に、本当に辛いのに我慢しなければいけない、言えない、ということは、「職場での立場の弱さ」を意味するのではないでしょうか。それが自分により「辛さ」を与える。

立場の弱さというのは、年齢やキャリアの話ではありません。温度設定権のある人物に取り入り、「この部屋、ほんっとうに寒いんです〜。もう、ほら、手がこんなに冷たくなっちゃって……」と相手の手の甲にそっと触れながら、「少しだけ設定温度を上げてもいいですか?」と、うまいこと自分の思い通りに人を動かせる若手女性もいるでしょう。でも、T子さんのような人は、「そんなことは、自分はできないし、したくない。でも、したほうがいいのか?それが会社で働くということ?そっちのほうが得なの?得よね?でも、そんなの私じゃない」ともやもやしてしまうのです。

冷房の効きすぎは、生真面目すぎる働く女性に、「自分には、この会社は向いていないんじゃないか」という気持ちまで誘発するのでは、と思うのです。

「冷房がキツイって文句を言う女性ほど、薄着だったり露出が高かったり。チャラチャラした服を着ている。寒いなら服を着たらいい」「女性は寒い、寒いって言いすぎ。自分が体質改善すればいいだけ」という声もあるように、文句言うな、という雰囲気も少なからずあります。これだって、やりがいの搾取になりかねません。

「凍死は労災になりますか?」その2では、あずき総研がアラサー&アラフォーOLにリサーチした「うちの会社のエアコンバトル」を紹介します。

真夏でも冷え取りと戦わねばならぬ理不尽さ。