新たな命が宿ると、多くの人は祝福を受けます。

しかし世の中には、祝福の言葉をかけられることが少なく、むしろ眉をひそめられてしまう妊娠もありました。

「妊娠なんかして」といわれ、しかも退学という罰がついてくる悲壮なものです。

高校生の妊娠

「高校生の時、別の高校で、妊娠して退学した人がいるって聞いた」

高校生で妊娠した場合、在籍している高校の自主退学をすすめられることが多いようです。

学校が自主退学をすすめる理由には、以下が挙げられます。

「学校の評判が下がる」「学校の風紀を乱す」「不謹慎である」「授業の邪魔になる」と考えられているから。学校側に、生徒の妊娠、出産を想定した体制がなく、対応できないから。他の生徒から好奇の目にさらされ、妊娠した生徒の精神的負担になるから。

学校からのさまざまな説得によって、自主退学に心が揺れる生徒もいるでしょう。

しかし、自主退学したら、学歴は中卒です

平成28年度「高校・中学新卒者のハローワーク求人・求職状況」を見ると、高校新卒者の求人数が約32万4千人なのに対して、中学新卒者の求人数は920人。

求人倍率は、高校新卒者は1.75倍で、中学新卒者は0.91倍です。

選択肢が高校新卒者より少ない上に、就職するのが厳しい数字となっていました。

また、就職しても給料が上がらないなど、条件の悪い仕事にしか就けない可能性もあります。

はたして、妊娠した生徒を自主退学させてもいいのでしょうか。

Twitter上では、高校生が妊娠して退学することについて、次のようなコメントが上がっています。

高校には産休ないからね…。休学だといいのにな。保育園や両親に預けられるようになったら復学できる、みたいになったらいい。恋をして、恋愛をして、妊娠したことの何が悪いのかしら?女子が退学させられること多いよ。でも「女子が退学なら男子も退学」ではなく、「女子も男子も退学の必要なし」にすればいい。普通に通学させたらいいやん。周りの生徒は妊婦への気遣いや手伝いを覚えられる。

退学に疑問を持つ声が多い一方、退学に賛成の意見も見受けられました。

学校は、子どもを産ませるためにある場所じゃない。

「学校は勉強の場所。余計なことは取り除くべき」という考えに基づくコメントです。

しかし、『知識を深める場所』である大学では、子育てをしながら通っている人がいます。『働く場所』である会社で、働きながら育児をする人も。大学生や社会人は、自分たちの生活の一部として学校や会社に行っています。

そして、16〜18歳の高校生も、自分の生活の中で学校に通っているのです。

「年齢的に出産するには母体のリスクが高い。だから高校生の段階で、妊娠・出産することはおすすめしない」という理由で「高校生の間に妊娠するべきではない」というのなら分かりますが、なぜ高校生のうちに妊娠すると、退学という罰を与える必要があるのでしょうか。

平成27年3月12日に開かれた、第189回の国会予算委員会で、泉健太衆議院議員も、妊娠した生徒を自主退学させることに疑問を呈しています。

泉議員は、ある県立高校の懲戒に関する規定を例に挙げて、妊娠した生徒に高校がどんな仕打ちをしているのか、明らかにしました。

懲戒の規定には、『性的問題行動』のなかに、不純異性交遊・妊娠・性的暴行が並んで書かれていました。

妊娠が退学処分であり、そして性的暴行も退学処分なのです。

「これは一緒ではないだろう」と、泉議員は憤りました。

泉健太:

犯罪を起こせば、それは退学の対象になろうというふうに思いますが、妊娠というのは受け手の側にもたらされる環境ですよね。

さまざま、その経緯、過程に理由はあったにせよ、子供ができてしまったという事態に対して、子供の学業の継続ですとか支援をする立場の教育機関が、この妊娠ということを果たして懲戒の枠組みの中で考えるべきことなのかと。

衆議院 第189回国会 予算委員会 第16号 ーより引用

また、泉議員は「公立高校は強制的な退学が激減しているという。しかし、数字にでてこない自主退学があるはずだ」と指摘しています。

「自主退学だと数字に残らない」というのは、酷く悪質なものと感じられます。統計を取り、しっかりと現状を把握する必要があるでしょう。

多くの人が訴えていけば、高校生での妊娠を受け入れない風潮は、少しずつ変わっていくかもしれません。

日本で問題となっている高校生の妊娠。海外では、生徒が自主退学に追い込まれるという事実はあるのでしょうか。

アメリカの場合

アメリカでは、公立であれば、妊娠した高校生は自主退学になりません。

連邦教育法第9編(Title IX)』という連邦法が、「連邦の補助金や助成を受ける教育機関での性差別を禁じている」からです。

アメリカは、それぞれの州が独立した国家のように、独自の州法を持っています。

州ごとに独自の州法を持ちながら、なぜ1個の『アメリカ合衆国』という国でいられるのか…それは、50の州が権力の一部を連邦政府に渡しているからです。

日本の都道府県も、独自の条例を制定しています。例えば、京都府の歴史を感じさせる景観を守る『京都景観条例』。京都府は地方自治をしていますが、だからといって日本から独立はしていませんよね。

日本政府が権力の一部を持ち、都道府県をまとめています。

さて、教育も州ごとに独自の州法を定めているであろうアメリカですが、連邦政府が『教育省』から高等教育機関に補助金を配ることで、『連邦教育法第9編』の対象としています。

補助金を受けたアメリカの高校は、『連邦教育法第9編』の「連邦の補助金や助成を受ける教育機関での性差別禁止」を守らなければなりません。

生徒は学校と話し合って、体育に出たいか・出たくないか、休学にするか・しないかなど、個人で自由に選択できます。

「妊娠した生徒を退学にすることは、性差別なの?」

疑問に思う人もいると思います。

「妊娠というのは女性にしかできないことなので、それで勉強の機会が失われてしまうのは性差別につながる」というのがアメリカの考えのようです。

「高校生なのに妊娠しただなんて、不謹慎だ」と考え、社会から排除しようという風潮の残っている日本よりも、人を大切にしているように感じられますね。

日本で育児しながら通える学校

アメリカの例をご紹介しましたが、男女格差を測る『ジェンダー・ギャップ指数』で、日本は、2016年の段階で世界144か国中111位。いますぐに、アメリカのような意識改革は望めません。

日本で自主退学をした先は、出産・育児・中卒での労働しかないのでしょうか。

いいえ。「日本で高校生が妊娠・出産したら、学校をあきらめなくてはならない」ということはありません。

通信制高校なら、託児所付きの学校が複数あります。

例えば、『東京都立一橋高等学校』。

満1歳から6歳(就学前)の子どもを預けることができます。毎年10名前後の申し込みがあるそうです。昼食は、保育室で子どもと一緒に食べられて安心ですね。

また、『京都府立朱雀高等学校』は、3歳前後〜小学校低学年までを対象として子どもを預かっています。

「高卒になれる道もあることは分かったよ。でも、もといた高校を退学して、違う高校に行かなきゃいけないのが理不尽じゃん!」

そういう声もあるかと思います。

偏差値の高い高校に通っていたのに、妊娠を機に偏差値の低い高校へ行かなければならなくなったら…大きな葛藤があるでしょう。

仲のよかった友達と離れ離れになり、環境が変わるのも大変なストレス。

残念ながら、日本の多くの全日制高校が、生徒の妊娠を想定せずに運営されているため、十分な体制が整っていません。

けれども、「学校側が自主退学、また休学も強要せず、生徒と話し合ってさまざまな調整を行うようにしよう」という方向に変化し始めています。

通っている高校によっては、話し合いをすれば、自主退学をせずに済む可能性もあります。

「学校側の負担が増す一方だ!」

なんて訴えもありそうですね。

もし、高校のみで対処が困難であれば、「どの学校からの生徒も受け入れ、在籍中の学校を順調に卒業できるよう必要な単位を補ったり、託児所を提供したり、病院と学校との連携まで請け負う、新たな機関」を設立することも考えられるのではないでしょうか。

「高校生の妊娠だけを扱うのは現実的ではない。専門の人をそろえて全国に配置したのに利用人数が少ないという、多大な労力が空費される事態になりかねない」

というのであれば、「妊娠だけでなく、諸事情で学校を順調に卒業できない生徒のセーフティネットとして機能する組織」ができれば、みんな安心できるのでは、と思います。

学校のみの負担とせず、それでいて、妊娠した生徒を1人も支援の手から取りこぼすことのない社会を目指すことができるでしょう。

『妊娠』という、当事者2人だけでなく、それぞれの家族、学校や地域社会が関わる出来事。

妊娠した生徒が自分で生き方を選択できる、息のしやすい社会になることが望まれています。

[文・構成/grape編集部]