山下輝(木更津総合)

 千葉大会4回戦以降の5試合を一人で投げ切り、チームを2年連続の甲子園に導いた山下輝。コンスタントに140キロを計測し、試合終盤になっても威力の落ちない直球の秘密とは。

■憧れの先輩を越える夏に

 初戦の流山おおたかの森戦では8回から登板し2イニング。3回戦の千葉西戦こそ登板がなかったが、4回戦の幕張総合戦(6回コールド)、5回戦の東京学館浦安戦、準々決勝の市立船橋戦(7回コールド)、準決勝の東海大市原望洋戦、決勝戦の習志野戦と5試合連続完投の山下 輝。

 42イニングを投げて失点は東海大市原望洋戦の2点と習志野戦の3点だけと、まさにエースと言える投球を見せた山下。試合の終盤でも140キロをコンスタントに計測する直球は威力抜群だ。その理由はスタミナはもちろん、無駄のないフォームにある。

 ワインドアップから軸足にしっかりと体重を乗せ、小さいテイクバックから左腕が身体に巻き付くように腕を振る。踏み出す右足の歩幅は身長の割に小さめだが、その足を突っ張るようにして下半身からの力を腕へと伝え、威力のあるストレートを投げ込む。

 セットポジションでも、上体に無駄な力が入っておらず、右足をあまり上げずに投球することで、走者にフォームを盗まれることも少ない。体重移動もワインドアップ時と比べて変わらないためストレートの威力もあまり落ちない。

 ストレートとほぼ変わらない腕の振りからスライダー、カーブ、ツーシームに加え、右打者にはチェンジアップのように外角に沈む球も操る。

 投げたあとに若干身体が右方向に流れる傾向があるが、下手に直してストレートの威力が落ちてしまうことを考えたら、今はこのまま直さず、威力のある球を投げ込むことを優先させたほうが将来大きく育つだろう。細かいところは次のステージで修正すれば良い。

 また、準決勝、決勝と全国的な強豪相手に投げ抜いた山下は精神面でも非凡なものを見せる。特に習志野は試合巧者ぶりで知られるチームであり、決勝での山下への攻めも見事だった。今大会では犠打を多用し、相手投手を打ち崩してきた習志野だが、この日は序盤から積極的に山下のストレートを狙い打ち、安打を量産。山下から3点奪ったのは千葉大会では習志野だけだ。

 しかしストレートを狙い打たれていることを察した山下は中盤以降、ツーシームなどの変化球を投球の軸に据えた。元々力のある投手だけに、序盤に多くの安打を浴びたことによって投球を崩してしまってもおかしくないところだが、落ち着いて対処し、試合の中できっちり修正できた点はさすがの一言だ。勝ち越し点が入った6回と7回の守りを三者凡退に抑えた投球はチームにとって心強かったことだろう。

 強力なストレートを持っていても、ストレート一本槍にならず、試合の途中でもスタイルを変えることができるというのは、甲子園での戦いでも自身を助ける大きな武器になるだろう。

 憧れの投手として一つ上の先輩・早川 隆久の名を挙げるが、早川のように大学に進学するのか、高卒でプロ入りを果たすのかはわからないが、いずれにしても将来が楽しみな投手だ。

(文=林 龍也)