『人生が劇的に変わる睡眠法』(白濱龍太郎著・プレジデント社刊)

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睡眠不足が続いて睡眠負債がふくらむと、その先にあるのは仕事のパフォーマンス低下、そして体調の悪化。睡眠を削って頑張っても、得るものが「不幸」では意味がない。『人生が劇的に変わる睡眠法』(プレジデント社)の著者である白濱龍太郎先生は、良質の睡眠を手に入れることこそ、幸せへの近道だという。その方法のひとつは睡眠時間をつくること、もうひとつは、昼寝を活用すること、そして最後のひとつは……。

■快眠の鉄則「考えても無駄なことは考えない」

【白濱】みなさん、眠れないといわれますが、すべての人が不眠症かどうかはわかりません。

――眠れていないのは不眠症とは違うんですか?

【白濱】不眠症は「眠りたい」という意識があるにもかかわらず、睡眠時間が短くなったり、眠りが浅くなったりして心にも体にも悪い影響を与える睡眠障害です。その結果、昼間の活動で何か弊害があると不眠症と診断されます。

――先生のところに相談に来るのはそういう人ばかりではないんですか?

【白濱】思い込みの不眠症もありますからね。

――思い込み、ですか?

【白濱】そうです。眠れていないと思っていても、案外と人は寝ているものです。睡眠不足だからといって、すぐに不眠症だと考えることはありませんよ。

――睡眠時間が短くなって、体調が優れないと不眠症なのかと思っていました。でも、悩み事があると眠れなくなるじゃないですか?

【白濱】私もそうです。気になることがあると眠れなくなります。誰だって悩みや不安があれば眠れなくなります。

――それを聞いただけでらくになります。先生は、そういうときどうしているんですか?

【白濱】そういうときは、自分でコントロールできる悩みなのかどうかを考えます。そして、自分でコントロールできないと判断したら、考えるのをやめます。「考えても無駄なことは考えない」。これが快眠の鉄則です。

――そうなんですけどね……。

【白濱】悩みや不安があるときは、自分の行動で対処できることだけに絞りましょう。あとは考えてはいけません。そういう割り切りがいい睡眠への近道になります。それよりも、その日、楽しかったこと、これまでの人生でとても幸せな時間を思い出すほうが、快眠には効果的です。心配や悩みは脳内にストレス反応を呼び起こすだけですからね。

――ベッドに入ったら、眠ることを楽しんだほうがいいということですか。

【白濱】だからといって、楽しむことも義務づけたらいけませんよ。よく眠れる人は、「眠ろう」と努力しないでもぐっすり眠っているはずですから。眠ることを意識すると、逆に眠れなくなるということです。

――どうやって眠る準備を整えるのがいいのかも聞いておきたいです。

【白濱】そのためには、眠れないという思考回路から抜け出さないといけませんね。

――そんな回路が頭の中に……。

【白濱】眠れない不安やいら立ちを抱えて2〜3週間を過ごすと、少しずつ「どうせ眠れない」という思考になっていきます。そして、ついにはベッドに入るのが嫌になります。そうなるとベッドは睡眠不足を連想させるアイコンになります。見るだけで、「また眠れない時間が始まるのか」と。この思考回路を壊すことが、睡眠不足を解消する一歩になります。

■音楽、読書、呼吸、風呂……

――それが難しいんです。ぜひ教えていただけますか?

【白濱】人の生命を維持するために働いている自律神経を知っていますか?

――活発なときに優位になる交感神経と、リラックスしているときに優位になる副交感神経のことですか?

【白濱】そうです。眠れないと思ってしまうのは、ベッドに入っても、副交感神経が交感神経よりも優位になってないということです。そういうときに効果があるのが音楽です。

――音楽ですか?

【白濱】リラックスできる曲であればなんでも。理想的なのは歌詞がなく、穏やかな曲調のものです。歌詞があると「どんな意味があるの?」と脳が緊張しますし、アップテンポな曲調は脳を覚醒させますからね。聴くタイミングは眠る30分〜1時間前がいいでしょう。

――音楽以外には?

【白濱】読書も睡眠に効果的です。眼球を上下左右に動かしながら文字を読むのが読書ですが、このリズミカルな反復運動は、睡眠ホルモンであるメラトニンの原料になるセロトニンの分泌を促進します。ただ、小説は過度な感情移入、恐怖心などを引き起こすので避けたほうがいいでしょう。ビジネス書は仕事を連想しやすいので、間違っても手を出さないこと。書かれた内容を理解しようとすれば脳が興奮して、昼間に活躍してほしい交感神経が働き出します。音楽と同じように「リラックスできるか?」を最優先に選びましょう。

――音楽、読書……。

【白濱】そして、ベッドに入ったら呼吸です。たとえば、ヨガにプラーナヤーマという呼吸法があります。4つ数えながら鼻から静かに息を吸い、息を止めたままで7つ数えて、そして8つ数える間に「ふーっ」と言いながら口から息を吐き出します。この呼吸法は慣れてくると1分で眠りにつくことができるという人もいます。もし寝つけなかったとしても、深呼吸は鎮静とリラックスの助けにはなります。

視覚的なきっかけがほしい場合は、静けさや穏やかさを想起できるものをイメージしてください。そして深呼吸をする。自然に自分自身の表情も柔らかになり、次第に頭皮、首、肩がリラックスしてくるはずです。

それからお風呂です。湯船に入って体温がわずかに下がるだけでも脳には睡眠信号が送られます。ただ、熱すぎるお風呂は交感神経を起こしてしまうので、39度くらいのぬるま湯に10分程度がベストだと思います。ここまで話した眠りに効くことを、自分なりに組み合わせて、眠る前のルーティンをつくってみてください。必ず不眠を解消できるはずです。

――先生にも眠る前のルーティンがあるんですか?

【白濱】私はベッドに入る前にゆっくりと湯船に浸かります。これが眠る準備の始まりです。お風呂からあがったら、パジャマに着替えます。起きているときも着るものではなく、寝るときだけ身につけるものというのを大事にしています。それが「これから睡眠時間に入る」という自分の気持ちを高めてくれます。

次に気分が落ち着くカモミールティを1杯飲みながら、大好きなハワイの写真集を眺めたり、サーフィンの雑誌を読んだりします。照明はダウンライトを絞って暗めにしているので、徐々に眠くなってきたところでベッドに入ります。

――毎日、その順番で眠っているんですか?

【白濱】最初は違和感があったり、順番に試行錯誤するでしょうけど、最終的に目指すのは心を落ち着かせてベッドに入ること。何度か繰り返すうちに自分なりのルーティンができ上がっていくはずです。

――先生のおかげで、睡眠に対する考え方がポジティブになってきました。睡眠時間を少しでも増やして、今日からルーティンづくりを始めたいと思います。

【白濱】午後の昼寝も忘れないようにしてくださいね。また、眠れなくなったら来てください。カモミールティを用意して待ってますから。

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白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)

医学博士・日本睡眠学会認定医。筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科統合呼吸器病学修了。東京医科歯科大学呼吸器内科・快眠センター、公立総合病院睡眠センター長ほかを経て、2013年6月からRESM新横浜/睡眠・呼吸メディカルケアクリニック(日本睡眠学会認定A型施設)院長。経済産業省海外支援プログラムに参加し、海外の医師たちへの睡眠時無呼吸症候群の教育を行うとともに、順天堂大学医学部公衆衛生学講師として睡眠予防医学の観点から臨床研究発表、講演も行っている。現在、国内企業と組み、ビジネスパーソンのパフォーマンス向上のためのオーダーメイド睡眠改善プログラムを開発中。さまざまな挑戦を続けている。

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(医学博士・日本睡眠学会認定医 白濱 龍太郎 質問者=洗川俊一)