「」を開発した「雷公鞭(らいこうべん)」の角舘浩太郎社長


「スマホに映った画像は大きなインパクトがあり、想像以上の体験でした。街の観光情報や飲食店の広告との連携など、書店を飛び出してもいろいろな形で活用できる可能性があると思いました」──JBpressの書評コラムでもお馴染みの「ORIORI produced by さわや書店」(岩手県盛岡市)店長、松本大介氏は「POPSTAR(ポップスター)」導入時の印象をこう語る。

 5月19〜27日、ORIORIは期間限定でPOPSTARを導入した。POPSTARはAR(拡張現実)を活用したスマートフォンアプリである。

 書店に行くと、書店員の手書きのPOPがよく掲示されている。書店員の熱いメッセージに反応し、思わずお勧めの本を買ってしまったという人は多いのではないだろうか。POPSTARはそれらのPOPをAR空間に表示する。

 利用者は自分のスマートフォンに専用アプリをダウンロードする。書店に行ってアプリを起動し、カメラを書棚にかざすと、現実の風景の上にPOPが次々に浮かび上がる(下の写真)。POPをタップすると、本の詳細情報が表示される。

手書きのPOPが浮かび上がって見えるPOPSTARの画面(写真提供:雷公鞭)


 画面に表示されるPOPは、実際の手書きPOPをスキャニングしたもの。それらのデータをネット上のサーバーに保存し、店内に設置してあるビーコンからスマホに飛ばしている。

 開発したのはアプリ開発会社の「雷公鞭(らいこうべん)」(東京都港区)である。書店の新しい体験を生み出す、このユニークなARシステムはどのようにして誕生したのか。角舘浩太郎社長に話を聞いた。

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さわや書店のPOPがアイデアの基に

──「POPSTAR」開発のきっかけを教えてください。

角舘浩太郎社長(以下、敬称略) デジタルハリウッドが運営するプログラミングスクールでプログラミングを学んでいたとき、デジタルハリウッドと日販(日本出版販売)が共催で「書店体験を変えるIoTプロダクト」というテーマのハッカソンを開催しました。そのハッカソンに参加して開発したのがPOPSTARです。

(注:デジタルハリウッドはクリエイターやプログラマーを養成する専門スクール。日販は書籍や雑誌の取次会社)

──なぜPOPに着目したのですか。

角舘 私は盛岡の出身なのですが、中学、高校時代に地元のさわや書店によく通っていました。さわや書店のPOPはすごいんです。異常なくらいに書き込みの量が多く、密度が濃くて。とにかく圧倒的で、この店は大丈夫なのかっていうくらいに(笑)。

 そうしたさわや書店のPOPが強く印象に残っていたので、POPを使って何かできないかなと。あと、VR(仮想現実)とかARにもすごく興味があったので、ARでPOPを出したら面白いんじゃないかと思ったんです。

──さわや書店のPOPは確かに熱量がすごくて、鬼気迫るものがありますね。

角舘 もはやそれ自体が「作品」というか、本とは別の価値があるんですよね。そうしたPOPを見て育ちましたので、POPの価値をもっとみんなに知ってほしいという気持ちがありました。

 また、多くの書店で、古いPOPは捨てられてしまうそうなんです。書店員さんがあれだけ力を入れて書いているのに、1回掲示しただけで捨ててしまうのはもったいないですよね。データベース化すれば過去のPOPも再利用できるのにという思いもあり、POPSTARを開発しました。

──さわや書店が期間限定で導入したのは、どんな経緯だったのですか。

角舘 POPSTARはハッカソンで最優秀賞をいただくことができました。優勝チームの代表としてネットメディアのインタビューを受けたとき、「今回のアイデアはさわや書店さんからインスピレーションを受けています」という話をしました。さわや書店さんがその記事を見て、「これ、面白いからうちでやろう」と声をかけてくださったんです。

書店のIT活用はまだまだこれから

──さわや書店での導入の前に、パルコブックセンター吉祥寺店(東京都・吉祥寺)でも実証実験をしていますね。2つの店で実際にお客さんに使ってもらって、反応はどうでしたか。

角舘 まず、エンタテインメントとしてとても楽しいという声がありました。POPが浮かび上がる画面を見て「驚いた」という反応が多かったですね。

 印象的だったのが、「SNSにアップしていいですか?」と言うお客さんがたくさんいらっしゃったことです。書店の本を背景にPOPが浮かび上がる画像はものすごくフォトジェニックで、フェイスブックやインスタグラムなどで共有したくなる魅力がある。そのことを、お客さんに気づかせてもらいました。

──今、まちの書店はアマゾンなどネット書店に押されて厳しい状況ですよね。その中でこういった形でのITの活用は、書店が生き延びていくための1つのヒントになるのではないかと思いました。

角舘 書店がITをどう使っていくかについては、まだまだこれからだと思います。書店は旧態依然としたシステムと言いますか、そもそも、今は書店でスマホのカメラをかざすこと自体が許されていませんよね。でも、そういう常識に縛られるのではなく、スマホを書店の中でもっと自由に使うことで、さらに新しい経験や購買行動につなげていけるんじゃないかと思います。

──今後の展開について教えてください。

角舘 書店員だけでなく一般の人もPOPを投稿できるようにして、POPを軸にしたSNSを作れないかと考えています。お客さんに、気に入ったPOPをどんどんシェアしてもらうことで、本や書店の宣伝をする役割を担ってもらおうということです。

 また、「〇〇書店の書店員△△さんのPOP」というように、特定の書店員が書いたPOPを表示させる仕組みも作りたいですね。本の魅力だけで売るのではなく、本を紹介している人の魅力も発信するなど、本の新しい売り方を広げていければと思います。

筆者:鶴岡 弘之