道路交通法では、自転車は歩道を通行してはならないと定めていますが、例外があるようです。どのような場合でしょうか?

通常は罰則規定あり、でも例外が

 道路での交通安全を定めた道路交通法によると、歩道のある道路では、自転車は車道を通行しなければなりません。もし歩道を通行すると、通行区分(車道と歩道)違反で3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられます。

 しかしある条件下では、例外として歩道を通行することが認められるケースがあります。自転車道路交通法研究会 代表理事の瀬川宏さんによると、大きく以下の4つのケースになるそうです。

(1)歩道に「自転車通行可」の道路標識や、道路標示がある場合。
(2)歩道に「普通自転車通行指定部分」の道路標示がある場合。
(3)運転者が13歳未満又は70歳以上、または身体の障害を有する者である場合。
(4)歩道を通行することが「やむを得ない」と認められる場合。


自転車通行可」の道路標識(画像:自転車道路交通法研究会)。

 それぞれのケースについて、瀬川さんに詳しく話を聞きました。

――「歩道に『自転車通行可』の道路標識や道路標示がある場合」とは、どのような内容でしょうか?

 歩道に「自転車通行可」の道路標識や道路標示が設けられている場合、以下のとおりに通行しなければなりません。

・歩道の中央から車道寄りの部分を通行する。
・徐行する。
・歩行者の通行を妨げるようなときは、一時停止する。

 しかし歩道が狭く、車道寄りを走っていても歩道の中央から道路の外側にはみ出てしまうような場合には、「自転車通行可」の道路標識があっても、歩道を通行できません。

知る人は「極めて少ない」自転車と歩道のルールとは?

――「歩道に『普通自転車通行指定部分』の道路標示(法令に定められた自転車マークの路上ペイント)がある場合」とは、どのような内容でしょうか?

 歩道に「普通自転車通行指定部分」が設けられてる場合の通行方法は、以下のとおりです。

自転車マークが表示された側を通行する。
・通行している、もしくは通行しようとしている歩行者がいる場合には徐行し、歩行者の通行を妨げるときは一時停止する。
・通行している、もしくは通行しようとしている歩行者がいない場合には、「歩道の状況に応じた安全な速度と方法」で進行する。

「歩道の状況に応じた安全な速度」とは、「ただちに徐行に移ることができるような速度」を意味します。そのため、歩行者がいない場合には、必ずしも徐行する必要はありません。

 ただし、「普通自転車通行指定部分」の場合も「自転車通行可」の場合も、基本的には車道寄り部分を徐行しなければいけません。これらのことを知っている人は、極めて少ないと感じています。また、自転車で歩道通行が例外的に許されているのは普通自転車だけで、自転車宅配便などのリヤカー付き自転車などは歩道通行ができないのですが、このことについても、ほとんど知られていません。


「普通自転車通行指定部分」の道路標示(画像:自転車道路交通法研究会)。

法定外の表示板の例(画像:自転車道路交通法研究会)。

法定外の路上ペイントの例(画像:自転車道路交通法研究会)。

 ちなみに、道路標識や道路標示には、法令によって定められていないものも存在します。

――具体的にどのようなものでしょうか?

 「自転車通行可」「普通自転車通行指定部分」を設置する公安委員会ではなく、道路管理者が独自に作った、自転車マークの表示板や路上ペイントです。当然、これらには交通規制の効力はありません。

 法定外の路上ペイントが施された歩道には「普通自転車通行指定部分」の効力がないため、歩行者がいなくても車道寄りを徐行しなければなりません。こういった法定外の表示はあらぬ誤解を招き、かえって法令違反を引き起こしてしまう恐れがあるため、安易に使われるべきではないと考えています。

運転技能や判断能力に伴う規定も?

――「運転者が13歳未満又は70歳以上、または身体の障害を有する人」の運転する自転車が、歩道の走行を認められている理由はなんでしょうか?

 自転車で歩道を通行できる条件のひとつに、「普通自転車の運転者が、児童、幼児であるとき」というものがあります。道路交通法第14条第3項には、児童とは「6歳以上13歳未満の者」、幼児が「6歳未満の者」と定義されているため、13歳未満が対象となっているのです。

 次に70歳以上の根拠ですが、これも自転車で歩道を通行できる条件のひとつに起因しています。「普通自転車により車道を通行することが危険であると認められるものとして政令で定める者」という条件です。この具体的な内容が、道路交通法施行令第26条第2号で「70歳以上の者」と定義されています。

――「歩道を通行することがやむを得ないと認められる場合」とは、どのような場合なのでしょうか?

「やむを得ない」と認められる場合とは、次のようなケースが当てはまります。

・道路工事や、連続して駐車している車両などのために、車道の左側部分を通行することが困難な場所を通行する場合。
・いちじるしく自動車などの交通量が多く、かつ、車道の幅が狭いといった理由で、追越しをしようとする自動車などとの接触事故の危険がある場合。

――「やむを得ない」という表現は、自転車を運転する人の主観によりがちにならないでしょうか?

 道路交通法の趣旨は、客観的な状況が存在することを確認した上でなければ、この条件で歩道を通行すべきではないというものです。しかし、車道を安全に通行するための運転技術や経験は人それぞれでしょうから、この判断基準は、運転者によって大きく変わりうるものだと、個人的には考えています。

「イエローカード」の数に見るルール周知の現状

 瀬川さんによると、自転車の歩道通行に関する法規違反としては、以下のものが考えられるそうです。

・「通行区分違反」 歩道を通行できる条件が満たされていないにもかかわらず歩道を通行した。道路交通法第17条第1項違反。
・「歩道通行者に危険を及ぼす違反」 歩道における徐行義務違反、車道側通行義務違反、歩行者妨害など。道路交通法第63条の4第2項違反。

 この「歩道通行者に危険を及ぼす違反」については、平成28年度で26万740件の指導警告票が交付されているそうです。指導警告票とは、「違反を現認した際に検挙はしないものの、注意を喚起するために交付する書面のことで、いわゆる『イエローカード』です」(瀬川さん)といいます。

「詳細な内訳は公表されていませんが、各種報道資料から、そのほとんどが徐行義務違反に対するものではないかと考えられます」(瀬川さん)

 なお、正式な交通違反としての検挙、いわゆる「赤切符」の交付件数は公表されていません。

【図】歩道の「自転車通行可」とは?


歩道に「自転車通行可」の道路標識や道路標示がある場合、「歩道のどこを通行してもよいのか」を知っている人は、極めて少ないという(画像:自転車道路交通法研究会)。