『おんな城主 直虎』公式サイトより

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 柴咲コウが主演するNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』の第29回が23日に放送され、平均視聴率は前回から0.1ポイント減の11.9%(関東地区平均、ビデオリサーチ調べ)だったことがわかった。先週から戦国の荒波が押し寄せるような不穏な展開となり、物語は盛り上がりを見せているが、一般的に名の知られてない登場人物も多いため、途中からでは話がよくわからないと思う人が多いのかもしれない。

 今川の衰退を肌で感じ、戦を避けるために徳川家康(阿部サダヲ)を動かして武田を封じ込めようと考えた直虎(柴咲)。家康もこの策に乗りかけるが、時を同じくして武田も、徳川に手を結んでともに今川を攻めようと提案する。武田と手を結ぶことにした徳川は井伊に対し、忠義の証として虎松(寺田心)の母・しの(貫地谷しほり)を人質として差し出すように要求する。直虎は使者を通じ、しのを人質として出す替わりに、徳川が今川攻めを行う際には一切加勢しないとの条件を伝える。その頃駿府では今川と武田との決裂が決定的になり、もはや戦は時間の問題となっていた。今川氏真(尾上松也)は戦に備え、亡くなった寿桂尼(浅丘ルリ子)が「今川を裏切りかねない危険な人物」とみなした直虎を粛正する準備を始めた……という展開だった。

 家康が井伊に対して人質を要求した流れはよくわからなかったが、史実で虎松の母が家康の家臣に嫁いだのはもう少し後であるため、その食い違いによって理由づけが少しあやふやになってしまったのだろう。ただ、戦を避けるために有力大名を動かそうとしたらやぶへびになってしまったというストーリーはいかにも戦国らしいし、直虎が戦を嫌う理由が平和主義でなく、いろいろがんばって収益を上げるようにしてきた領地と領民を失いたくないという現実的な理由であるのもうなずける。

 一見すると無駄に見えるようなストーリーを丁寧に描き、時折「本当に無駄なのでは」と思わせるも、話が進むと見事に伏線回収してくれるのが森下脚本の妙。苦労して木綿栽培を定着させ、さまざまな政治的手段を使って気賀を手に入れた経緯を見ているからこそ、視聴者も「井伊の目指すところは、民百姓一人たりとも殺さぬことじゃ」との浮世離れした直虎の言葉を「さもありなん」と素直に受け取ることができるのだ。

 徳川の使者に対して、毅然とした態度で条件を伝えた直虎も風格漂う領主らしさを見せたが、今回女を上げたのは何といっても貫地谷演じるしのだろう。突如降ってわいた「他家に人質として輿入れしてくれ」という話に、最近うまくいっていたから調子に乗りすぎて失敗したのではないかと一応は直虎に釘を刺すものの、取り乱すことなくその運命を受け入れた。その一方で、近しい者を人質として差し出す際の気持ちを今のうちから知ってほしいとの思いから「本当は行きたくない」と虎松に嘘をつき、虎松がこの局面をなんとかしようと子どもなりに考えるのを見守った。自分の失策を詫びようとする直虎のおでこを何度も手の平で押しとどめ、決して直虎に頭を下げさせなかったのも、武家の女としての矜持が感じられる良いシーンだった。

 嫁ぐ前、しのは虎松に自分が人質として輿入れする意義をあらためて説明する。そなたの父上はあるお家と仲良くしようとして殺された。このたび母が嫁ぐのはそのお家と再び仲良くするため。父上の志を母が継ぐことができる――。まさかここで直親(三浦春馬)の死を回収してくるとは思いもよらなかったが、まさしくしのの言う通りである。続けて、母が嫁ぐことで虎松に味方を増やすのだと語ったしの。なるほど、この賢母が徳川方に嫁いだからこそ、虎松は後に徳川四天王・井伊直政として天下に名をはせることになるのだろうと自然に思える流れだ。

 直虎を逆恨みしてギャアギャア騒いでいた時期のしのは本当にウザかったが、直虎と和解してからは直虎に欠けている母性を体現したような魅力的な女性として描かれた。放送後は視聴者から貫地谷を絶賛する声が続出。「つくづく貫地谷さんって上手いなと………登場時のウザく面倒なおなごからよくぞここまで筋の通った御方様へと変貌したな」「このしょーもない女の役が貫地谷しほりって、もったいなさ過ぎ!! と思っていたけど、この日のための貫地谷しほりだったんだな」「しの殿、もとい貫地谷しほりあっぱれ。素晴らしいお芝居!!」「賢い母へ、殿にハッキリと失策を指摘できる強い女性への成長に感動を覚えた。それを演じた貫地谷さんって素晴らしい」などの感想が次々にネットに書き込まれた。

 そんな母から熱い思いを受け取った虎松が活躍するのは、まだまだ遠い未来。ここからしばらくは、井伊家にかつてない動乱が巻き起こりそうだ。今川氏真は井伊家に牙をむき、武田信玄(松平健)は今川家滅亡をもくろんで権謀を巡らす。毎週毎週目が離せないどんでん返しに次ぐどんでん返しで、視聴率回復なるか。 
(文=吉川織部/ドラマウォッチャー)