瀬戸大也(左)と萩野公介(右)【写真:Getty Images】

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【短期連載最終回】元五輪代表・伊藤華英さんが実体験で語る「競泳ライバル論」

 水泳の世界選手権(ブダペスト)は23日から競泳が開幕した。日本競泳界にとって注目の一つが、世界の大舞台で繰り広げられる萩野公介VS瀬戸大也のマッチレースだ。昨年のリオデジャネイロ五輪では、400メートル個人メドレーで萩野が金メダルを獲得。後塵を拝した瀬戸が銅メダルに終わった。

 果たして、今回はどんな戦いが繰り広げられるのか。北京五輪、ロンドン五輪代表の伊藤華英氏も2人に注目している。

「萩野選手も最近、気合が入ってきたかな。瀬戸選手に関しては、五輪で萩野選手が金を取って銅でチャレンジ精神が芽生えた印象。本当は銅でうれしいけど、日本人で上がいるから、大きな刺激になっていると思います」

 リオ五輪では萩野が金メダル、瀬戸が銅メダルに終わった。あれから1年――。萩野は右肘の手術を経て、復活を目指してきた。一方、瀬戸は進化を目指し、多くのレースに出場している。歩んできた道は対照的だ。

「萩野選手は手術して、瀬戸選手はずっと試合に出ている。それがどう出るか。瀬戸選手は疲れが取れたら、もしかしたらいい結果が出るかなという印象です」

 そもそも、競泳選手にとって「ライバル」とはいったい、どんな存在なのだろうか。現役時代、背泳ぎで寺川綾という強力なライバルと世界大会でも鎬を削ってきた伊藤氏は「認めざるを得ないものです」と言い、実体験をもとに話す。

「お互いにいない方がいいと思っている」…それでも「貴重」なライバルの存在

「強い相手がいるのは嫌なんだけど、レベルの高いところでのライバルはすごく恵まれていると思う。日本選手権で勝てるか勝てないかは小さいところだけど、世界で勝てるか勝てないかのライバルだから。そういう存在がいることは日本にいることはすごくいいことだと思います」

 ただのライバルではなく、世界最強を争う間柄にある。そんな伊藤氏の目には「萩野・瀬戸」というライバル関係はどう映るのか。

「お互いにいない方がいいと思っていると思うけど、いなかったら2人も頑張れないと思う。とても過酷だけど、一人しか金メダルは獲れない。ただし、どちらも実力はある。ライバルがいた方が本人たちも伸びるし、引っ張られて下の世代も伸びてくる。バトンが大事だから、競技全体を考えても貴重な存在です」

 競泳界全体の成長にも効果を及ぼすという2人。世界でもトップクラスの実力を誇るが、選手としてタイプは似て非なるものだという。

「萩野選手は天才肌タイプ。瀬戸選手とは感覚がちょっと違う。針の穴に糸を通すような感じ。逆に瀬戸選手はすごく精神的にもタフ。性格も違うし、考え方も違う印象です」

 今大会は200メートル、400メートルの個人メドレーで激突。どんなレース展開となるのか。

「いつも通りの展開になるとみています。最後の自由形勝負じゃないか。今は瀬戸選手の方が体力的にもタフだと思う。萩野選手にとっては、平泳ぎで先行しないといけない。平泳ぎで負けていたら厳しいと思うし、並んでいても危ないかもしれません」

「今回は瀬戸が勝った方がおもしろい。それが萩野のためにもなる」…その理由とは?

 萩野にとっては、いかに第3泳法の平泳ぎでリードしているか。逆に瀬戸にとっては平泳ぎで差がなく来られれば、得意の自由形で勝利が見えてくるという。

 20年東京五輪でも金メダルを狙える2人。ライバル関係を考えれば、伊藤氏は「今回は瀬戸選手が勝った方がおもしろい」と言い、瀬戸優位とみている。

「それが、萩野選手のためにもなる。3年後を考えると、今、負けておいてもいいんじゃないかと思います。瀬戸選手が今回に関しては勝ってしまうかもしれない。そこを実績のある萩野選手が根性で凌げるか。注目したいです」

 日本競泳界最強のライバル関係にある2人。果たして、東京五輪を目指した若きスイマーの熱い戦いは、どんな結末を迎えるのか。目が離せそうにない。

◇伊藤 華英(いとう・はなえ)

 2008年女子100m背泳ぎ日本記録を樹立し、初出場した北京五輪で8位入賞。翌年、怪我のため2009年に自由形に転向。世界選手権、アジア大会でメダルを獲得し、2012年ロンドン五輪に自由形で出場。同年10月の岐阜国体を最後に現役を退いた。引退後、ピラティスの資格取得。また、スポーツ界の環境保全を啓発・実践する「JOCオリンピック・ムーヴメントアンバサダー」としても活動中。