【マカオで気になった端末】



 

サムスン Galaxy Note 供“稜箍然福陛時):3980マカオパタカ(約5万7000円)

約5.5インチ大画面を最大限に活用する本機。付属のSペンでの新たな操作感、ブラウザを立ち上げながらメールを書くなど、マルチタスクを実現。当時は珍しいデュアルSIMスマホだったことも大きな特徴だ。

 

ケータイ西遊記 -第11回- イタリア/ミラノ編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

 

古い歴史とカジノの街

マカオにいる回遊魚



ラスベガスを抜いて、“世界一のカジノ都市”となったマカオ。旧ポルトガル領だった町並みには古い建物が残っている。しかしおもむきのある街を歩いていると、忽然と大規模なカジノビルが現れる不思議な都市でもある。


▲ 夜になると、あちこちにあるカジノの建物がきらびやかなネオンに包まれる。

カジノの中に入れば、一攫千金を狙う亡者たちが真剣な表情でディーラーとカードめくりに明け暮れている。そしてあぶく銭を稼いだ客を狙うハンターもたむろしているのだ。それが“回遊魚”と呼ばれる女性たちで、彼女たちは数時間で結構な額を稼ぐという。当然違法だが。

香港在住の私は友人を連れマカオへ行くことも多い。男性数名でカジノへ入場すれば、すぐさま回遊魚たちがこちらに目配せしてくる。女性の友人を連れてカジノへ行くこともあるが、その場合は見学程度で、使う金額も数千円だ。散財後には場内のカフェで休憩するのが常だった。

その日もカジノを30分程度楽しんでから、女友達とカフェへと向かった。昼食時間帯後の店内は客の数もまばら。そんな店内の一角に目を向けると、綺麗に着飾った女性が3〜4名座っている姿が目に入った。そう、回遊魚たちだ。彼女たちは各々がスマートフォンの画面を見ながら退屈そうに座っていた。たぶん昼間の商売はまだ不調なのだろう。皆なかなかの美人なのだが、1人の女性だけは素朴な感じがかわいらしい。ここにいるには似つかわない女性だった。一瞥したもののここは関わらないほうがいいだろう。

客を一瞬で見分けるプロ

実は夢を持つ少女だった



ところがカフェの店員が自分に「いらっしゃいませ」と声をかけると、彼女たちは顔を上げ、一斉にこちらを見た。そして一瞬でそれまでの不機嫌そうな表情をにこやかな笑顔に変え、自分の目を凝視してくる。これは“客になる”と思われたからだろう。

だが、自分の後ろに友人の女性の姿が見えると、彼女たちの表情は一変した。しかも「チッ」と舌打ちをする音も聞こえてきたのだ。つまり、これは女性同伴=客にならないと判断されたわけである。でも、こちらはマカオ観光ついでにカジノに寄っただけのこと。それなのに、人間失格のような烙印を落されたのは腑に落ちない気分だった。

それから数週間後。一人でマカオを訪れたので、カジノへは行かず市内の携帯電話ショップ巡りを楽しんだ。行きつけの店をいくつか回った後、件のカジノのそばにあるお店に立ち寄ってみた。するとあろうことか、先日の回遊魚の1人がいたのである。素朴な雰囲気を持っていた彼女だ。彼女はスマートフォンを買い替えようと店員に説明を聞いているところだった。


▲ 下町へ行くと中国らしい雰囲気があるのもマカオの魅力。

こちらは店内に並んでいる中古端末に興味がある。その中に気になる1台があったので「SIMが2枚入るよね」「3Gの周波数はどれに対応している?」と店員に話しかけた。すると、彼女はこちらを向くや「私もSIMを2枚が使いたいの」と話しかけてきた。

自分の質問から詳しい人間だということがわかり、店員より頼りになると思われたのだろう。店員に中古スマートフォンを出してもらい、手持ちの香港とマカオのSIMを入れて2回線同時待受けを見せると「すごい!」と驚く。当時はまだデュアルSIM機は少なかったのだ。「実は留学したいと思っているの」と楽しそうに話をする彼女の表情は、どこにでもいる20代の若い女性そのものだった。化粧も薄目で服装も派手ではなく、この日は仕事が休みだったのかもしれない。

「このお店には気に入ったスマートフォンが無いなあ」と話す彼女に「じゃあ別の店を案内しようか」と話しかければ、その後でひと時のデート気分を味わえたかもしれない。だが、先日のカフェで感じた屈辱的な気持ちが抜けてはおらず、喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。彼女は回遊魚だったのだろうか? 留学の話は本当だったのだろうか? 今ごろどこかの国で、デュアルSIMスマートフォンを片手に学校へ通っていると信じたい。


▲ マカオの隠れた名物ともいえるフェリー乗り場のプリペイドSIM自動販売機。

文/山根康宏

※『デジモノステーション』2017年2月号より抜粋

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1400台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

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