13番のあの20分間がスピースに火をつけた(撮影:岩本芳弘)

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全英オープン最終日、ジョーダン・スピースとマット・クーチャーのマッチプレーと化した優勝争いの最大の見所は、13番で繰り広げられた20分間のショータイムだった。
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ボギー発進となり、出だしの4ホールで3つスコアを落とし、前半を37で回ったスピースは苦戦していた。一方、最終組でともに回っていたクーチャーは、前半をイーブンパーの34で切り抜け、スピースとの差をじわじわと縮めつつあった。
そして迎えた13番。スピースのティショットは、ほぼ100ヤード右に曲がり、深いラフが生い茂る丘の頂上へ。ギャラリーの群れはボールの落下地点方向へと一気に大移動し、ルール委員、マーシャル、ギャラリー等々、詰め寄せた人々がそれぞれに言葉を発し、あたりは騒然となった。
そんな中、スピースとキャディのマイケル・グレラーは、ルール委員と話し合った末、アンプレヤブルを宣言。1罰打を科した上で、第3打をティに戻って打つか、それともドロップするか。その選択肢と最善の答えを2人は模索し始めた。
スピースとグレラーが選んだのは、ボールのあった地点とピンを結ぶ後方線上をぐんぐん下がり、驚くなかれ、練習場にドロップするという処置だった。
「練習場はOB扱いだろうと思ってルール委員に尋ねたら、そうではないと言われ、それならば、そこ(練習場)からのほうがグリーン近くまで持っていって次打で寄せられると思った。3Wの距離だと思ったけど、マイケルから3Iだと言われた」
3打目でグリーン右手前まで持って行き、4打目でピンに寄せ、3メートルのボギーパットをしっかり沈めた。
ティショットを打ってから次打を打つまでに要した時間は20分超。その間、クーチャーはフェアウェイ上にタオルを広げ、その上にヒザを乗せてしゃがみ込み、集中力が乱されないよう、静かに待っていた。
そして、スピースはボギー、クーチャーは6メートルのバーディーパットがぎりぎり入らず、パー。この瞬間、リーダーが初めて入れ替わり、クーチャーが単独首位に立った。
「全英オープン最終日、5ホールを残して1打差でリード。僕は自分の流れを失わず、とてもいいプレーをしていたんだ。でも、そのあとジョーダンが、それをひっくり返していった」
そう、首位の座がスピースからクーチャーに入れ替わった瞬間こそが、淀んでいたスピースのゴルフの流れが最高の流れに変わる契機になった。いや、スピースのキャディがそのためのきっかけをスピースに与えたのだ。
「マイケルが僕に言ったんだ。『このホールはボギーを喫し、首位を明け渡したけど、ここから流れを変えるんだぞ』ってね」
その通り、スピースは13番でダブルボギーを避け、ボギーに収めたことを自信に変えて弾みを付けた。次なる14番からバーディー、イーグル、バーディー、バーディーの快進撃。瞬く間に首位を奪還し、クーチャーとの差を3打に広げて全英初制覇、メジャー3勝目を挙げた。
もしも13番のあの20分間が無かったら、スピースは優勝していなかったのかもしれない。それまで淀んでいたスピースのゴルフの流れは、そのまま淀み続け、あの快進撃は起こっていなかったのかもしれない。そして、好プレーを続けていたクーチャーが勝っていたのかもしれない。すべては、あの20分間でひっくり返った。
しかし、クーチャーは、またしてもメジャー初優勝を逃した悔しさの中で、20分超を要したスピースの13番のトラブルは「とても難しい状況だったから、とても理解できる」と答え、恨みがましい言葉は一切、口にしなかった。
そしてスピースは、メジャー3勝目を挙げた喜びの中で、自分が敗北に追いやったクーチャーがホールアウト後に家族と抱き合い、泣き出した長男を一生懸命なだめる姿をしっかり目撃。ゴルフの戦いの直後に父親としてもベストを尽くしていたクーチャーを心から讃えた。
「マット・クーチャーは必ずメジャーで勝つ。彼は近いうちに必ずメジャー優勝をやってのけると僕は信じている」
素晴らしい勝者と敗者を得たサンデーイブニングは、最高に後味のいい夜になった。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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