「和える」代表取締役の矢島里佳氏(写真提供:和える、以下同)


 最近、日本の伝統産業に新しい風が吹き始めている。忘れ去られかけていた多くの産業に光が当たり、様々な新しい取組みがなされるようになっている。なぜなのだろうか?

(1)「地方創生」に伴い、各地方で地域資源の発掘とその情報発信を積極的に行うようになったこと

(2)2020年に向けインバウンドが拡大する中で、訪日外国人が魅力を世界に発信するようになったこと

(3)アニメ、漫画、ゲームをきっかけに日本に興味をもった世界の人びとが、ネットなどを通じて、日本文化を深掘りするようになったこと

など、様々な要因分析が可能だろう。

 しかし、最も大きな要因は、戦後の高度経済成長やバブル経済を経験していない、したがって、「舶来信仰」という“昭和の価値観”を持たない若い世代による“日本再発見”ではないだろうか。

 特に都市部の若い起業家層が、「外部視点」から、地方の伝統的な産業の価値や魅力を再発見し、それを現代的なセンスで製品化し提供するようになった点は、ここ数年の大きな特徴である。(1)(2)(3)が、その“追い風”となったことは言うまでもない。

 今回は、そうした取り組みを行う起業家層の代表格、「和える(aeru)」(東京都・西麻布)代表取締役の矢島里佳氏(29)にお話を伺った。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

先人の知慧と現代の感性を“和える”

 矢島氏は、学生時代から日本の伝統(産業)や文化に魅了され、全国各地の工房などを巡る中で、その魅力を次世代につなぐ仕事をしたいと思うようになったという。そして、慶應義塾大学在学中の2011年に創業。社名の「和える」は、「日本の伝統や先人の知慧」と「今を生きる人々の感性や感覚」を“和える”ことを意味している。

 彼女は言う。「“和える”は、『双方の形を残しながら本質を引き出し合うことで、より魅力的なものを生み出す』という点で、“混ぜる”とは異なります。“混ぜる”は元の魅力は残らずにまったく別のものになるイメージです」

 換言するならば、特定の伝統産業において、変えてはいけない「不変」の対象と、時代の変化に即して変えるべき「革新」の対象を的確に識別した上で、変えるべき点は大胆に変革して現代の価値観・ライフスタイルに適合したものとして製品化するということだ。

 彼女の事業は多岐にわたるが、核をなしているのは、“0から6歳の伝統ブランドaeru”である。日本の伝統産業の職人さんたちの技術を用いて、幼少期から大人になるまで使える日用品を企画・開発・販売している。出産祝いや誕生日祝いなど贈り物を通じて、赤ちゃんや子どもたちが日本の伝統に触れ、その家族も伝統産業について知る機会が得られるような品々である。

「伝統産業×子ども」〜意表を突く発想でヒット

 さて、「伝統産業×子ども」という意表を衝く発想で生み出された商品群は、発売されるやセンセーションを巻き起こした。たとえば2012年9月に発売した『愛媛県から 砥部焼(とべやき)のこぼしにくい器』などは、数カ月待たないと入手できない状態がしばらく続いた。他の商品もほぼ同様の状況だった。

大ヒット商品となった「愛媛県から 砥部焼の こぼしにくい器」


「こぼしにくい器」の使用イメージ


「今は、お作りいただける職人さんたちの数も増え、状況的にはかなり落ち着いてきました」とほほ笑む矢島さん。この事業を構想するに至った経緯を次のように語る。

「『〜年の伝統を誇る××焼』と言っても、多くの場合、今の若い方々は知りません。『昔からある』というだけの“産地ブランディング”にはもう無理があると思ったのです。でも、ずっとその土地にいる方々には、なかなかそのことが分からない。だからこそ、私のような“外の視点”が必要だと考えたのです。

“伝統”という切り口では今の若い方々はあまり強い興味を持ちませんが、“子ども”という切り口であれば、興味を持つ方が増えるのではないかと私は考えました」

 そうだとしても、なぜあえて“子ども”なのか?

「幼少期に体験したことは、人生を通じ記憶として残るものです。ですから、日本の子どもたちが、感性が豊かに育まれる0から6歳の時期に伝統産業に触れることで、いずれ彼ら彼女らが伝統産業の商品を自ら手にする時が来ると私は思います。それが、長い目で見た時に、日本の伝統産業を発展させる最も有力な方法だと考えます」

 この事業は数々の受賞の栄誉に浴しているが、その要因として注目されるのが、次世代に対する、こうした教育的側面である。

「こぼしにくいコップ」の使用イメージ


 しかし、もう1つとても重要なことがある。それは、伝統産業を担う職人さんたちを育んでいる点だ。

 日本の伝統産業の衰微が叫ばれて久しいが、市場ニーズが減退し、仕事が減れば、修業を積んだ職人といえども、勘は鈍り、技量は低下する。ただ単に、職人数の減少や高齢化が問題なのではなく、次世代に伝えるべき伝統技術それ自体が失われてしまうことが問題なのである。

 矢島氏の事業の画期的な点は、

・伝統産業の技術を用い現代的センスの商品を開発することで、まとまった量の“数仕事”を創出し、職人さんの技を練磨していること

・旧態依然とした作品ではなく、かつてないチャレンジングな作品づくりを通じて、個々の職人さんたちの潜在能力を引き出し、創造性を高めていること

の2点であろう。矢島氏の職人ネットワークは全国300人に及ぶが、この事業によって各地の伝統産業の魅力が見直されるとともに、売上が上がることで工房に新しい人を採用できるようになったと聞く。

「不変と革新」から見た「和える」の事業

 洋の東西を問わず、伝統を現代に活かすのは本当に難しい。下記の「不変と革新マトリクス」をご覧いただきたい。

伝統産業には4つのタイプがある(筆者作成)


 伝統には、決して変えてはいけないこと(=不変)と、環境変化に即して変えなければいけないこと(=革新)があるが、その対応の仕方によって、4つのタイプに分類される。

 矢島氏が「和える」の事業を手掛けるまでは、右下の「時代遅れ・停滞タイプ」に属する伝統産業も少なくなかったと考えられる。すなわち、伝統を守ろうとする意志が強固なのはよいのだが、時代の変化に即した「革新」に関して、自力では、どうしてよいか分からないというタイプだ。何もしなければ、そのまま時の流れに置いていかれてしまう。

 その一方、環境変化に即した「革新」の重要性を理解しているものの、何を変えるべきかの識別が不適切で、変えてはいけない部分を変えてしまい、結果的に衰亡を早める「迷走タイプ」がある。食品・飲食関連の老舗における偽装事件などを挙げるまでもあるまい。

 また、伝統には、守るべきことと変えるべきことがあるという認識すらなく、時代に流され、中途半端な対応を繰り返し市場から退場していく「自然消滅タイプ」もある。

 以上に対して、矢島氏の事業は、不変の対象と革新の対象とを的確に“識別”した上で、「革新」の対象に関しては大胆な変革を実現している。ソーシャルイノベーションデザインをミッションに掲げる会社「NOSIGNER」を社外パートナーとし、“0から6歳の伝統ブランドaeru”のデザイン協力をしてもらっているのも、その一例であろう。

 それでは、なぜ彼女には、そうした的確な“識別”が可能だったのだろうか? それを次回、明らかにしてみたい。

東京・目黒にある東京直営店aeru meguroの内観


筆者:嶋田 淑之