「帰ってきたキューピッドガールズ」の左から市場法子、奥山静香、谷口礼子(撮影:志和浩司)

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 東京は墨田区京島といえば、古い家屋と町工場が混在する下町ならではの街並みが色濃く残るエリアだが、中でも「キラキラ橘商店街(向島橘銀座商店街)」は下町人情を前面に押し出し、同区内でも屈指の有力な商店街として親しまれる。フジテレビのドラマ「若者たち」(2014)はじめ、テレビ登場も数えきれない。そしてこの商店街盛り上げに一役買っているのが、”ヘンテコアラサーアイドル”を自称する「帰ってきたキューピッドガールズ」だ。

キラキラ橘商店街を盛り上げるアイドル「帰ってきたキューピッドガールズ」とその経済効果

 京成線・曳舟駅から徒歩5分、明治通りから南東450メートルに伸びる「キラキラ橘商店街(向島橘銀座商店街)」の名称は、1931(昭和6)年にできた映画館「橘館」に由来する。戦前から地域住民に親しまれ、戦時中は物資不足のため一時中断されたが、戦後は復興を果たし、賑わいを取り戻したという。その後、近隣の同区錦糸町などの発展に伴い、人口流出などを理由に衰退の一途をたどった。しかし、この商店街の売りでもあった「下町コミュニティ」を軸に再生を試み、1989(平成元)年度の「東京都コミュニティ商店街事業」の申請を行った。この指定を機会に、再び活気を取り戻したという経緯がある。現在は生鮮食品や惣菜、衣料品など、近隣住民の生活を支える約80店舗が軒を連ねる。

 「帰ってきたキューピッドガールズ」は、10年前、瞬間的に活動していたキューピッドガールズのメンバーたちが「ふつうの看板娘に戻ります!」と惜しまれながら解散したが、2011(平成23)年に地元商店街の平和と繁栄のため、墨田区の未来のためにカムバックした。……しかし、実はそれはあくまでフィクション。実際に結成されたのは2011年で、最初から「帰ってきたキューピッドガールズ」なのだ。

 また、これまでの約6年間で彼女たちが商店街にもたらした経済効果は、1000万円以上とのこと。1年間で延べ1000人ほどの客がキューピッドガールズ目当てに訪れ、商店街で買い物や食事をする単価が2000円ほどというデータに基づいた試算だ。商店街のイベントや売り出し時、普段の増減もあると思われるが、およそそのぐらいと考えてよさそうだという。

朝市の日は清掃から参加 劇団仕込みの本格派ステージに衝撃

 毎月一度あるという朝市の日、午前6時過ぎに商店街を訪れると、やがて衣装姿のメンバーが姿を現し、掃除を開始。本来は5人組だが、この日はあいにく2人が欠席。「奥山化粧品店」こと奥山静香、「鳥の谷口」こと谷口礼子、「アイス市場」こと市場法子の3人というラインアップだ。市場は風邪をひいてマスク姿。体調を考慮し、ステージからの参加となった。

 朝市も落ち着き、午前10時になると商店街の一角、田丸神社前でステージがスタート。お客さんも三々五々、集まってきた。時間がゆったり流れるレトロな商店街らしく雰囲気はゆるいが、そのゆるさがいい。そう思ってゆるい気分で見ていると、歌といい踊りといいMCといい、曲間のバラエティーコーナーといい、スキのないしっかりとしたパフォーマンスと構成。「なんなんだ、このクオリティーの高さ!」と驚いたが、彼女たちの出自を知って納得。全員がシアターキューブリックという劇団に所属する役者なのだ。

 集まったファンは、さまざまな年齢層の大人の男性が多い。撮影は基本的には自由なので、カメラを持っている人も結構いる。近所や、せいぜい都内近郊から来ているのかと思いきや、なんと神奈川県の平塚から来ているという年配のファンがいた。

 「シアターキューブリックの舞台で彼女たちを知って、それからずっと追っかけですよ」と満面の笑み。そんな熱烈なファンの人たちのほか、通りかかった地元の人たちも足をとめてステージを楽しむ。

 会場となる田丸神社前広場は、街中の小さな公園のようなスペース。メンバーたちが現れると、ファンもマナーよく自分たちの観覧位置を守ってライブを楽しむ。あうんの呼吸で通じ合っている様子は、地域密着型アイドルの大きな魅力ともいえる。
 

 ステージ終了後は、集まったファンとともに商店街をぶらぶら。楽しい食べ歩きの時間だ。それも終えた後にメンバーたちに話を聞いたが、シアターキューブリックは年に2、3回をめどに公演をしているそうで、MCタイムなどに参加していた男性も同劇団の役者なのだとか。設立は2000(平成12)年。2010(平成22)年から拠点を「すみだ」に移し、"遊園地のようなまちづくり"に向けて活動を開始したという。地域を元気にすることで日本全国を楽しくしていく活動や作品を発信する、新しいタイプの劇団とのことだ。

ただ賑やかしているだけでは、馴染めない どうすれば盛り上げる力になれるかを考えた

 取材に応じてくれた3人のうち、谷口を除く2人はすでに家庭を持つ母親。子育てもあり女優業はお休み中だが、キューピッドガールズの活動であれば稽古も時間を調整できるので継続しているという。いまでこそ商店街にも受けいれられ、いいムードで盛り上げに一役買う存在となれたが、当初は苦労もあったとか。

 奥山は「ただ賑やかしているだけでは、馴染むことはできないんですよね。私たちも実際に商店街のお役に立ちたいと、まずはお掃除を始めたんです」。朝市の日、必ず掃除をすることに決めて、それを守った。そして、それだけではない。

 「ステージにきてくださったお客さんと食べ歩きして、商店街の皆さんとコミュニケーションをとっていただくことを始めました」

 どうすれば商店街を盛り上げる力になれるのか、一生懸命考え、行動を継続したことが、理解を生んだ。

 「最初はお店の人たちに挨拶しても返してもらえなかったのですが、活動を続けるうちに皆さんから挨拶してくださるようになりました。いまでは、『あなたたちがいないとダメだ』とまでいってくださる方もいます」としみじみ振り返る市場。

 谷口も、「いまは、スーパーのレジで会話もないのが普通だと思うんですけど、ここではお店の人とお話しながら買い物するのが当たり前。私たちのステージにきてくださるお客さんも、だんだんそれが楽しくなってきてくれて」と、ステージと商店街活性化の融合に手応えを感じている様子だ。

 これからの目標を聞くと、「私たちだけじゃなく、私たちのような存在がまた商店街で生まれて、いろんな方が自分を表現することで商店街にもお客さんが増えればいいなと。そういうきっかけや呼び水になれればと思っているんです」と奥山。

 安さや便利さだけではなく、地域のコミュニティーとしての機能も果たす商店街。これからも残って欲しい日本の景色だ。

(取材・文・撮影:志和浩司)