時代の固定概念「女子はおしとやかに」を、打ち破った女性パイロット

アメリア・イアハートってどこかで聞いたような…と思うあなたは、結構映画好き。『ナイトミュージアム2』に登場し、主人公を翻弄したあの女性パイロットです。アメリカでの知名度は抜群のこの人、単独飛行による大西洋横断をした世界初の女性です(ちなみにこのレポートを「コスモポリタン米国版」で発表!)。これを皮切りに1920〜30年代、記録となった距離として地球1周半くらいの飛行に挑戦、飛行速度や高度の記録を次々と樹立した人ではあるのですが、そこから70年以上たった今でも国民的ヒロインたりえるのはなぜか? それはたぶん彼女が赤道直下世界一周(つまり最長距離の世界一周)という偉業を成し遂げる旅の途中で、行方不明になってしまったからじゃないかと思います。アメリカ人は命懸けのチャレンジャーが大好きなんですね。

ということで、この人どういう人だったのか。ここで、パイロット時代の彼女とたびたびフライトを共にした凄腕ナビゲーター、後に海軍大将となるハリー・マニングの言葉を引用しましょう。

「アメリア・イアハートは一種のプリマドンナだった。表面は謙虚で恥ずかしがり屋だが、本当は自我が強く、必要な時は鉄釘のように頑固になることができた。何回か、私は彼女の石頭にほとほと嫌になったことがあった」

石頭って言葉を久々に聞きましたが、そろそろ悪姫連載のキーワードになりつつある、この人も"ガンコちゃん"だったんですねー。まあパイロットですから、飛行機の操縦中も自身の人生でも「舵を取るのは自分以外にあり得ない」という人だったわけです。そういう性格は少女時代に作られたのではないかと、私は見ています。

自分以外の誰かに頼ってたら、私の人生ぐっちゃぐちゃになってまうわ

資産家である母方祖父母の反対を押し切って始まったアメリアの両親の結婚。母は夫をなんとか両親に見合うレベルまで出世させようと奮闘しますが、ヘタレ父親はどうにもならず、就職→転職→再起→解雇→飲んで忘れる…的な"ダメ男サイクル"に陥ります。

そんなわけで高校時代に5〜6回にわたる転校を強いられ、祖父母の遺産がなければ大学進学もままならなかったであろうアメリアが、「父親を頼ってたら、私の人生ぐっちゃぐちゃになってまうわ」と思っただろうことは、想像に難くありません。

幼少期のアメリア

でもって子供時代の彼女の趣味が何かと言えば、新聞のクリッピングです。映画の製作や監督、法律、広告、そして機械工学など、男性の分野と思われている世界で成功した女性たちの記事を集めて自分を鼓舞し、やったる気持ちまんまん。ここで私が一番好きな彼女の言葉を引用しましょう。

「一番難しいのは"やる"と決めて肚をくくること」

そして20歳、飛行機との出合いがやってきます。

ある航空ショーの曲芸飛行で、自分めがけて急降下した飛行機が頭をかすめた時に、恐怖と歓喜が入り混じった強烈なエクスタシーを感じてしまったわけです。そして23歳の時、今度は飛行機に乗せてもらう機会を得て、その直後に飛行訓練所へ入学。はやっ。

実技訓練の費用1000ドル(1920年当時のレートで換算すると約2000円。日本の学校教師の初任給が約45円)を、猛烈なバイトと分割払いで乗り越えてその年内に初フライト、翌々年には全財産をはたいて自分の飛行機を購入。父親はどうやらアメリアを諦めさせたかったようですが、彼女は全然意に介しません。

幸せじゃなくなったら「1年以内に離婚」でよろしく

こういう人が一体どんな男と結婚したのか、これすごく気になるところですよね〜。彼女がよしとした相手はジョージ・パットナム。有名出版社の2代目で、31歳の彼女に大西洋横断飛行の機会をもたらし、その後の挑戦の資金を集め、「新世紀のイケてる女性パイロット」としてプロデュースした(そしてもちろん大儲けした)人です。父のヘタレぶりを見ていた彼女が「この人なら経済的に大丈夫」と思ったわけではなく、どちらかというと根負け。結婚にこぎつけるまでパトナムは5回プロポーズし、さらに以下のような条件をのまされています。

「私はあなたを大昔の夫婦の忠誠で束縛する気はありませんが、同じように私も縛られるつもりはありませんので。お互いに幸せが感じられなくなったら、1年以内に離婚するということでよろしく」(抄訳)

この時代に女性の人生における自由と平等を、ここまで実現できた女性はおそらく他にはいんじゃないかなあ。ココ・シャネルの登場でようやく女性がコルセットから解放された1930年、ショートカットにシャツとパンツ姿の彼女は、いろいろ着込んだ男性パイロットを尻目に、その姿のままコックピットに収まったといいます。それは「空を飛ぶことを身近に感じてほしい」という思いと同時に、世界の女性たちに「あなたにだってできる」と示すためでもありました。

なぜ世界一周飛行をするのですか? と訊ねられた彼女は「自身の信念」として、こう答えています。

「女性も機会があれば、男性がすでに達成したことだけでなく、まだ達成していないことにだって挑戦しなければ。そうやって"自分"を確立することは、他の女性たちが自ら考え行動することへの励みにもなる。もし失敗したとしても、それは別の誰かの挑戦になるに違いないのだから」

参考文献

ラスト・フライト 作品社

アメリア・イヤハート 最後の飛行 新潮文庫

アメリア・イヤハート それでも空を飛びたかった女性 国土社

アメリア・イヤハート はじめて大西洋横断飛行に成功した女性パイロット 集英社