ボーイングが2017年6月に開催された「パリ航空ショー」で、開発検討中の新中型旅客機について予想図を初公開。実現すれば「797」を名乗ると見られますが、どのような飛行機なのでしょうか。

「737」と「787」のあいだが「797」?

 ボーイング(アメリカ)が2017年6月に開催された「パリ航空ショー」で、開発を検討している新しい旅客機の予想図を初めて公開しました。ボーイング社内ではあくまで「開発検討中」とのことで、「NMA(New Market Airplane:新市場向け航空機)」と呼んでいるそうです。

 実現すれば「797」を名乗ると見られ、2011(平成23)年に登場したボーイング787以来の新型。航空会社への最初の納入は2025年ごろ、需要は20年あまりで4000機以上との声も聞こえます。


マレーシアのLCC、マリンドエアの737MAX8。737シリーズの現行最新機種で、“797”は、これよりひとまわり大きくなると見られる(2017年5月、石津祐介撮影)。

 この“797”が噂になり始めた当初、そのコンセプトはB-2爆撃機のような全翼機ではないかといわれていました。燃費向上と搭載量の増大を目的に、翼と胴体が一体的に形成された「ブレンデッドウィングボディ(BWB)」を採用する次世代大型輸送機を、NASAとボーイングが共同研究していたのがその根拠のひとつです。

 ところがこの開発中の旅客機の方向性は、ボーイングの747シリーズやエアバス(フランス)のA380のようなさらなる大型化ではなく、マーケットのニーズに応じた「より燃費が良く、より効率のいい運用が可能な機体」へと進んでいるようです。

 その気になるスペックについて、ボーイングは「あくまで検討段階」と前置きしたうえで、航続距離は5000海里(およそ9260km)程度、座席数は200席から270席程度としています。これは737シリーズの最新機種である737MAX10と787シリーズの標準的なモデルである787-8とのギャップを埋めるものという位置付けだそうで、「つまり、757より大きい飛行機で、757より航続距離が長い」(ボーイング)と説明します。それぞれのスペックは、737MAX10が座席数188から230で、航続距離5960km。787-8は座席数が210から250で、航続距離15200km。757シリーズの標準モデルである757-200は座席数200から228、航続距離はおよそ7222kmです。

 エンジンはアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)とP&W(プラット・アンド・ホイットニー)、そしてイギリスのロールスロイスが「3つの非常に興味深い技術提案」をボーイングに行っているようです。なおGEは“797”に複数社からエンジンが供給されるなら「手を引く」と、独占契約を望んでいる旨が報じられています。

“797”に期待する航空会社

 2017年6月、新鋭機ボーイング737MAX8を受領した、北欧を中心にヨーロッパ路線や北米路線を展開しているLCC、ノルウェー・エアシャトルのビョルン・クヨスCEOは、「“797”であれば、ロンドンからピッツバーグやメンフィスといったアメリカの中規模都市や、スカンジナビアからアジアの都市へ効率的に250名の乗客を輸送できる」と“797”へ興味を示し「今後は737MAX8を“797”に置き換えたい」と語りました。同社はすでに100機の737MAX8を発注しており、ほかに737-800や787を保有しています。


ソラシドエアのボーイング737-800。“797”が路線のボリュームアップに使用される可能性も(2016年12月、石津祐介撮影)。

 また737-800を主に運用し、インドの国内と近隣諸国への国際線に路線を持つ同国のLCC、スパイスジェットのアジー・シンCEOも“797”に関心を寄せており、メディアに対し「インドには13億の人がいるが、世界の各地へ旅行するために、主要な航空会社によって作られたハブ空港を利用する必要はない」とコメント。現在のハブ空港渋滞を緩和し、南アジアの地方都市から新しいルートを開くことができる新しいジェット機に、とても興味があると報じられています。

 このように、“797”は地方都市同士を結ぶ国際線のキャリアとして期待が持たれています。またアメリカ国内では、ロサンゼルス〜ニューヨーク間のような大陸横断路線への需要が見込まれています。

「797」は日本の空にも? ライバルのエアバスは

 近年、インバウンドの観光需要により、日本とアジア諸国を結ぶLCCなどの路線が増加しました。その多くは座席数150席程度のボーイング737もしくはエアバスA320を使用していますが、エアアジア(マレーシア)のA330、スクート(シンガポール)の787といった中型機も飛んでいます。


シンガポールのLCC、スクートのボーイング787(2016年10月、石津祐介撮影)。

“797”の約9300kmという航続距離は、東京から東南アジア、南アジア全域をカバーできる距離であり、路線のボリュームアップや既存の機種入替などで日本に乗り入れてくる可能性はあります。

 一方、ボーイングのライバルであるエアバスは「“797”に対抗できる機種はすでに保持している」と主張しています。具体的には、単通路のA320の胴体延長型A321に新型エンジンを搭載したA321neoをすでにリリースしており、座席数240席、航続距離およそ7400kmのスペックを有しています。さらに航続距離を延ばしたLR(Long Range)型の開発も進めており、“797”の航続距離により近くなるでしょう。A321neoはボーイング767や757の後継機種として、航空会社へのセールスが盛んに行われており、ANA(全日空)も2017年に4機の導入を予定しています。

 こうした現状のなか、2025年ごろに航空会社への納入が始まると見られる“797”がどの程度マーケットに食い込めるのか、注目したいところです。

【画像】正式発表、ボーイング737MAX10


2017年6月の「パリ航空ショー」にて、開発、発売が正式に発表されたボーイング737MAX10。画像はイメージ(画像:ボーイング)。