今では「近代絵画の父」と呼ばれる画家ポール・セザンヌ。その作品は、オルセー美術館やニューヨーク近代美術館をはじめとした世界中の名だたる美術館に所蔵されている。しかし、現在の不動の評価を得たのは、没後のことだ。

一方、小説家エミール・ゾラは、不朽の名作『居酒屋』『ナナ』を執筆し、生前に大きな成功を収めている。

映画『セザンヌと過ごした時間』は、そんな対照的な生涯を送った2人の芸術家の物語だ。一方が成功を手にし、もう一方が成功から見放された時、2人の友情や人生はどう変化していくのか?この普遍的なテーマは、現代に生きる僕たちにも多いに通じるものであろう。

交錯する2人

この映画を深く理解してもらうために、セザンヌとゾラの関係についてもう少し触れることにする。

セザンヌは、元々、ブルジョワとして生まれついた。銀行家の父を持ち、裕福な生活を送っていたのだ。対して、ゾラは、母子家庭で貧しい少年時代を送っていた。

そんな2人の友情は、ある日、集団によっていじめを受けていたゾラをセザンヌが救ったことから始まる。そこで、2人が誓ったのは、お互いに芸術家になることだったという。

しかし、運命の悪戯ともいうべき逆転劇が起こる。セザンヌの絵はさっぱり売れずに美術界から無視され、徐々に脇へと追いやられていく。一方で、ゾラの小説はベストセラーとなり、名声を得ていったようだ。

2人に亀裂を生じさせたのは?

成功したゾラ、成功が遠いセザンヌ。立場が入れ替わった2人だが、史実によればその友情は40年間も続くことになる。一時期、ゾラは、セザンヌの生活費まで工面をしていたこともあるらしい。時にぶつかり合いながらも、2人の絆は揺らぐことがなかったーそのエピソードは本作品にも描かれている。

ところが、1886年に2人の友情に亀裂が生じる。そのきっかけは、ゾラの新作小説『制作』だった。主人公は、売れない画家で、苦悩の挙句に自殺をしてしまう。そのストーリーを読んだセザンヌが、自分をモデルにしていると深く傷ついてしまったのだ。それ以来、2人は絶交してしまったという逸話が残っている。

2人の絶交には他の説もあるようだ。が、この映画の脚本・監督を担当したダニエル・トンプソンは、準備段階で出会ったある偶然によって、この『制作』説にフォーカスしたようだ。

3年前に発見された
セザンヌの手紙

その偶然とは、2014年にパリで発見されたセザンヌの手紙だった。史実では、セザンヌが最後にゾラに手紙を送ったのは、1886年となっていたのだが、じつは、1887年にゾラへ送った手紙が探し出されたのだった。

そして、その手紙の結びには「君に会いにいくつもりだ」と書かれていたらしい。これまで知られていた手紙には、1年後に書かれた続きがあった…。その事実から監督がインスピレーションを得て、様々な証言、回想録、そして、自身の想像力を駆使して脚本を仕上げたとのことなのだ。

新発見された手紙は、サザビーズのオークションを騒がし、結局、17,000ユーロ(約221万円)もの値で落札されたという。

2人の友情の結末がどうなるかは、ぜひ、劇場で確かめてほしい。

『セザンヌと過ごした時間』
2017年9月2日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。公式サイトはコチラ

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