ドルの実効レートは、昨年11月の米大統領選でトランプ現大統領が勝利してから大きく上昇しました。いわゆる「トランプ・ラリー」です。しかし、今年に入って下落基調となり、6月下旬以降は同大統領が勝利した直後の水準を明確に下回ってきました。

 期待が失望に変わってトランプ・ラリーが完全に消滅しただけでなく、同大統領の政治手腕がドルにさらなる下押し圧力を加えていると取れなくもありません。とりわけ、足元では経済政策の運営に行き詰まりがみられます。

暗礁に乗り上げたオバマケア改革

 まず、トランプ大統領の選挙公約の一つだったオバマケア(医療保険制度)改革が暗礁に乗り上げています。下院は5月に独自の改革法案を可決しましたが、上院ではメドが立っていません。7月17日には共和党のマコネル院内総務が改革法案の採決を見送りました。同党議員の十分な支持が得られなかったからです。同氏はオバマケアを2年後に撤廃する法案のみを審議し、代替案を後回しにすることにしましたが支持は増えていません。

 業を煮やしたトランプ大統領は7月19日、上院共和党全員をランチに招き、改革が成立するまで夏休み返上で審議を続けるよう要請しました。マコネル氏は会期を2週間延長し、同29日に始まる予定だった夏休み(〜9月4日)を遅らせることにしましたが、その日数で十分かどうかは不明です。

 トランプ政権や議会がオバマケア改革にエネルギーを費やしていることもあり、10月1日に始まる2018年度予算やそれに盛り込む税制改革の審議は遅々として進んでいません。7月18日には、ようやく下院共和党から予算の大枠を決める決議案が発表されましたが、それは5月に発表されたトランプ大統領の予算教書をほぼ無視する内容でした。

9月にデットシーリング引き上げ問題

 とりわけ、トランプ大統領が国防費を除く540億ドルの歳出削減を要求していたのに対し、予算決議案は50億ドル削減にとどまりました。また、決議案は税制改革とその財源としての10年間2030億ドルの給付金削減をうたいましたが、詳細は明らかにされませんでした。

 議会は9月4日まで夏休みで休会となるため、その前に予算決議案が可決されるとしても、具体的な予算編成は9月5日以降となりそうです。議会がトランプ大統領の意向を無視したまま予算編成を行うのか、同大統領がそれに拒否の姿勢をみせるのか。また、短期間に税制改革の詳細を詰めることができるのかなど状況は非常に不透明です。

 9月に入ると、デットシーリング(債務上限)の引き上げが喫緊の課題になるでしょう。議会予算局(CBO)によると、財務省の資金繰りは10月上旬までは問題ないようですが、税収など不確実な要素もあるため、政府のデフォルト(債務不履行)を回避するために、早めの対応が必要となるかもしれません。

 米連邦準備制度理事会(FRB)が金融政策の正常化を進める一方、日銀が現行の金融緩和を継続すれば、ドル/円はいずれ上昇すると考えられます。ただし、ワシントンの混乱がドルに下落圧力を加える状況がしばらく続くかもしれません。

(株式会社マネースクウェア・ジャパン チーフエコノミスト 西田明弘)