◎快楽の1冊
『〆切本』 左右社 2300円(本体価格)

 本書は企画の発想がまず面白い。夏目漱石から最年少は西加奈子氏まで、作家・漫画家・詩人・学者・編集者ともの書く人々の締め切りにまつわるエッセイ、日記、対談、回想、マンガ、学術論文に至るまでをひたすら集め、まとめて94篇。余裕綽々派もあれば泣き言、恨み節、開き直り、言い訳と彩はさまざまで飽きさせない。
 筆者が締め切りと耳にして反射的に想起するエピソードといえば、本書中にも登場する梶山季之の逸話である。昭和40年代に売れに売れ、押しも押されもせぬ大流行作家だった彼。その頃、ある老舗文芸誌は季刊で別冊の特大号を出すのが恒例の呼び物。中でも原稿用紙300枚超の長篇を一挙に掲載することが毎度の柱とされ、この仕事をこなせることがある種、人気小説家であるステータスの証明でもあったらしい。
 そんな時分、何と締め切りの直前に某作家が病に倒れる椿事出来。このままでは何も印刷されぬページが延々と出現する破目になる。出版界では“落とし”と呼ばれ、最も忌み嫌われる緊急事態だ。担当編集者の頭は船場吉兆の老女将じゃないが中身どころか外側まで真っ白になったことだろう。印刷工程を含めば残る時間は正味5日もない。憂慮煩悶の末、編集者がすがったのが梶山だった。驚くなかれ『ミスターエロチスト』と題した300枚を梶山は3日で仕上げ、編集者と雑誌の危機を救ったという。
 何しろ時間が時間。推敲の暇などなく、文章は多少雑になるのはやむを得ない。だが何も知らぬ評論家はやっつけの作品だと筆の荒れを叩き、作者は黙して耐えた。梶山の葬儀の席で遺族より声を上げて号泣したのが、件の編集者だった…とは、涙なくして聞けない。
 あれば憎いが、なくてもならぬ宿命か?
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 第9・11・12・13期雀王の鈴木たろう氏のペンによる最強マニュアルが『迷わず強くなる麻雀』(1300円+税/講談社ビーシー)だ。
 ひと口でいえば、麻雀とは“法則”に則ったゲームであること。したがって基本を覚え、基本に沿って進むことが大切と解説する本である。
 最大のポイントは、麻雀愛好家は間違った覚え方をしていると説いている点だろう。具体的に何を間違っているのか。「ツキや流れに迷わされている」「上級者のアドバイスを聞きすぎる」。この二つこそ大きな間違いだと指摘している。
 その上で、「いっぱい打て」(経験を積む)、「オリるな」(粘る)、「遠慮するな」(無難に済まそうとするな)の3カ条を掲げ、経験と粘りの中から勝つ法則を見出そうというのが本書の骨子であり、その心構えを「基本思考編」として述べている。
 そして次に「基本手順編」として、「いっぱいテンパイする」「リーチと仕掛けの基本」、さらに「上級編」の「押し引きの考え方」「リスクを計る」まで、手取り足取り網羅。
 どれも基礎をきちんと覚えなければ無理なのだが、意外なことに基礎ができていない人が多いのも、麻雀ファンの実態のようなのである。
 何でも基礎こそが肝要であると、分かりやすく説いてくれる1冊である。ゲームである以上は基礎を踏まえて論理的に考えること、そして我慢強く打つことが鉄則。自分の打ち方をいま一度見直す機会となるかもしれない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)