学生のみなさんはいよいよ夏休み目前。社会人のみなさんもちらほら夏季休暇を取りはじめる頃ではないでしょうか。みなさん、休暇の予定はお決まりですか?

特にやることがない、という方のために、今回は映画から学ぶ夏休みの過ごし方をご紹介します。

学生の特権を活かして、旅行に旅立つもよし。
都会の喧騒から離れるのもよし。
幼いころの夏に想いを馳せるのもよし。

さぁ、映画を観て休暇の予定を立てましょう!

色即ぜねれいしょん(2008)

ボブ・ディランを愛する文化系の高校1年生の純は、ヤンキーや体育会系の集まる学校で冴えない日々を送っていた。ある日、友人の伊部と池山からフリーセックス主義の島に行かないかと誘われる。ロックな生き方に憧れ、ギターケースと旅行バッグを手に旅へと向かう、ひと夏の性春物語。原作はみうらじゅんの自伝的な同名小説。

監督は、田口トモロヲ。本職は役者ですが、監督業もこなしています。代表作は『アイデン&ティティ』など。ひさしぶりの監督作となった『ピース オブ ケイク』はこれまでとは毛色の異なる作品だったので驚かされました。他にも、ミュージシャンやナレーター、イラストレーターなどで生計を立てていた時期もあり、非常に多才な役者のひとりです。

今作は、ミュージシャンの出演者が多いのも見どころのひとつ。主人公の乾純を演じるのは、渡辺大知。黒猫チェルシーというバンドのボーカルです。当時、演技の経験もなかった彼ですが、その初々しさが今作のキーワードにもなる童貞っぽさが似合うはまり役。脇を固めるのも、銀杏BOYZの峯田和伸、くるりの岸田繁などのミュージシャンに加え、リリー・フランキーや、宮藤官九郎など、兼業ミュージシャンも多数出演。一風変わった役者たちが集まった作品とも言えます。

学生だからこその無鉄砲な夏を!

「フリーセックス主義の島に行かないか?」
あらすじを読んだだけでも男子学生っぽさが全開で素晴らしい!
みうらじゅんらしいと言えば、それだけでも説明は不要かと思いますが、異性とは無縁の夏を過ごしたすべての大人に送りたい作品。冴えない青春を過ごした男子のひと夏の物語ですが、そんな日常から脱しようと旅に出る姿はとっても眩しい。主人公・乾純のようにモヤモヤを打ち破ろうと、こんな旅に出れば忘れられない夏の思い出ができたんだろうなあと思わせられます。

物語のクライマックスで、渡辺大知はその歌声を披露。これまでのナヨナヨな姿からは打って変わり、学園祭のショボいステージで凄まじい気迫のパフォーマンスを見せます。くるり、銀杏BOYZも音楽性は違えど、心のモヤモヤしたところを歌い上げるミュージシャン。音楽が好きな方にもお薦めの一本です。

サイドカーに犬(2007)

舞台は1980年代の夏。主人公の薫は、ふと、憧れの女性・ヨーコを思い出す。20年前、家を出た母と入れ違いにやってきたヨーコは、ドロップハンドルの自転車を駆り、煙草をふかす母とは正反対の豪快な女性だった。彼女は薫のために食事を作り、当時の流行りを教えてくれた。しかし、父との諍いの末、家にいられなくなったヨーコは「最後の夏休みに付き合って」と、薫を誘うのだった。

監督は、根岸吉太郎。代表作は『探偵物語』や『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』など。ロマンポルノ作品を多数手がけたのち、初の一般映画『遠雷』でブルーリボン賞監督賞と芸術選奨新人賞を獲得。主人公の幼少期のころが物語のメインですし、過去の作品と比べても『サイドカーに犬』はこれまでの作品とは風合いが異なりますね。

いつかの夏を思い返す

子どもの成長+夏の思い出=鉄板のノスタルジー。
「子どものころに過ごした、あんな夏」を過ごしたい方にお薦めの作品。それぞれの世代で夏の思い出のイメージは違うとも思いますが、誰もが想いを馳せられる共通認識の夏を感じられます。昭和という時代を知らない世代にも懐かしさを呼び起こさせる、RCサクセションの故・忌野清志郎の歌声。瓶のコーラの清涼感。土手を自転車で走るあの感じ。夏の楽しさが詰まっています。

今作の決め手はヨーコを演じる、竹内結子ですね。失礼ながら、豪快だとか、かっこいい女性のイメージとは結びつかなかったのですが、今作の彼女はそのイメージにぴったりの女性を演じています。おそらく、世間的な竹内結子のイメージとは異なる演技にも注目です。

めがね(2007)

とある南の島の海辺に下り立った女、タエコ。その小さな島は不思議なことだらけで、謎の「メルシー体操」を踊る人々や、真っ昼間から島をふらついてる高校教師のハルナ、かき氷をふるまうサクラ、タエコが宿泊する宿「ハマダ」の主人、ユージ。マイペースで奇妙な島民に振り回されるが、タエコは自分なりに「たそがれる」術を身につける。大人の夏休みにぴったりの物語。

監督は、荻上直子。ユルい邦画の代名詞的な監督でしょうか。
荻上監督の作品にはどれも通ずる空気感があり、非常に記名性の高い作り手だと思います。ゆえに、好みはバッサリと割れるのですが。『かもめ食堂』以降、今作のメインキャストでもある、小林聡美、もたいまさこをはじめとする、同じ空気感をまとった役者たちの映画が幾人かの監督の手で撮られましたが、個人的には荻上監督の作品は少し異質だなあと感じます。単純にコメディの要素が強いかなと。

おとなの休暇は「たそがれる」こと

現代社会に忙殺されるすべてのひとに送る、癒しの映画。
撮影地は鹿児島県の与論島。ロケーションが素晴らしくて、こんなところで休暇を過ごしたいと誰もが思うのではないでしょうか。また、荻上作品の持ち味とも言えるさまざまな料理を手がけるのは、前作の『かもめ食堂』から引き続き、飯島奈美。いまや、引っ張りだこのフードコーディネーターでしょう。

今作のおもしろいところは、主人公・タエコは南の島での過ごし方が下手くそだということ。日々を忙しく過ごしているひとほど、ポンと休暇を得ると、どのように過ごせばいいのかわからないのかもしれません。しかし、島民との交流を通して、それがだんだんと上手くなる。休暇の過ごし方が「遊ぶ」や「楽しむ」よりも、「たそがれる」がハマるようになったひとにお薦めの一本です。

ふきげんな過去(2016)

東京・北品川の食堂で暮らす、いつも不機嫌な表情の女子高生・果子。彼女の元に18年前に死んだはずの叔母・未来子が現れる。とある事件を起こし、前科持ちの未来子は、果子の本当の母親だという。自身の部屋に居座る図々しい未来子に苛立つ果子だったが、ふたりはひと夏をともに過ごすことになる。

監督は、前田司郎。劇団「五反田団」主宰。劇作家ですが、映画の製作にも精力的で、代表作は『横道世之介』や『ジ、エクストリーム、スキヤキ』など。近ごろは舞台出身の方が映画の世界での活躍が目覚ましいですね。『ふきげんな過去』と同年に公開の『太陽』や『葛城事件』。どちらも舞台が原作の作品です。

主人公の果子を演じるのは、二階堂ふみ。年がら年中不機嫌な女子高生を演じてますが、これがとってもよく似合う。傘を引きずりながら歩き、冒頭から不協和音が鳴りっぱなしで、こちらにも果子の不機嫌さが伝わるようです。果子の本当の母・未来子を演じるのは、小泉今日子。物語の世界観を満たす、どこか異様な雰囲気にハマる浮世離れしたキャラクターを好演。果子は彼女のことを鬱陶しく扱いますが、よくよく見れば似た者同士にも思える描写がちらほら。

日常の延長線上に訪れる不思議な夏

非日常な夏を過ごしたくとも、意外とそんな夏は訪れない。
旅にも出かけず、自宅でごろごろと過ごすのも夏休みの醍醐味。
今回のご紹介作品では、もっとも日常的な夏を描いてる作品です。ただ、物語のそこかしこに散りばめられた現実との乖離が、冒険とは無縁の物語に不思議さをもたらしています。いつもの夏に異物が混ざり込んだ奇妙な感覚。ワニの噂、未来子の存在、高良健吾が演じる謎の男など、一筋縄ではいかない面白みに満ちた作品です。

演劇出身の方が手がける映画は、映画一筋の監督の作品とは印象が異なります。今作ならば、独白。一応、話し相手を置きつつも「これは本質的には独り言」と言わせたり、非常に演劇的な会話が目立ちます。家族での会話の応酬も小気味好く、テンポも素晴らしい。前田監督は会話で魅せることに長けた作家さんなのだなあと思います。

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