カノエラナが見せた日常の演出力ーー新作『「カノエ暴走。」』の魅力を読み解く

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 シンガーソングライター、カノエラナが3rdミニアルバム『「カノエ暴走。」』をリリースした。20歳でメジャーデビューしてから「メジャーデビューミニアルバム3部作」と題して、21歳になった現在まで、畳みかけるようにリリースしてきた彼女。1st『「カノエ参上。」』、2nd『「カノエ上等。」』、そして3rd『「カノエ暴走。」』――これらのタイトルがまさに、彼女の成長を言い当てているように思える。アニメと二次元を愛する少女が、佐賀県唐津市から上京し、独自の感性を様々な角度から露わにしていき、共感を得て、自信を得て、「思ったこと」「やりたいこと」を躊躇なく出していくようになるまで――この3部作には、そんなみずみずしい過程がパッケージされている。

 『「カノエ参上。」』は、これが一人のシンガーソングライターから生み出されたのか⁉と驚いてしまうほど、多彩な楽曲が詰まった作品だった。スカッと爽やかな青春ソング「シャトルラン」があったかと思えば、地縛霊が主人公のジャジーなナンバー「恋する地縛霊」があるという……しかも、楽曲のストーリー設定によってサウンドも歌い方もまるっきり変わるという、器用なスキルを1stにして余すことなく披露していたのだ。そこには、彼女が愛するアニメから学んだ表現力と、iTunes世代ならではの「トータルの統一感より、一曲一曲のクオリティ」を重んじる考え方が生かされていた。とは言え、ここまで最初から出し惜しみしないでいると、早々に出し尽くしてしまわないだろうか? また、最初はもうちょっと統一感がある方が、カノエラナ印を世の中に焼き付けることができるのではないだろうか? とヒヤヒヤしていたのだが……それは老婆心だったようだ。「メジャーデビューミニアルバム3部作」で彼女の全貌が明かされる、ということが予め計画されていたのかどうかはわからないが、この3枚を通して聴くことによって、カノエラナというシンガーソングライターの本質と、ここから未来を切り拓いていく可能性が、はっきり見えたと言っていいだろう。

 そもそもカノエラナの名と音を広めたのは、Twitterだった。2015年からTwitterで【30秒弾き語り動画】を投稿するようになり、約2年間で90曲以上を公開してきたのだ。それを彼女は以前のインタビューで「日記としてやっていた」と語っていた。そもそも、小学生のころからピアノを習ったり、中学生のころからシンガーソングライターになるための勉強をしてきた彼女。それ故に、高い歌唱力やソングライティングのスキルがあるのだと思うのだが、その技術を最大限に生かせたのは「日記のように楽曲を書いたから」だと思う。日々のふとした瞬間や、ふとした感情を逃さずにキャッチし、コツコツ磨き上げてきた技術で楽曲に落とし込み、すぐにTwitterにアップする。そこで彼女は「あんな瞬間やこんな感情も楽曲にすることができるし、反響も得られるんだ」と実感することで、「現代におけるポップミュージックの在り方」をナチュラルに会得してきたと思うのだ。そんな彼女の魅力が『「カノエ暴走。」』では、文字通り暴走している。

 今作に収録されている6曲のうち、「たのしいバストの数え歌」「ダイエットのうた」「バレンタインのうた」と、タイトルに「歌」と付いているのは3曲もある。「私立カノエ厨学校校歌」も含めれば4曲か。他にも、「SNS」は読んで字の如くだし、「沼に落ちて」もそのまんまと言えばそのまんま。何のことを歌っているかが、とてもわかりやすいのだ。まさに、日記のように、思ったことをそのまんまパッケージしたことが伝わってくる。とは言え、ただのつぶやきのような弾き語りでは、もちろんない。テーマがシンプルなだけに、歌詞においても、曲においても、ドラマティックな演出が光っている。特に「たのしいバストの数え歌」は、誰もが知っている「ABCの歌」のメロディ。しかも、テーマはおっぱいである。下手したら、小学生のころに歌っていたようなただの替え歌になりかねない。しかし、編曲の日高央の手腕もあると思うが、とってもキュートなポップソングに昇華されているのだ。禁断のテーマを、誰もが知っているメロディで、オリジナルの人懐っこいポップソングにしてしまう。この演出力は、只者ではないだろう。他にも、「校歌」というジャンル(⁉)に高い歌唱力を生かして挑んだ「私立カノエ厨学校校歌」、アニメやゲームという沼に落ちた自身を爽やかに歌い鳴らす「沼に落ちて」、ダイエットというハードなテーマをまろやかなコーラスで包み込んだ「ダイエットのうた」、彼女だからこそリアルに歌える社会風刺の歌「SNS」、可愛らしい曲調に騙される根深いラブソング「バレンタインのうた」など、一筋縄ではいかない楽曲ばかりだ。

 SNS世代の日常演出家、カノエラナが同世代に広まっている理由が頷ける今作。これからも、どんな日常を切り取っていってくれるのか? 興味は尽きない。(文=高橋美穂)