米メディアからも精神状態を懸念する声 Reuters/AFLO

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 アメリカの劣化によって世界はジャングル化している──そう指摘するジャーナリストの落合信彦氏は、ドナルド・トランプ大統領の存在はかなりの懸念材料だと断じる。

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 異常事態の中で生まれた大統領は、まさに世界を異常な方向へ導こうとしている。

 その最たるものが、トランプが突如言い出した「パリ協定からの離脱」だ。地球温暖化対策の国際ルールを決めたパリ協定からアメリカが脱退すれば、環境に大きな影響を及ぼす。二酸化炭素の排出量は、アメリカが全世界の排出量の15.8%を占めており、日本の同3.6%の4倍以上となっているからだ。

 しかもトランプは、アメリカ国内の「石炭産業」を再興することによって雇用を増やすと主張している。グーグルやアップルなど先端企業がアメリカ経済を牽引している時代の中で「石炭で雇用を作る」と主張すること自体、ビジネスマンとしてもセンスが疑われる。やはりトランプは、「ちょっと成功した不動産屋」に過ぎず、アメリカを代表するような優れた事業家ですらないし、ましてや「大統領」の器ではないのだ。

 トランプが行ったパリ協定の離脱声明からして、多くの事実誤認と嘘と誇張にまみれていた。例えば次のような発言である。

「パリ協定で、中国は数百基の石炭火力発電所の新設を許されているが、我々はできない」

「協定が全面的に履行されても、2100年までに0.2℃ほどしか、気温は下がらない」

 まず、パリ協定では、「中国の発電所建設を許可する」とも「アメリカの発電所建設を禁止する」とも定められていない。しかも、パリ協定のせいで石炭産業が苦しくなったわけではない。アメリカでシェールガスが低コストで大量に採掘できるようになったから、石炭が使われなくなったのだ。

 後者の発言は、大事な点を隠している。この将来の気温シミュレーションでは、もし温暖化対策を行わなかったら、地球の気温は「5℃以上も上昇する」とされている。だからパリ協定が存在するのだ。

 自身を批判するメディアを「フェイクニュース」と断じるトランプは、そうやって自ら「フェイク」をバラ撒いているのだ。

 トランプのパリ協定離脱に対しては、国内外から次々に非難の声が上がった。特筆すべきは、アメリカ各州の知事や市長などから反対声明が出たことだ。

 カリフォルニア州知事のジェリー・ブラウンは、「(トランプの)間違った意味不明の行動に、徹底的に対抗する」と強い言葉でパリ協定離脱を批判した。

 このブラウンと、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモは、トランプによる離脱発表後に「パリ協定の目標達成に取り組む」とする「アメリカ気候連合」を創設することを発表した。これはホワイトハウスへの明らかな反旗である。

 さらに、ニューヨーク市やロサンゼルス市など50以上の市も、再生可能エネルギーなどへの投資を拡大して環境対策を継続していく声明を出した。皮肉なことに、炭鉱業で栄えたペンシルベニア州のピッツバーグ市まで、同様の声明を出している。トランプはパリ協定離脱発表の際、「私はパリのためではなく、ピッツバーグの人々のために大統領に選ばれたのだ」と語ったが、そのピッツバーグ市の市長でさえ「パリ協定に従う」と言い出している。

 トランプが大統領になってから、アメリカはもはや内部崩壊の様相を呈してきた。

※SAPIO2017年8月号