相手を思いのままに操る「黒い心理術」4

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上司や部下、取引先など、ビジネスのあらゆる人間関係において、主導権をにぎれたら……。香港生まれの「元祖メンタリスト」が、そんな願いをかなえる、実践的な心理テクニックを紹介する。

■このテクニックでビジネスの人間関係が一変

私、ロミオ・ロドリゲス Jr.は、香港生まれのメンタリストです。「メンタリズム」という言葉がここまで広がる10数年前から活動しています。その肩書に怪しいイメージを持つ方もいるかもしれませんが、メンタリズムのベースにあるのは心理学。科学的な根拠をもとに、相手の心を読み取り、操る技術です。2010年には縁あって、香港大学でメンタリズムの講義もさせていただきました。

また、メンタリズムをもとに、ビジネス心理術という、「ビジネスの現場において、相手の心を読み取り、操る心理テクニック」を築き上げました。私はその専門家として、サービス業の方を対象にお客様の心を読み取るセミナーを開催したり、『気づかれずに主導権をにぎる技術』(サンクチュアリ出版)のような書籍形式でそのノウハウを紹介したりしています。

私に言わせれば、「ビジネスの人間関係」の悩みは、すべてこの心理術で解決できます。提案になかなかイエスと言わない上司も、伸び悩んでいる部下も、厳しい交渉が必要な取引先も、これからお伝えする方法で、相手を自分のペースに巻き込め、思いのままにできるのです。

それでは、実践的なビジネス心理術をいくつか紹介しましょう。

■イエスと言わない上司には「ワーディング」

はじめに紹介するのは、自分の提案になかなかイエスと言ってくれない上司を攻略するための心理術です。ガンコな上司には、「ワーディング」と呼ばれる心理術を使いましょう。

ワーディングとは直訳すれば「言い回し」を意味し、相手を自分の希望する方向に、言葉によって誘導することです。たとえば、あなたが社内である提案を通したいとしたら、上司に対して、次のようなワーディングを駆使してください。

「役員の◯◯さんも、この提案には見込みがあるとおっしゃっていたのですが、部長はどうお考えですか?」

シンプルなテクニックではありますが、これほど効果的なものはありません。

もし、あなたが上層部の人間に働きかけるのが難しいというのなら、「数」を利用したワーディングをするのも効果的です。たとえば、調査会社を利用してして、100人に事前アンケートをしてみる。

「部長、100人にアンケートを行なったのですが、90パーセントはこの商品を購入したいと答えています。この人数をどうとらえますか?」

こう言われたら、相手も簡単に否定はできません。そもそも、ビジネスにおいて、提案にゴーサインを出すときの、決定的な決断材料は2つしかないと言われています。1つは自分よりも権力を持っている人間がいいと認めた場合。もう1つは大多数の人間がいいと認めた場合です。

ワーディングによって、相手がゴーサインを出しやすい判断材料を提示することは、部下にとって必須のスキルと言えるでしょう。

■成績が伸び悩む部下には「ピア・プレッシャー」

次に紹介するのは、成績が伸び悩む部下に対して、あえてハードな目標を提示するときに使える心理術。その名も「ピア・プレッシャー」と言います。

ピア・プレッシャーとは、仲間や同僚からの心理的な圧力を意味します。日本の企業にありがちな付き合い残業もピア・プレッシャーの一種。「みんながそうしている(働いている)のだから……」という圧力に、知らず知らず従わされているわけです。

具体的な活用法を述べましょう。たとえば、1か月で6、7件の契約をとれればOKという商品を扱う営業部があるとします。部下に、何とか月10件の契約をとらせたいという場合、次のようにピア・プレッシャーをかけてみましょう。

「他部署の話だが、先月は15件の契約をとった人間が何人もいる。君にも、ぜひ同程度の契約をとってきてほしい。ただ、いきなり言われてもハードルは高いだろう。そこで最低でも10件。どうだ、それほど難しい話じゃないだろ」

このように、他の人間ができているんだから、あなたもできるよね、と圧力をかけるのです。ポイントとしては「まわりができているから」と言って同調を促すこと。そして、最初にあえて目標を高めに設定しておいて、そこから本来の数字にまで落とすこと。この2点を意識することで、強力な圧力をかけつつも、こちらが譲歩までしたように見せることができます。

■「ウソの本音」をエサに部下の本音を知る

部下に対する心理術をもう1つ続けます。あなたが上司という立場にいるなら、部下が本音では何を考えているのか知りたい、と思うのではないでしょうか。

この解決策は、じつはシンプル。そもそも、相手の本音を引き出すには、自分自身が本音を言えばいいのです。人間は自分に対してすべてを正直に話してくれる人を信用する傾向にあり、信頼を置くようになるからです。

こう言うと、その「自身が本音を言う」ことが難しいんだと思う方もいるでしょう。しかし、そこでバカ正直に本音を言う必要はありません。あくまで、「本音に見える」ように話せばいい。

本音のように話すにはテクニックがあります。それは「少しためてから話し始める」ことです。人間はウソをついていると早口になるクセがあります。そこで、ためてから話すことで、しっかりと心の内をさらしていると相手を錯覚させます。他に気をつけたいのは、ゆっくり話すことです。ゆっくり話すことで、相手はあなたが落ち着いていると考え、誠実ささえあると勘違いするのです。

もしも、自分の発言が部下に本音ではないとバレたらどうするのか、と心配する方もいるかもしれません。しかし、それは杞憂です。

こちらが何度も本音を引き出し、あなたに心酔させた部下であれば、仮に疑われるようなことがあっても、ちょっとのフォローで効果があります。たとえば、「あのとき、部長の意見に賛成かのように言ったけど、それも、じつはお前のためだったんだよ」というように。一度信じ込ませれば、それがまた本音に聞こえるのです。

■取引先に面倒な要求をのます「ドッグラン」

ビジネスの世界では、ときには厳しい要求や手間のかかるお願いを、取引先に頼み込む必要が出てきます。そんなときに使える心理術が、この「ドッグラン」です。

これは一言で言うと、相手に「ごほうび」を提示するということ。ようは、ドッグレースの犬の前にぶら下げる肉のようなものです。日本では「馬の前にニンジンをぶら下げる」という表現のほうがわかりやすいでしょうか。

たとえば、ある製品を、取引先に急遽、追加発注しなければならない、しかし先方が納期に間に合いそうにないという場合。この心理術を用いて、次のように交渉します。

「じつは、うちと関係のある会社が、今度御社に発注することを考えているんです。ただ、御社の機動力を買ってのことで、今回のようなケースに対応していただけないと、話がなくなるかもしれません。何とか間に合うようにしていただけませんか? 新しい取引を逃すのはもったいない話ですし……」

何なら、これは架空の話でも構いません。あとになって、「じつはあの話が先方の都合でなくなってしまって……」と言えばいいだけの話です。もちろん、それでは良心が痛むという方もいるでしょうし、あまり多用すると、築いてきた信用を失います。どうしても、というときだけ使ってほしいテクニックです。

「ビジネス心理術」はあらゆる人間関係で主導権をにぎれる強力な「武器」です。しかし、すべての武器がそうであるように、それを生かせるかどうかは持ち主次第。節度を持って活用してください。

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ロミオ・ロドリゲス Jr.
1972年、香港生まれ。メンタリスト。ビジネス心理術の専門家。幼いころよりイギリス、カナダ、日本とさまざまな国々で暮らし、4か国語を操る。現在は独自のビジネス心理術をもとにしたセミナーを開催し、サービスや接客業のビジネス現場で、いかにお客様の心を読んで主導権をにぎるかを指導。2015年、「一般社団法人日本マインドリーディング協会(JMRA)」を立ち上げるなど、さらなる心理術の開発・発展に尽力中。

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(メンタリスト ロミオ・ロドリゲス Jr. 撮影=大川美帆)