黒田日銀総裁(写真:ロイター/アフロ)

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 筆者は日銀の金融政策について、2%の物価目標に加え、賃金ターゲットが政策目標に追加される可能性を指摘しています。賃金を政策目標に追加すれば、(1)政策目標として国民および政治サイドの共感を得やすいという利点があるほか、(2)そのどちらかの指標のいずれかの尺度が政策目標に届く可能性が高まるため、金融政策の自由度が増すというメリットが考えられるからです。(解説:第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

「賃金」目標を追加する狙いとは?

 (1)については「物価」と「賃金」が長期的に強い連動性を持つことが実証的に明らかになっています。そのため、どちらを政策目標にしても本質的に違いはないのですが、消費者の立場に立てば「物価」よりも「賃金」を上げる政策が好ましいのは言うまでもありません。為政者の立場でも「物価のための金融政策」よりは「賃金のための金融政策」とした方が有益でしょう。日銀としては賃金を目標に追加することで大規模金融緩和が正当化されるという効果もあります。

 (2)については、まず目標設定を議論する必要がありますが、賃金上昇率の目標として「3%」という基準が考えられます。3%の根拠は2%の物価上昇率に1%程度の生産性向上を加算して実質賃金で1%の上昇を確保するというもの。野心的な数値ですが、こうした目標は政治的にも国民(消費者・労働者)の感情的にも受け入れられ易いでしょう。その他では、現実的な数値として「2%」や「2%超」とすることも考えられますが、これでは実質賃金上昇率の0%を容認することになってしまいマイナスの影響が懸念されます。

 ここで毎月勤労統計の「一人当たり賃金」に目を向けると、伸び率は前年比0%台半ばでもたついています。3%はおろか2%超でもかなり高い目標にみえます。「一人当たり賃金」は足元でこそ雇用ミックスの改善( 正社員の伸び>パートタイムの伸び )を映じて伸びを高めているものの、3%は明らかに非現実的です。そこで注目すべきは普段さほど重視されていない「時間当たり賃金」。この尺度でみた賃金上昇率は、足元ですでに1%超の軌道にあり、「一人当たり賃金」とはガラリと印象が変わります。

 今後、労働市場が一段と逼迫していくなかで「時間当たり賃金」が2%を超える蓋然性はそれなりに高いと言えます。実際、失業率が3%以下の領域に突入すると、賃金は加速度的に上昇する傾向が観察されており、この関係が再現されるならば、失業率2%台前半の時に4〜5%の賃金上昇率が達成されることになります。

 もちろん現状の日本経済に照らし合わせると4〜5%の賃金上昇は非現実的と言え、図中の傾向線を大幅に下振れる可能性が濃厚です。しかしながら、それでも図中の(1)の領域まで上昇する可能性は十分にあるでしょう(現在は(2)の領域に位置)。さすがに3%までは距離があるとはいえ、消費者物価の前年比上昇率2%を安定的に持続させるよりはハードルが低く、実現可能性が高い政策目標と言えます。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

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