インディカー・シリーズ第12戦、トロントで優勝したのはジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)だった。今季2勝目でポイントランキングは4番手に上がり、トップとは23点差。一気にチャンピオンの目さえ出てきた。

 だが、今回はトップを争える速さがなかったことが幸いしての優勝だった。こんなことも起こるのがレースだ。不運に見舞われた方はたまらないが……。


シリーズ第12戦、トロントで幸運な勝利を収めたジョセフ・ニューガーデン

 ニューガーデンの幸運は22周目に訪れた。トニー・カナーン(チップ・ガナッシ・レーシング・チームズ)のアクシデントで出されたフルコースコーションを絶妙のタイミングで利用して、ピット作業を行なった。彼より前を走っていたエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)、シモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)、グレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)の3人がピットロード入り口を通過した直後にイエローフラッグは振られ、即座にチームから出された「ピットインしろ!」という指令に対応できたのは、トップグループではニューガーデンだけだったのだ。

 インディカーのルールでは、イエローが出るとピットはいったんクローズにされる。全車がスピードを落とし、隊列が整ったらピットは再びオープンになる。ピットの再オープン後にタイヤ交換と給油を行なったカストロネベスら3人は、それぞれ14、15、16位まで大きく順位を落としてしまった。

 レース再開後にイエローは再び出されることなく、全員がもう1回のピット作業をこなしてゴール。「降る、降る」と言われていた雨もとうとう落ちてこなかった。序盤にして後方集団に埋もれたカストロネベスらに、狭くてオーバーテイクの難しいストリートコースで再浮上するチャンスはついに巡ってこなかった。

 ペンスキー勢は金曜日の走り始めから速かった。そこで彼らはQ1をハードコンパウンドのブラックタイヤだけでクリアすることに挑戦する。どんなコースでもソフトコンパウンドのレッドタイヤが予選では有利なのだが、3段階の予選で使用が許されるのは2セットだけ。そこで、Q3に新品のレッド1セットを残して優位を得ようと、Q1をブラックで切り抜けることにトライしたのだ。

 ところが、これに成功したのは3人だけ。ニューガーデンはタイムが上がらずQ1の最後にレッドを投入してQ2進出を確実にしなければならなかった。そのQ2では、終盤にアクシデントがあって赤旗が出された。もしそのまま終了していたら、カストロネベスはQ2もブラックだけで通過してしまうところだった。しかし、1周だけアタックできる時間を残して予選は再開され、レッドでの一発勝負になった。カストロネベス、パワー、パジェノーは問題なくQ3へ駒を進めたが、ニューガーデンは7位でトップ6入りに失敗した。

 予選でのパフォーマンスアップが課題となったニューガーデンは、レッドで走るレースの序盤も、先輩チームメイトたちに差を見せつけられた。彼らとレイホールがトップ集団を形成し、ニューガーデンを引き離していった。ところが、それが幸いしてしまうのだからレースは不思議である。

 高い実力があっても勝ち星に恵まれないドライバーがいる一方で、こんな幸運によって勝つケースもある。実はトロントではこのパターンが結構多く、去年はブッチギリの速さだったスコット・ディクソンが、ピットタイミングの差でパワーに敗れている。2015年も、予選11位だったドライバーが、やはりイエローの出たラップにタイミングよくピットインして優勝した。そのドライバーがニューガーデンだ。

 同じルールのもとで戦っているのだから、勝つ、あるいは上位フィニッシュするチャンスは出場者全員に公平に与えられている。イエローが出るとピットがクローズになるのは、ドライバーやコースマーシャルたちの安全確保ももちろんだが、レース展開に運が大きな影響を与えないようにするのも目的だ。だが、イエロー下ではスピードダウンが義務付けられるので、ピット入り口の近くをタイミングよく走っていた者がいち早くピットインして大きな恩恵を受けるケースが起こり得る。今回のニューガーデンがまさにそのパターンだった。

 別に不正行為を働いて優位を手に入れたのではなく、タイミングを活用しただけ。それはルールのもとでの戦いの一部であり、批判のしようがない。また、ピットがオープンになると、多くのマシンがいっせいにピットロードへとなだれ込み、クルーたちによる100分の1秒を争うエキサイティングな戦いが繰り広げられる。この”副産物”はインディカーの大きな魅力のひとつになっている。ファンに歓迎されているのも事実で、「ピットクローズのルールをなくしてしまえばいい」というような単純な話ではない。

 しかし、フルコースコーション発生時点の各マシンの所在位置を、オフィシャルはそんなに苦労することなく把握できるのだから、その点を利用して、もっと公平で、しかもレースをおもしろくするルールは作れないものだろうか。主催者のインディカーは考え、議論し、ベストのルールを見つけ出す努力を続けていく必要があるだろう。伝統あるルールには素晴らしいものも多く、目先を変えようとアチコチいじり回せばいいというものではない。ただし、必要だと思われる部分は勇気を持って変える姿勢は貫いていかなければならない。

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