世界の金融業務はロボットに取って代わられるのだろうか?

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著:Nafis Alam(サンウェイ大学 Professor of Finance)、Graham Kendall(ノッティンガム大学 Professor of Computer Science and Provost/CEO/PVC)

 時はは2030年。あなたがいるのは、ビジネススクールの講堂だ。しかし、金融の授業を受ける学生の数はごくわずかだ。

 受講者数が激減したのは、何も教授のスタイルや学校のランク、そして講義のテーマに問題があるわけではない。学生がいないのは、金融学を専攻しても就職できない、というシンプルな理由からだ。

 2017年現在、金融や経理、経営そして経済は就職に強いため、世界中の大学、特に大学院ではもっとも人気の高い科目だ。ところが、それが変わりつつある。

 コンサルティング会社のOpimasによると、今後数年間で、大学におけるビジネス関連の学位は人気が下落していくという。この分野において、2025年までに23万件の仕事が「人工知能(AI)エージェント」によって消滅する可能性があるという調査結果が出ている。

 金融の未来は、ロボアドバイザーなのか?

◆次世代のAI
 市場アナリストの多くがそう確信している。

 調査会社のアイテ・グループ(Aite Group)によると、自動投資サービスによるポートフォリオは2014年から2015年にかけて210%増加したという。

 ウォール街ではすでに、ロボットによる業務が増えており、何百人もの金融アナリストに代わってソフトウェアやロボアドバイザーが使われている。

 オックスフォード大学の学者2名が2013年に発表した論文によると、アメリカでは仕事全体の47%が今後20年間で自動化される「リスクが高く」、失われる仕事のうち54%が金融関連のものだという。

 これはアメリカに限られた現象ではない。インドの銀行でも、職場にロボットを導入したことで、2四半期連続で従業員数が7%減少したと報告されている。

 しかし、これは当然のことかもしれない。結局のところ、銀行や金融業界は情報処理を中心に成り立っており、通帳更新や現金預金といった主要業務の一部はすでに高度にデジタル化されている。

 現在、銀行や金融機関は運用や資産管理、アルゴリズム取引やリスク管理など、通常は人の手で行ってきた金融業務の自動化を目指し、急速に次世代のAIテクノロジーを取り入れている。

 たとえば、JPモルガンは機械学習システムで動作する契約インテリジェンス(COIN)プログラムを利用し、融資関連文書の審査にかける時間短縮、そして融資サービスミスの減少を実現した。

 このように金融部門でAIの役割は拡大しており、アクセンチュアは今後3年以内に、銀行が顧客とかかわるうえで、AIが主要なツールになると予測する。同社が発表した2017年のレポートによると、AIはよりシンプルなユーザーインターフェイスを実現し、銀行がより人間的な顧客体験を生み出すのに役立つという。

 たとえば王立スコットランド銀行やナショナルウェストミンスター銀行は間もなく、ルーボ(Luvo)という仮想チャットボットを使って顧客と交流するようになるだろう。

 IBM ワトソン(Watson)のテクノロジーを搭載したルーボは、人間のやりとりを理解し、またそこから学習することができ、最終的には生身の労働力が不要になる。

 一方、インドでは大手民間銀行のHDFCが、Evaの運用を開始した。これはインド初となるAIをベースにした銀行業務用チャットボットで、何千ものソースから得た知識を同化し、0.4秒以内にシンプルな言語で回答を提出すことができる。HFDCでは、Evaを同行初の支店アシスタント・ヒューマノイドロボ「Ira」とともに活用する。

 さらにAIは投資業界にも進出している。多くの金融アナリストによると、学習や思考が可能な高機能のトレーディングマシンが登場することで、今もっとも高度で複雑な投資アルゴリズムさえも、ゆくゆくは原始的に見えるようになるという。

 現在、定量分析アナリストが従来型の統計ツールを使用して取引や投資、戦略を評価しているが、アドバイザーロボを使えば、企業はわずかな時間でそれを行うことができる。

 銀行部門の破壊的な自動化を「ウーバー・モーメント」と称したバークレイズ銀行の元CEO、アンドニー・ジェンキンス氏は、テクノロジーによって今後10年で世界中の銀行支店や金融サービスの従業員数が半減すると予測する。

 さらば、人間のファンドマネージャー。

◆将来的に、金融テクノロジーの学生はどうなる?
 大学は今、金融関連雇用市場のテクノロジーによる崩壊に適応するため、教育計画を改訂している。

 スタンフォード大学とジョージタウン大学のビジネススクールはいずれも、学生に金融テクノロジーを極める手法を提供するべく、自校のMBAプログラムにいわゆる「フィンテック」を組み込む予定だ。

 また、ウェールズを拠点とするレクサム・グリンドゥル大学は、イギリスで初めてフィンテックの学士号を設立したと発表している。

 しかし、フィンテックは最先端分野であり、その内容も多岐にわたる、大学の教員もAIにかかわる高度なトピックはもとより、金融テクノロジーの基礎から教えるシラバス作成に苦戦している。さらに専門の教科書や専門家が不足していることも課題だ。

◆狂喜するロボット
 AIや自動化が、実際に銀行にとって有利に働くのかどうかはいまだ明らかではない。

 多くの顧客は人間味がある方を好むため、金融機関がそれを手放してAIに依存しすぎれば、しっぺ返しにあうかもしれない。

 リスクは他にもある。ロボアドバイザーは単純な投資ポートフォリオを作成する際には安価で時間を節約できるというメリットがあるが、市場の変動が激しくなれば適切な予防措置を講じることに苦戦する恐れがある。特に、数千もしくは数百万というマシンが高速で動作しながら、同一の作業をするならなおさらだ。

 2012年8月、ナイト・キャピタル・グループの株取引ロボが、資金を湯水のように使い、わずか45分で4億4000万ドル(約497億2千万円)の損失を出した。

 このような優れたロボトレーダーの性能に高い期待が寄せられることで、世界中の主要な取引所に混乱が起きる可能性がある。

 複数の不安定な変数と、多次元経済予測モデルを組み合わせることが可能な、全ての投資家向けの単一アルゴリズムなど存在しない。それを期待すれば、金融市場に致命的欠陥があるかもしれない、と証明することになりかねない。

 そして、ロボットが誤った判断を下した場合、投資家はどのように保護されるのだろうか?米国証券取引委員会(SEC)は、ロボアドバイザーにも人間の投資アドバイザーと同様の登録制度が必要だとしている。さらにそれらは、投資顧問法の対象となる。

 しかし、人間の行動を管理するために作られた金融規制をロボットに適用するのはむずかしい。

 投資家保護を目的に定められたSECのルールでは、アドバイザーが自らよりもクライアントの利益を無条件に最優先させる、という信任基準を遵守するよう求めている。アメリカの監督当局もこれを憂慮しており、決定と勧告が推測ではなくアルゴリズムによって生成された場合、ロボットが規則に従うことが現実的に可能なのか、と疑問を投げかけている。

 この難題によって、明らかになることが1つある。つまり、機械が完全に人間の代わりをするのはむずかしいということだ。ロボットが不正に動作した場合、必ず生身の人間がチェック役を果たすことが求められる。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac